2014-12-28

【八田木枯の一句】寒柝に老人肝を偸まれし 西原天気

【八田木枯の一句】
寒柝に老人肝を偸まれし

西原天気


「火の用心」の夜回りは、うちの町内ではまだやっている。去年からそこらのことはよくわからないが、数年前はたしかにやっていた。町内会活動はどこもだんだんとすぼみつつあると思うが、退職者たちの「地域参加」「地域活動」でしぶとく残ってはいるようだ。

ひのよ~じん、カチカチ。

このカチカチが寒柝(かんたく)。

寒柝に老人肝を偸まれし  八田木枯

静まった夜更けに、拍子木を打つ音にびっくりした、という句だろう。

「肝をつぶす」という慣用句がある。老人が寒柝にびっくりした。それだけのことだろう。ただ、それを「肝を偸(ぬす)まれ」たと言った。つぶれたのではなく、偸まれてしまった。肝が自分のからだから一瞬にして抜けてしまった感じか。肝が外へ、闇へ、すーっと遠のいていく。

若者の肝ではどうにもキマらない。それはただの腑抜け。老人は腑抜けになってもキマる。ぴしっと(というと妙だが)、キマる。齢を重ねることは、偸まれじょうずになることかもしれません。

掲句は『鏡騒』(2010年)より。


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