2014-11-02

落選展2014_20 オムレツ  中塚健太 _テキスト

20 オムレツ  中塚健太

オムレツの黄色やさしく春来る
鳥帰る書き込みのなきカレンダー
料峭の空のさざ波身を浸す
シャンパンと少しの嘘とバレンタインの日
ほつほつと路面に消ゆる春の雪
早春の窓の眩しき昼休
事務机誰かが置きしクロッカス
幸福の咲くとはこんな桃の花
お雛さま永久はさびしと微笑みぬ
食べつづけるポテトチップス春うれひ
かの地では流氷のころミントティー
ヒヤシンス三角定規もてあそぶ
囀を日がな散らかし恋といふ
永き日の海を見てゐる少女かな
春の夜に寄り添ふやうにラジオの声
風船や世界のどこか崩れゐる
真夜中のコンビニに買ふ花菜漬
朧月財布の中に導眠剤
春の服クリーニング屋華やげる
卒業歌とどく無人の教室にも
朝寝してシーツの皺に陽の溜る
シャボン玉割れて弾ける子らの声
やはらかにグラスを満たす春の水
菜の花はスポットライト当たるかに
移り気を蝶に誘はれふはふはす
恋かも知れぬ春雨のピアニッシモ
ボートレース歓声の川遡行せり
歩道橋春満月へ上るなり
ヨーグルト混ぜて退屈梨の花
テレビでは自殺のニュース桜東風
行き先を決めず出掛けし桜かな
麗かやどの屋上も歌ひだす
花曇オープンカフェにドーベルマン
深きよりエスカレーター花の雨
ニベアでも塗ろ花過ぎの感傷は
春落葉踏めばかさこそ秘密めく
夏近し母と外来診察室
陽炎や孤独を乗せてオートバイ
夏は来ぬ光りを鳴らす窓硝子
ウォームアップの陸上部員風薫る
葉桜や見知らぬ人が目礼す
新樹光愛猫入れしバスケット
ビル街を白い絮飛ぶ薄暑かな
明易や眠りのなかで泣いてゐる
独り身の夜は魚となるプールかな
高原の朝の気温の冷蔵庫
夏の空シンバルにする鍋の蓋
夕焼けを堰き止めてゐる摩天楼
サングラス誰そ彼の世に紛れたる
暮れなづむ瞳にある安堵ビヤガーデン

1 comments:

四羽 さんのコメント...

囀を日がな散らかし恋といふ
鳥が囀れば恋の歌、だと人間は思っている。しかし人間の歌とて恋ばかりではあるまい。鳥の囀りにも哲学があるかもしれないのだ。

朝寝してシーツの皺に陽の溜る
あー目は覚めているが起き上がる気がしない。あー寝過ぎたと思いぼんやりと目を開くと、日も高くなり陽光がシーツに眩しい。

葉桜や見知らぬ人が目礼す
花見の狂騒もひと段落した春の日、葉桜の木陰ですれ違いざまに会釈される。ええと誰だったっけ、と陽光に呆ける。

カタカナを多用して現代の生活を描こうとしている。ただ必ずしも単語にこだわらないところに味が出ていると思う。