2013-01-13

【週俳12月の俳句を読む】興梠 隆

【週俳12月の俳句を読む】
You Can't Always Get What You Want

興梠 隆


洗面に小虫の溺れ冬に入る  戸松九里

死ぬときに虫も果たして苦しむかなんて普段は気にもしない、ただの虫けらとしか思わない。ただ、水に落ちた虫がジタバタもがく様子を目にしたときだけは、虫けらも身の回りの異変を感じて、必死に何とかしようとしているのがわかる。自分は寝ぼけた頭でそれを真上から覗き込んで、もがいて描く水面の軌跡がきれいだとか、今日の朝の会議は何時からだっけ、などと別のことを考えていたりする。


ひよいと出す手が綿虫を殺めけり  山崎祐子

死の一瞬は突然やってくる。綿虫を本当に自分は見たことがあるのかどうかあまり自信がない。ずっと僕が綿虫だと信じてきたのは、どうやら、けさらんぱさらんという違う生き物だったらしい。綿虫とも気づかずに綿くずと思って丸めたこともあったかも。


マフラーに荒れし唇引つ掛かる  平井岳人

ホッカイロ最後は硬くなりにけり  山崎志夏生

暖房具を素材に、少しも暖かそうでない景を詠んだところに魅かれます。非情の世界。


雪が降る頭をのせる枕かな  上田信治

夜中、ベッドの中で目が覚める。どうやら外は雪が降り始めたらしい。見なくても気配でわかる。いま窓の外で降り続く雪を頭の中に思い描く。雪が白い枕カバーにゆっくりと降り積もっていく。


第293号 2012年12月2日
戸松九里 昨日今日明日 8句 ≫読む
山崎祐子 追伸 10句 ≫読む
藤井雪兎 十年前 10句 ≫読む
第294号 2012年12月9日 
竹中宏 曆注 10句 ≫読む
第295号 2012年12月16日
山崎志夏生 歌舞伎町 10句 ≫読む
平井岳人 つめたき耳 10句 ≫読む
第296号 2012年12月23日
上野葉月 オペレーション 10句 ≫読む
第297号 2012年12月30日
上田信治 眠い 10句 ≫読む


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