2013-11-03

2013落選展テキスト 11ならば踏めよと ハードエッジ

11 ならば踏めよと  ハードエッジ

忘らるるならば踏めよと落椿
対岸の蝶々が見えるほどの川
一幅のふらここに乗り漕ぎ出でな
散り初めしその花明り水明り
春雨や作つてくれし卵焼
いふなれば昼行灯と春炬燵
花の雨水の流れとなりにけり
ホ句といふ小箱の中に桜貝
行く春や大きな船を引く小舟
挨拶の楽しき五月来りけり
ハンカチはすぐに乾いて真四角
夜を待つは紫か黄か花菖蒲
折畳傘の袋が梅雨の道
見てみたし十薬の根の張り具合
曝しある書のこれからを思ひけり
爺死んで婆残りたる茅の輪かな
痒からん蝉となるべく背を割るは
親指と人差し指とアイスの棒
会釈して打水の端を通りけり
ふるさとに昼寝をせよと言はれけり
またひとつ蝶来て蜘蛛を太らする
もの腐る季節となつて蝿も出て
出るものを出して身軽や暑気中り
灯台に蛾が張り付いてゐたりけり
噴射口こちら向きなる西日かな
足元を船の貫く橋涼み
手花火を草に浴びせて草燃えず
ががんぼが正面にもの申しをる
すやすやと赤子の眠る遠花火
盆の月暑さ寂しくなりにけり
秋の夜のしばらく湯気を立てしもの
座布団に坐してこれより月の舟
赤ゆゑの寂しさに群れ赤とんぼ
鶏頭を切つて滴るもののあり
この牛は肉になる牛草の花
柿干すや目鼻かそけき赤ん坊
運動会その翌日が土砂降りで
亡き人は生きてゐし人秋の暮
明るくて銀杏落葉の日と思ふ
焦がれとは枯れたるものの中にかな
時雨るるや火はらふそくと線香と
長き長き文字なき時代帰り花
使ひ古されたるものと冬籠
数へるにしても短日ばかりなり
灯して提灯鮟鱇去年今年
当選と云ふべし初日当りけり
泥んこになつて作りし雪だるま
寒禽に生きよと赤き実ありけり
兄弟の眠る白息長短
寒鯉や雨はすべてを濡らし行く


1 comments:

上田信治 さんのコメント...

11 ならば踏めよと  ハードエッジ

忘らるるならば踏めよと落椿

「口調」を手のうちに、ほどよきリズム感をキープ。

一幅のふらここに乗り漕ぎ出でな
親指と人差し指とアイスの棒
灯台に蛾が張り付いてゐたりけり
盆の月暑さ寂しくなりにけり
この牛は肉になる牛草の花
運動会その翌日が土砂降りで
時雨るるや火はらふそくと線香と

一連、きもちよく、読みました。