2014-11-02

落選展2014_22 弔ひ 三島ちとせ _テキスト

22 弔ひ 三島ちとせ

弔ひの儀式狼から倣ふ
大寒の花束火葬する決まり
鰤起し駐在さんと居る園児
裏面に粉雪溶けてゐる割符
毛糸玉安楽椅子へ転がりぬ
春草の冠電話越しに編む
雑踏にペンギン一羽春の風邪
花鳥や戦艦去りし港町
風船や海原のある紙芝居
紅梅の嘘より寓話始まりぬ
蝶が吸ふ蜜を密かに摘んでゐる
春の空庭の果てまで漁網干す
伊予柑を拾ひて向かふ操舵室
春の宵缶詰で呑む漁師小屋
花弁一枚から静脈血の匂ひ
すみれ草式場にある車椅子
より苦きクレソン添へる銀の皿
無断欠席はさへづりのせゐにする
陽炎や家畜オスより入れ替へる
殺処分終へて一服花の冷
花冷えの薬しづかに飲み込めぬ
練香の蜜より燃ゆる復活祭
イツカクを祀りし海へ彩卵
骨盤の高さに躑躅咲いてゐる
水葬の手筈整ふ鳥曇
近道の麦畑抜け慰霊祭
夏の蝶幕間に切り絵披露せり
夏雨や女優の臍にピアス痕
夏来る床へ現像液ぽとり
書生服飾りし下宿月涼し
弓を弾く数多の星座麦を踏む
酋長の名前冠したバナナの木
タロットの占ひ通り蛾が孵化す
百合の花聖書巻末より捲る
青梅煮る明日は万国博覧会
海の在る惑星生まれ黴の花
恋文を出す一呼吸日傘差す
美しき蟹座の爪や夏座敷
海の日やオセロ互ひに黒を取る
手花火や世界が終はるとの噂
海底の呼吸炭酸水のやう
故郷は集合団地秋の雨
レコードを抱へ嫁入り秋黴雨
二百十日付英国より紅茶
銀色の折り鶴納め秋祭
鶏頭花海岸線に船の墓
木星に似る喉飴を舐めて秋
紅葉かつ散るthank you for listening.
高熱の林檎ばかりを陳列す
匿名の私小説読む暮の秋

2 comments:

上田信治 さんのコメント...

骨盤の高さに躑躅咲いてゐる

つつじの花の小ささが、なにか器官を思わせるのか、つつじとどくろの字面が似ているせいか、なんか面白かったです。

全体的には、観念も想像力も、もっともっと、耳から血が出るくらい、働かせることができるはず。物足りないです。


四羽 さんのコメント...

裏面に粉雪溶けてゐる割符
雪の中、割符を運んできたのだろう。一体どういう状況だろうか?なにかが動き出す不穏さと雪の日の静謐。

骨盤の高さに躑躅咲いてゐる
あえて骨盤の高さを意識することは少ないと思うが、そこに何がしかの生命を意識したのだろう。並び立つ躑躅。

高熱の林檎ばかりを陳列す
風邪の高熱に苦しむ時、林檎ほど癒される果物はない。一方、熟れた林檎は熱に浮かされるように真っ赤だ。

さまざまな弔い。畜産に関する句があり、世界の終りも詠まれている。命に対する郷愁の趣がある。