2012-12-23

林田紀音夫全句集拾読 245 野口裕


林田紀音夫
全句集拾読
245

野口 裕





海の色してしみじみと夜がくる

燈籠の廻る夜が来て深くなる

海に似て朝空はあり赤蜻蛉


昭和六十一年、未発表句。三句連続の引用。一句目の「しみじみと」にあたる情緒を、二句目では「深くなる」、三句目は季語の「赤蜻蛉」が担う。一句目は、季語の持つ効果を無季語にて対応する場合の一例と見ることができる。二句目では、季語と無季語が引っ張り合うような感があり、三句目は無季の語の働きを抑えて句全体のまとまりを優先している。動機となる感興は、篠原鳳作の海の句か。

 

雨がきて雨溜めて身を横たえる

昭和六十一年、未発表句。雨が年月の象徴にも、病苦の象徴にも取れる。簡単にそう取れるところが、句を浅くしているか。代表句「黄の青の赤の雨傘誰から死ぬ」と比較したとき、事態の悪化がすでに訪れて不安の不在をもたらしている。壮年と老年の差だろうか。

 

合歓の花夕べは淡いひかり射す

昭和六十一年、未発表句。有季定型の句として、可もなく不可もなくと言ったところか。射してくる光を受けとめる主体の知覚が、差すではなく「射す」を選ばせたのだろう。だが、「淡い」としたことで認識自体が浅くなった感は否めない。認識の深さと、季語「合歓の花」のありようがミスマッチだったか。


狛犬に落葉ひそやかな夕空

昭和六十一年、未発表句。中七音が八音、下五音が六音という句跨がり。紀音夫には珍しい変形リズム。内容的には、、第一句集の「狛犬にそびらの虚空のぞかるる」を思い出させる。仏教習俗を句材として取り上げることの多い紀音夫だが、狛犬は久しぶり。かつて狛犬の背中に見たものを反芻しつつ、落ち葉を見つめている図と取れる。

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