2007-04-29

『俳句界』2007年5月号を読む

『俳句界』2007年5月号を読む ……五十嵐秀彦

まず目次を開く。
先頭にある小澤實「巨人」50句が目を引く。
栗林浩の「寺山修司の俳句を考える 修司忌に寄せて(上)」がある。要チェック。
そして今月号の特集は、「新緑薫風大特集 吟行 ”書を捨てよ、野へ出よう!”」で、どうやら吟行がテーマらしい。このタイトルは五月の修司忌からの連想か、ちょっとズレている感じはあるが、まあ洒落としよう。
第9回俳句界賞の発表記事もあり、今月号はチェックが多い。


特別作品50句「巨人」 小澤實 p26-

  セイタカアワダチソウ秋草に入るや否や
  鮫の子の目玉つつきに来る鳥よ
  潮音に卓袱台ひびく夜寒かな
  人形の正面はるか見る寒さ
  大寒の骨壷あまくにほひけり
  立ち上がり巨人去りゆく枯野かな
  川貫く枯野を以て都とす

この他にも秀句が多く、読み応えのある50句であった。「鷹」を飛び出し立机してしばらくたつ小澤實だが、目の離せない作家の一人である。

「寺山修司の俳句を考える 修司忌に寄せて(上)」 栗林浩 p38-

これは非常に面白い評論だ。寺山の盗作問題を正面から取り上げて、それを正当化せずに、矛盾しながらもせつない寺山の青春時代を書いていて興味をそそられる内容。次号で完結とのことなので6月号が出たあとに、私の考えをまとめて書くことにしたい。今回は紹介するにとどめる。ぜひ読んでみてほしい。

「風かおる五月新緑大特集 書を捨てよ、野に出よう」 p101-

まず冒頭の小島健の「総論『現代吟行考』」を読んでみよう。現代俳句から自然詠が減った理由としてアニミズム的なものへの蔑視が関係しているのではないかという指摘は、もっとふくらませてほしいところであったが、初心者向けの吟行紹介がこの文の目的のようであり、軽く通り過ぎてしまったところがいかにも惜しい。

俳句総合誌の特集企画のほとんどが初心者向けの企画なのはなぜだろう。自然と詩との関係をもっと突っ込んで書けるはずの人に初心者向けの文を書かせているのである。悲惨なことだと私は思うのだが。

座談会「歩いて俳句、身体で俳句」 p106-

「雲」の男性陣3人と、「ににん」の女性陣3人にそれぞれ別な場所で吟行してもらい、その後に句会と座談会をするというユニークな企画。男性陣が新宿御苑、女性陣が歌舞伎町というのは面白い。

  春深し真昼はみんな裏通り   岩淵喜代子

企画としてはとてもよかったが、座談会の内容はおざなりで、これも初心者向け吟行紹介に終わってしまったのが実に残念。いっそ歌舞伎町吟行一本にしぼってみたら良かったのかもしれない。

〔評論他〕

坂口昌弘「ライバル俳句史・17・やまととみちのく 青畝と青邨」 p138-

連載17回目ということは34人の俳人について書いてきたということで、坂口氏の腕力(?)に驚嘆してしまう。私にはとうてい真似の出来ないことだ。
《山本健吉の評論が今日においても読者の心を打つのは評論家自身が自然を愛し自然の生命がみえているからである。「評論家も山本健吉のやうな人が五人ゐれば、俳壇は変つてくるでせう。そして俳壇にとつて幸福なことです」と青邨は座談会でいった。青畝も青邨も俳句の評論家の存在が大切という。俳句の評論は俳句の理解が最初で最後である。自然を愛することなくしてどうして俳句が理解できるのか。言葉の配合とか、切れ字とかの技巧や技術論で俳句の生命は得られない》
この坂口氏の発言に大いに拍手を贈りたい。

車谷長吉「今月の徒然草」 p47-

今号で最終回とのこと。もっと読みたかった。
《もうあらかた書くべきことは書きつくした。少なくとも事「自分」に関することは、すべて書きつくした。あとは「他人」の問題である。併し他人は自分のことを書かれるのを厭がる場合が圧倒的に多い。そこで仕方なく古い新聞記事からネタを拾ったり、昔の人のことを調べて書く以外に途はない。して見れば、文士としての私にも「無常のかたき」が迫っているのである》

加藤郁乎の連載「實話私註」(p58-)もクセモノである。
『俳句界』という雑誌は連載散文に見るべきものが多い。その点では他誌を抜きん出ている。
《日頃、現代俳句を尻目にイナセの句作りを心がけていた》とは、いかにも郁乎らしい弁だ。

  鶏が鳴く東銀座の夕霧忌

俳句界賞 p149-

偶然ではあるが、この賞は私の親しい友人が過去二人も受賞している。それゆえ近しい思いのする俳句賞である。昨年はいつき組の畏友・渡部州麻子氏が受賞し、今年もいつき組から加根兼光氏が受賞した。松山の俳人・夏井いつきを組長とする俳人集団いつき組は、今最も勢いのあるグループのひとつだろう。

  ピルケースには舌下錠花カンナ
  小文字aを真赤と決めて毛糸編む
  野鳩ホウと告げる四万六千日
  三伏や父の残せる露佛辞書    受賞作品「露佛辞書」加根兼光より


4 comments:

匿名 さんのコメント...

>潮音に卓袱台ひびく夜寒かな<
う~ん・・・「潮」は朝だから・・・。
漢字は難しいですね。

匿名 さんのコメント...

百花さん
コメントありがとうございます。

漢字?
なるほど、文字の中に朝が潜んでいる。
そのことをどう捉えるか。
ひらがなで書けばどうなるのか。
漢字があり、かな文字があるから、日本語詩は面白いのでしょうね。

※本来のアカウントでコメントが入力できなくなってしまって匿名でRESしました

(秀彦)

匿名 さんのコメント...
このコメントはブログの管理者によって削除されました。
wh さんのコメント...

↑動作testののち削除しました。