2010-06-27

【芝不器男俳句新人賞・公開選考会レポート】映像配信は如何にして(幸せに)文字通信に敗れたか

【芝不器男俳句新人賞・公開選考会レポート】
映像配信は如何にして(幸せに)文字通信に敗れたか

佐間央太


『不器男賞の公開選考会、Ustreamとかでネットで生中継って出来ないのかな。』

昨年今年辺りからとみに流行りのツイッター。関悦史さんがそうつぶやいたのは、芝不器男俳句新人賞最終選考会を数日後に控えた、6月17日朝のことでし た。そのつぶやきに、さいばら天気さん、佐藤文香さん、小川春休さん、たちが反応。間もなく、「ネット接続環境」と「主催者側の許可」が解決できれば、と いうところまで話が進みます。
そこで中村安伸さんが事務局に問い合わせをされました。が、結果は残念ながら、『インターネット接続環境は無い』と いう回答。ツイッター上の会話は「当日ツイートで中継」という流れに落ち着きます。

関さん曰く
『多人数でのツイッター同時多元中継みたいになりそうで、それはそれで 面白いかもしれません。』
17日の夜11時頃のことです。

私はこの日は仕事に追われていてツイートをチェックできず、18日午前2時頃帰宅した後に一連の会話を見ます。

≪もったいない≫

Ustreamというのは、簡単な機材を用意するだけで、誰でも気軽に生中継ができる、インターネット上のサービスです。カメラと、PCと、インターネッ ト接続環境の3つがあれば大丈夫。昨今流行の iPhoneであれば更に良し。他に何も用意せずともこれ一つで中継、出来てしまいます。技術系の人間としては「ここであきらめるのはもったいない!」と いうところ。

 「ならお前が」

というところでありますが、あいにく私、客先へ行く予定が入っていて当日無理なのですよ。コンピュータ系・ネット系の祭りでは常として、こんな時は誰かに 泣き言を言えば、不思議とどこからか有志の方が現れて助けてくれるものなのです。が、現場は秋葉原でもなし、さすがに万事休す・・・。

けれども私は既に、さいばら天気さんのツイートに触発されておりました。
天気さん曰く。
『ストリーミング配信その他、「有志」が1人いれば実現するのですか ら、話は簡単なはず。それが簡単に行かないのは、有志「0人」と「1人」のあいだの大きな距離。なんでも、そうなわけですが。』

≪そのゼロ、なんとかイチにしたい≫

能力的に可能であって、その気もあります。あとは仕事の都合だけ。3日分の予定を1.5日、ぎりぎり2日で終えられれば松山へ行けます。無論その間連続徹 夜を覚悟の上ですが。

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選考会当日 早朝

==>> To yasnakam(中村安伸)
おはようございます 今日朝10時10分頃JR松山駅に着く予定です。PocketWifiとWiMAXというネット接続装置持参致します。各方面ご了承 頂けるか、回線がうまく繋がるかいずれも不明ですが。こちら携帯 0x0-xxxx-xxxx です。まず会場へ向って動作確認する予定です。
4:44 AM Jun 20th

==>> To Seki_Etsushi(関悦史)
おはようございます。中村さんにDMしてあるのですが今日ご覧にならないかもなので。お手数おかけ致しますが私の携帯番号0x0-xxxx-xxxxもし 中村さんにご連絡取れましたらお伝え頂けませんか。
6:48 AM Jun 20th

<<== From yasnakam(中村安伸)
お疲れ様です。私は13時すこし前に会場入りする予定です。なにかありましたら携帯0x0-xxxx-xxxxへご連絡ください。
7:03 AM Jun 20th

==>> To yasnakam(中村安伸)
ありがとうございます。まずは技術系を中心に現場の確認に向かいます。ご了承の方は私からもどなたか見つけていくつもりですが、そういう動きがある、とい う話、適宜お伝え頂けると何かと助かりそうです。よろしくお願い致します。
7:29 AM Jun 20th

<<== From yasnakam(中村安伸)
事務局へメールしておきます。事務局から直接_otさんへ連絡したいという場合、連絡先
を教えてもかまいませんか?また、お名前はなんと伝えればよいでしょうか。ちなみに事務局は会場三階にあります。
7:59 AM Jun 20th

<<== From yasnakam(中村安伸)
From yasnakam
おつかれさまです。主旨の説明と、許可を求めに来る人がいるということを事務局宛にメールしておきました。
8:30 AM Jun 20th

==>> To yasnakam(中村安伸)
ありがとうございます。携帯番号お伝え頂いて構いません。名前は央太(おうた)でお願いします。ただ、今携帯のバッテリがやばいので会話切れそうです。松 山10時ホールへは11時には着けそうです。
8:48 AM Jun 20th

==>> To Seki_Etsushi(関悦史)
中村さんDMご覧頂けました。携帯番号も届きました。お手数おかけしました。ありがとうございます。
7:31 AM Jun 20th

<== From Seki_Etsushi(関悦史)
よくわかりませんが中村さんと連絡取れたようでよかったです。
9:21 AM Jun 20th


『松山は雨が降っています』

なぜか板倉卓人さんの声が聞こえてくるJR松山駅前でした。傘と携帯電話の充電器を買い、ぼっちゃん電車に飛び乗ります。会場のひめぎんホールは、その向 こうにサッカーのグランドでもありそうな、大きなエントランスを持つ巨大建築でした。

≪これはやばい≫

今回持参した接続機器は UQ WiMAX と、PocketWifi の2つ。WiMAXは回線速度が速いですが、強固な建物を通りにくいタイプの電波を使っています。最悪通信自体ができない。PocketWifiはある程 度鉄筋コンクリートにも強いですが、代わりにスピードが遅くなります。つまり、配信映像がカクカクしたり、音が途切れたりの心配。いずれにせよ、立派な建 物であることは、私にとっては逆に不安要素だったのです。ともかくやってみるしかない。

10時45分。会場の階へ上がるとまだお二人ほどしかみえません。近 くにいらっしゃったお一人に声をお掛けしてみます。

「すいません。芝不器男賞のご 関係の方でしょうか? 本日の選考会なのですが、映像をインターネットで中継させて頂けないかという話が若手の俳人の方々から出ておりまして、その件で少 しご相談させて頂けないでしょうか?」

「えぇと、中村さんから連絡の あった…」

「はいそうです!ご了承頂けれ ばというのが前提ですが、まずは技術的に本当に可能かどうかの確認をさせて頂きたいと思いまして…。」

「実際やるのはもちろん先生方 おそろいになって、お聞きしてからということになりますが、とりあえずどうぞ確認してみて下さい。」

「ありがとうございます!」

急な話で初対面にも関わらず、とても丁寧にご対応下さいました。中村さんからご連絡頂いていたおかげでもあります。

会場へ入ると、これは相当手馴れた方の仕上げです。会場の隅やステージ袖、奥の見え方、音響機器の配線の取りまとめ、照明、生花。備え付けの機材であって も、使い手によっては雑然としてしまうものです。そういうところがここには全くありません。その隅でごそごそ…とやっていても埒が明かないので、一番前の 席へ。見ると下手側には事務局の方の席があります。仕方なく上手端へ。機材を取り出し配置、準備。そうこうしている内いつの間にか、私の座ったブロックの 後ろに立て札が立っていました。 『マスコミ席


技術確認の結果、WiMAXは接続成らず。PocketWifiは成功。速度もなんとか。映像配信もうまく行っています。よし。

「ありがとうございました。無 事配信できることが確認できました。」
「そうですか、それは良かった です。」
「あとは先生方にご了承頂けれ ば、ですが、なにせ急な話ですので。」
「そうですね。どうなるかは分 かりませんが、お聞きしてみますのでお待ち下さいね。」
「どうもありがとうございま す。よろしくお願い致します。」

階下のホールへ出て中村さんへ電話。
「どうもはじめまして央太で す。まだ先生方にご了承頂けるかどうかは分かりませんが、ひとまず配信はできることが確認できました。」

11時10分。選考会開始まであと2時間。

・・・

11時35分。先生方にご検討頂いた結果を事務局の方が伝えに来て下 さいました。結果、今回の配信は無しということに。なにせ急なことで検討する時間も何もないというのが問題。事務局の代表の方もおいでになり「せっかく準 備してくれたのにすまんね。」とまで声を掛けて頂き、逆にこちらが恐縮してしまいました。

お忙しい中ご対応下さいました事務局の皆様、また急な話に検討の時間までお取り下さいました選考委員の先生方へ、ここで再度御礼申し上げたいと思います。 どうもありがとうございました。


11時38分。中村さんの留守番電話へ伝言。
「今回は配信無しということに なりました。」

12時10分。中村さんより電話
「お聞きしました。色々ありが とうございました。」
「いえいえこちらこそ。」
「後ほど会場でお会いしましょ う。」
「はい、よろしくお願いしま す。では。」


『配信なしです~』

大きな問題が残りました。私のツイートを覗いておられた方へは、「配信可能かどうかは未確定、とはいえ、できるかもしれない」と伝わっています。その皆さ んへ、配信しないことをお伝えせねばなりません。ですが、「技術的に無理でした」と嘘を言うのもおかしいですし「選考委員の方々にご了承頂けませんでし た。」ではさらにまずい。そんな言葉が伝われば「器量の小さい奴らめ」などという話が遥か彼方で生まれているのがインターネットの世界。実際問題今回は、 配信自体の可不可というより、その検討以前の状態。ここで全方位とも問題にならず、三方一両損、あるいは当方三両損の形になるように…、としばらく推敲し つつつぶやいたのがこれでした。

「一部の方へお知らせ 選考会配信なしです~」

(このツイートまでをまとめたものを用意しましたので後ほどどうぞ。http://togetter.com/li/30796

時に12時39分。

ぐるるるる~。
そういえば何も食べてなかった。


≪サトアヤさんのおかげ≫

今回の選考会について、何か伝えたい、できることがあれば、と思っておられたのは私だけではありません。他にも以前からそう表明しておられた方が何人かい らっしゃいました。けれど私の場合実際には・・・選考会の中身にすっかり引き込まれ、選考委員の方々の話を聞き、資料をめくり、と伝えるどころの騒ぎでは ありません。
と、ふと目の前に置いたPCのツイッターの画面をリロードしてみると、なんと、佐藤文香さんのツイートがびしばし決まっているではありませんか!
その内容のすごさは皆さんご覧になった通りです。現場に居て「ツイートしようかな?」と思っていた他の方々もきっと「サトアヤさんイイ!」と思われたに違 いありません。
その結果、佐藤さんお一人に負担をかけることにはなりましたが、

「a8caさんを全力でブブゼる。(ブブゼる→ブブゼラで応援する)」

この藤幹子さんのツイートをはじめとする「全員サポーター状態」が生まれていたのです。
佐藤さんご本人からは

「なぜ実況したかの理由→ RT @a8ca: @Kido_Shuri 本当にお疲れさまでした!はじめ城戸さんに「実況よろしく」のカンペ(?)を出していただき、やりますサインを出してしまったために、ふんだんにつぶやく 結果となりましたが、がんばった甲斐がありました。 #fmemo」

と裏話ツイートが出ていますが、それだけで皆さんお任せしたりしませんよね。きっと「これはお任せしたい!」と思ったからお任せしたのでしょう。

ここで映像のことも振り返ってみると、もし配信していたならば、皆さんも私同様その中身に集中していたはず。それに対して、数分おきに送られる佐藤文香さ んの情報の断片は、その俳句の如く、的確に、伝えるべきものを伝え、逆に削ぎ落とし、時間的にも思索的にもゆとりも生み出していました。
それは今、記録されたアヤカツ イートを辿りながら資料をめくっている私が、選考会その日その場よりも、より内容を理解できてしまっているほどです。(ぜひ学生さんや生徒 さん向けに「ノートの取り方」の本を書いて欲しい、くらい。) きっと当日ツイートで観覧されていた皆さんも同じように、現場を感じ取っておられたのですね。

(選考中のリアルタイムアヤカ ツイートはツイッターでの #fukio タグ検索のほか、こちらのまとめでもご覧頂けます。http://togetter.com/li/30831


さらに技術屋として無理やり次の手を考えてみるならば…、映像を配信しながら、会場にプロジェクタを備えてのツイート投影。つまり擬似双方向状態。現状で は会場に居る観覧者が思いを口に出すことはありませんが、選考内容にリアルタイムのツッコミ(まさにほとんどがツッコミレベルになるでしょう)を入れられ る環境ということになります。こうなるともう全くの別世界。俳句の選考会にふさわしいのかどうかも疑問。
ですが、そういう文化にさらされてきた方が段々増えていきますから、将来は「それでいいんじゃない?」なんてことになるかもしれませんね。

「ツイッター実況は、ユースト実況より、むしろ良。こっちが張り付いて なくても流れを追える。つくづくサトウ氏のGJ。」

今回さいばら天気さんもこうツイートされています。機能的な面からも、映像配信と文字通信の利点欠点が明らかになったイベントでした。

結論として、刻一刻状況が変わり、誰もが参加していることが目的ならば、映像が有利。けれど単純なライブ映像配信は、少なくとも俳句の選考会に於いては最 善の手ではない。そこに佐藤文香さんが居る限り。



あとがき

本来この文章は、公に出来るものではありませんでした。途中にも書きましたが「配信できなかった」からです。それが、佐藤さんのツイートのおかげで、「配 信できなくて良かった」ことになった。そのおかげで、そのまま文章にすることができたわけです。ありがとうございます。
a8caさんあなたは本当にすごい。

なお、配信しなかった映像は記録としては残っています。非公開ですが、その取り扱いについては破棄の如何を含め、芝不器男俳句新人賞参与西村我尼吾氏に一 任するつもりでおります。
願わくば、選考委員の方々が如何に真摯に向き合って下さっているかを示す資料として、世の全ての応募者の方々にお見せしたいところなのですが。
ね、関さん。(と振ってしまう。)

最後に、松山を離れる直前、坪内稔典奨励賞を受賞された、たかぎちようこさんから「それは言わないとだめですよ~。だってつまんないじゃないですか。」と 叱られたので、私のことを少しだけ。
若い頃、少しの間だけ自由律の結社に属したのが俳句との出会いです。そこを出た後はすっかり俳句から離れておりましたが、ある時、神野紗希さんのカンバス の句をたまたま見かけたのです(青葉風を知らぬままに)。高校生、ということへの驚きや、本当の新時代の風を感じて、そのつもりは無かったのにふらっと、 近辺へ舞い戻ってしまいました。
詠み手としては気力も抜け切っておりますが、今まさに俳句を楽しんでいる、ところです。


2 comments:

関悦史 さんのコメント...

振られてしまったので出てきました。
私、なぜ_otさんが現場にいたのか当日は全然わからず、応募していた様子もないしと不審に思っていたのですが、まさか本業の日程を繰り合わせて中継のために松山まで飛んでくださっていたとは。
これだけの熱意と行動力の賜物として残った貴重な映像記録です。
来られなかった人たちにもぜひ見せたいですよね。
ね、我尼吾さん。(と振ってしまう。)

Kika さんのコメント...

松山から帰京後にはじめてツイッターの記録を拝読しました。リアルタイムの文字による実況中継なのでディテールは省かれているものの、独特の臨場感が日本中(世界中)へ確実に伝わっており、文明の利器とサトアヤさんの熱意に感服してしまいました。関悦史さのご報告も労作で、資料的に貴重です。あわせて多謝。