20 オムレツ 中塚健太
オムレツの黄色やさしく春来る
鳥帰る書き込みのなきカレンダー
料峭の空のさざ波身を浸す
シャンパンと少しの嘘とバレンタインの日
ほつほつと路面に消ゆる春の雪
早春の窓の眩しき昼休
事務机誰かが置きしクロッカス
幸福の咲くとはこんな桃の花
お雛さま永久はさびしと微笑みぬ
食べつづけるポテトチップス春うれひ
かの地では流氷のころミントティー
ヒヤシンス三角定規もてあそぶ
囀を日がな散らかし恋といふ
永き日の海を見てゐる少女かな
春の夜に寄り添ふやうにラジオの声
風船や世界のどこか崩れゐる
真夜中のコンビニに買ふ花菜漬
朧月財布の中に導眠剤
春の服クリーニング屋華やげる
卒業歌とどく無人の教室にも
朝寝してシーツの皺に陽の溜る
シャボン玉割れて弾ける子らの声
やはらかにグラスを満たす春の水
菜の花はスポットライト当たるかに
移り気を蝶に誘はれふはふはす
恋かも知れぬ春雨のピアニッシモ
ボートレース歓声の川遡行せり
歩道橋春満月へ上るなり
ヨーグルト混ぜて退屈梨の花
テレビでは自殺のニュース桜東風
行き先を決めず出掛けし桜かな
麗かやどの屋上も歌ひだす
花曇オープンカフェにドーベルマン
深きよりエスカレーター花の雨
ニベアでも塗ろ花過ぎの感傷は
春落葉踏めばかさこそ秘密めく
夏近し母と外来診察室
陽炎や孤独を乗せてオートバイ
夏は来ぬ光りを鳴らす窓硝子
ウォームアップの陸上部員風薫る
葉桜や見知らぬ人が目礼す
新樹光愛猫入れしバスケット
ビル街を白い絮飛ぶ薄暑かな
明易や眠りのなかで泣いてゐる
独り身の夜は魚となるプールかな
高原の朝の気温の冷蔵庫
夏の空シンバルにする鍋の蓋
夕焼けを堰き止めてゐる摩天楼
サングラス誰そ彼の世に紛れたる
暮れなづむ瞳にある安堵ビヤガーデン
2014-11-02
落選展2014_20 オムレツ 中塚健太 _テキスト
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1 comments:
囀を日がな散らかし恋といふ
鳥が囀れば恋の歌、だと人間は思っている。しかし人間の歌とて恋ばかりではあるまい。鳥の囀りにも哲学があるかもしれないのだ。
朝寝してシーツの皺に陽の溜る
あー目は覚めているが起き上がる気がしない。あー寝過ぎたと思いぼんやりと目を開くと、日も高くなり陽光がシーツに眩しい。
葉桜や見知らぬ人が目礼す
花見の狂騒もひと段落した春の日、葉桜の木陰ですれ違いざまに会釈される。ええと誰だったっけ、と陽光に呆ける。
カタカナを多用して現代の生活を描こうとしている。ただ必ずしも単語にこだわらないところに味が出ていると思う。
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