【週俳10月の俳句を読む】
なんでもないものが驚きやおかしさに
鈴木不意
蔦紅葉皿に平たくライス来て 塩見明子
俳句がおもしろくなるのは俳句という形になったとき、当たり前のなんでもないものが驚きやおかしさに変わることだろうと思う。この句にはそれがある。
句会でこの句が出たら必ず採るだろう。しかし、どこがおもしろいのかと問われたら理路整然と答えられるかどうか。
ご飯なら茶碗、ライスとなると皿に盛られる。器によって呼称が変わるのもおかしいのであるが〈平たく〉と形容したことでおかしさが増している。ライスが皿に平たいのは大盛りでも頼まなければ当たり前の盛りつけだ。
大盛りなら〈ピラミッド〉〈古墳〉と表記するかもしれないがそれは奇を奇と表現しただけだ。平べったい白皿にライス(ご飯と言うべきか)が平たく盛られた、なんでもないことに気づかされた面白さがある。この作者にとって俳句を面白くする方法として、奇抜さは必要としていないのである。
太陽と月を引つ張り烏瓜 大西 朋
太陽と月。また出たかというくらい惑星関係の句を目にする。九月の末の吟行でたまたま熟れた烏瓜を見た記憶があったせいもあるかもしれないがこの句に目が止まった。
烏瓜の蔓は密集した葉の中に消えてどこへ繋がっているのか考える人はあまりいないだろう。〈引つ張り〉はどうしても引力、重力につながり蔓は太陽、月へと向かっていく。しかしこれは読者の想いの中の構図だ。質量があればどんな大きさであれ重力は発生する。烏瓜が太陽、月と引き合っているのもあながちオーバーなことではない。実は微細な力を想う故の句ではないか。たかが烏瓜、されど烏瓜である。
虫しぐれ眠くても手紙を書くよ 越智友亮
急を要する深刻な手紙ではなさそうだ。一日や二日は遅れてもかまわない間柄の受取人が想われる。この句に魅かれるのは素直に想いを句に託していると感じるからだ。
〈眠くても手紙を書くよ虫しぐれ〉でも良さそうに思えるが、それでは作者の居心地が悪いのだろう。これがこの作者のスタイルというものか。
眠気を楽しんでいるようでもあり、眠くても手紙を書かねばならない相手は、言わぬが花ということだろう。
第389号 2014年10月5日
■福田若之 紙粘土の港 10句 ≫読む
第390号 2014年10月12日
■二村典子 違う靴 10句 ≫読む
第391号 2014年10月19日
■佐山哲郎 こころ。から。くはへた。秋。の。茄子である。 10句 ≫読む
■大西 朋 青鷹 10句 ≫読む
第392号 2014年10月26日
■塩見明子 改札 10句 ≫読む
■越智友亮 暗 10句 ≫読む
2014-11-16
【週俳10月の俳句を読む】なんでもないものが驚きやおかしさに 鈴木不意
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