2007-09-16

さくら友蔵を読む 三島ゆかり

さくら友蔵を読む ……三島ゆかり


テレビを観ていると、ときおり作中人物が俳句を詠むことがある。具体的な句例は省略するが、サザエさんや波平さんを見ていると、どうやら初心者であることを視聴者にも分らせるためのコツのようなものがありそうである。

① 有季定型である。

② 文語体ではない。

③ (大抵の場合、作中で字は出てこないが)旧仮名ではない。

④ 切れは持たない。

⑤ 俳人しか知らないような季語は使わない。

ここまでは、まるでどこかの「俳句大衆化」論者みたいでもある。

⑥ 切れ字は「や」しか使わない(「や」は俳句の象徴なのである)。その場合も、意味的な切れは持たない。

⑦ 「たのしい」「おいしい」「きれい」などの感情を表わす語を使用する。

⑧ 字数合わせのために、話し言葉を使用する。「たのしいな」など(そして映像では、わざわざ指を折りながら詠んでいたりする)。

⑨ 句の題材としては次のようなものを詠み込む。

  ・過剰な善意

  ・孫などの親密な子ども

⑩ 散文としても意味が伝達可能である。



さて。ここに、さくら友蔵という俳人がいる。いうまでもなく、『ちびまる子ちゃん』の主人公・まる子のおじいちゃんである。友蔵はとんでいる。友蔵の句を見てみよう。番組の公式ホームページに掲載された句は次の四句。

1) ウニなんてわしもたべたいだけどシメサバ


2) だまされる老いぼれじじいここにあり

3) 感動の涙はじつに美しきかな

4) 明日こそ何か良いことあるだろう

また番組を観ている方ならご存じの通り、「友蔵 心の俳句」と銘打ちながら、ときには短歌であることさえある。

5) 迫真の演技むなしく無視をされ ヒロシといふ子の 我は父なり

いかがだろう、このとびかたは。友蔵は俳句の垣根をらくらく飛び越え、季語もなければフォームも無視し、そのくせ文語を駆使し「かな」なども使用している(「美しき」は「はしき」と読むのだろうか)。そのように自在な文体の選択を用いた上で特筆すべきは、ほとんど標語のようにあっけらかんと明確に意味が提示されるにもかかわらず(あるいは明確に意味が提示されることによって)、逆にノンセンスとなり得ていることである。そこにはプロパーな俳人たち(傲慢な言い方だが)が忘れてしまった極意が何かしらあるのではないだろうか。友蔵の句を見ていると、そのへんの普通の句が檻に入れられているような気さえしてくるのである。

  *

佐々木「さくらさん、どうです。やはり俳句ですから、ここはひとつ季語を入れてみてはいかがでしょう。」

友蔵「そうじゃったのか。知らなんだ。わしは…、わしは…、今までいったい…」

まる子「まあ、まあ、おじいちゃん…」

友蔵「いいか、まる子、おじいちゃんはやるぞ、見ておれ。

汝は海胆我は〆鯖秋の暮

老ゆるとも騙さるるとも秋の暮

ゆつくりと涙流るる秋の暮

おのづから明日には明日の秋の暮

どうじゃ。」

佐々木「ほう、さくらさん、見違えるようです」

まる子「なに言ってんだかぜんぜん分らないよ」

友蔵「まる子も大人になれば、きっと分かる。俳句とはなに言ってんだかぜんぜん分らないものなのじゃ」

佐々木「そのとおりです。さくらさん」

まる子「ずるいよう。佐々木さんとおじいちゃんしか、分んないじゃないか」

佐々木「ほっほっほ。まる子さん。俳句には結社というものがあって、分かり合える人が集まるから心配ないのです」

まる子「結社って言ったら、あれじゃん。覆面をした人たちの秘密結社とか…。まる子、佐々木さんが人さらいに見えてきたよ。おじいちゃんを返してよう」

友蔵「ほっほっほ。これは傑作じゃ」


5 comments:

匿名 さんのコメント...

今回の三島ゆかりさんの文章、新趣向でとても面白かったです。ユーモアの中に結構洞察も効いていて。

匿名 さんのコメント...

季語を入れるだけで、
これだけ如実にダメになるとは!

示唆深いです。

reprise

匿名 さんのコメント...

季語を入れると、という問題では
なさそうな。確かに、駄目駄目に
なってはいますが。自由律俳句と
有季定型俳句の懸隔とか。
ところで、一応「ウニ」は、春の
季語……。

匿名 さんのコメント...

駄目駄目な俳句は任せて下さい。ふふふ。

寿司ネタとしてのウニは一年中あるので、記事の中では季語とみなさないことにしました。

民也 さんのコメント...

 レッドスネークのバラード by民也

春ひとり吉野の土を踏んでいて
穴を出るあなたの姿見かけたの
レッドスネーク あなたどうして真っ赤なの
レッドスネーク それはあなたに惚れたから
レッドスネーク 玉がなくてもかまわない
レッドスネーク だつてわたしも持つてないから

夏ひとり四万十川の夕涼み
泳いでるあなたの姿見かけたの
レッドスネーク こんなところで逢うなんて
レッドスネーク 趣味が合うのねわたしたち
レッドスネーク 泳ぎ疲れてただよえば
レッドスネーク あなたはまるで赤ふんどしね

秋ひとりいろは坂越えツーリング
穴惑うあなたの姿見かけたの
レッドスネーク 全速力の赤ら顔
レッドスネーク 見失つたらどうしよう
レッドスネーク そんな心配いらないわ
レッドスネーク ほうらこの先検問してる

冬ひとり雷門を通り抜け
煤逃げのあなたの姿見かけたの
レッドスネーク いまもあなたが居るなんて
レッドスネーク 素敵なことね温暖化
レッドスネーク 眠そうな目をしているの
レッドスネーク コーヒーいかが紅茶もあるの


※俳句って、こんなもの。