2014-03-02

10句作品テキスト 山口優夢 春を呼ぶ

山口優夢 春を呼ぶ

建国記念日のてのひらいつぱいの胎動
臨月やまぶしくて見えない雲雀
妊娠はかくれんぼかもふきのたう
破水して愚かに眠き春の空
薄氷をぴしと踏みゆき父となる
がつしりと分娩台や百千鳥
雪割草なし崩しに始まるお産
心音が機械にこだましておぼろ
陣痛の息の切なし春ともし
陣痛は大気圏突入のやうだ春
扉の向かうで妻が苦しむ冴え返る
産むときの妻は赤子のやうに赤し
産道を抜けて光を君は知る
人の中から人が出てくるかぎろひて
頭だけ出て泣き初むる蜃気楼
うららかに海から上がるやうに生まれ
今産みし子を呆然と見て春暁
胎盤のしんと重たき春の雪
産みしのち子宮は春の闇に戻る
生まれたての手足伸ばして曲げて春
君に子宮は狭かつたのか春の空
料峭や二重まぶたをもて生まる
がむしやらに生まれて春を呼ぶ子かな
授乳室に我は入れず暮れかぬる
笑はざる子を清潔な春と思ふ
さへづりや傾き変へて哺乳瓶
啓蟄や息を切らせて飲むミルク
激しく抱けぬうちは赤子や桜貝
乳飲み子に日永のげつぷさせてやる
何もしない夫と言はれ朝寝かな
目借時子は胎内の夢を見る
はくれんを見上げこの世をまぶしがる
母の乳探し陽炎に手を伸ばす
遅き日を上目遣ひに乳飲めり
乳をやる妻早春をうつむきぬ
乳首からくちをはなさぬ春の宵
我も母になりたし春風に子を抱いて
乳を飲む子を見て眠きぼたん雪
遠雪崩赤子を布にくるむとき
山に雪きびしく残る夜泣きかな
出生届に春の灯をこぼしけり
取り替へしむつきは蛙より重く
眉間に皺寄せて赤子や梨の花
「ムーンライト伝説」が子守歌なり桃の花
むつき汚して赤子の太る雛祭
春光や咳き込みながら子は泣いて
泣く子を抱いて泣かない母やつばくらめ
父も娘も初恋から遠くてすみれ
春の日にあやされてゐるおまへかな
赤子の目いつも真夜中梅匂ふ


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