【週俳5月の俳句を読む】
穏やかな一日
興梠 隆
横たへて長し艇庫のオールの柄 菊田一平
床に置かれてあるオールを詠んだだけなのに面白いのは「長し」の発見があるから。
ジョン・ブレンダン・ケリー(John Brendan Kelly、1889-1960)は、アイルランド移民の息子で煉瓦積工だったが、1920年のアントワープ五輪と次のパリ五輪のボート競技で金メダル3個を獲得して一躍英雄に。後に実業家に転身して成功を収め資産家となったアメリカンドリーマーの一人である(ちなみに、ハリウッド女優からモナコ王妃になったグレース・ケリーは彼の娘)。そのボート選手としての偉業を讃えて作られた彫像がフィラデルフィアのフェアモントパークにある。こういう像。
スペースの都合もあったのだろうが、ボートは前後を大胆にカットされてまるで段ボールか『子連れ狼』の手押し車、オールも先端の水掻きの部分がカットされて単なる棒になってしまっている。ちょっと情けない。
ところで、長い句といえば、藤後左右の「スキー長し改札口をとほるとき」があるが、スキーヤーの銅像ってどうなんだろう?と心配になってググってみたら、こんな写真が。
日本陸軍にスキーを教えたレルヒ少佐の像。安心しました。長くしっかりはみ出しています。
音立てて雨が苺の花に葉に
「音立てて」がいいですね。激しい雨を繁茂した莓の葉の鮮やかな緑がしなやかに受け止めています。
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紙魚走る大正五年の奥付に 金中かりん
色変へし限定本を曝すかな
ふだん使い慣れたもの以外に、たまに別の歳時記をめくるといつも新たな発見があります。例えば、水原秋桜子編の『俳句小歳時記』の「虫干」の項。曰く「洋紙を用いた書籍は紙魚に食われることがないから曝書することはない」なるほど紙魚に食われるのは和本だけなんですね。和本とシャンソンのレコードと軒忍に囲まれた穏やかな夏の一日。
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九階から上半身出す聖五月 金原まさ子
ベランダから身を乗り出して五月の風と光を浴びている、とても気持ちのいい句ですが、「きゅうかい(くかい)」という響きに「咎悔」「朽壊」「苦海」なんて連想し始めたら、一転とても危険な景色になる。
第316号2013年5月12日
■菊田一平 象 10句 ≫読む
第317号2013年5月19日
■金中かりん 限定本 10句 ≫読む
第318号2013年5月26日
■金原まさ子 セロリスティック 10句 ≫読む
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■菊田一平 象 10句 ≫読む
第317号2013年5月19日
■金中かりん 限定本 10句 ≫読む
第318号2013年5月26日
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