2015-12-27

週俳2015年3月のオススメ記事 アーカイブ力(りょく) 荻原裕幸

週俳2015年3月のオススメ記事
アーカイブ力(りょく)

荻原裕幸



個人的な問題かも知れないけど、私の場合、年末に向けてまとめる回顧的な原稿のつらさは、資料をきちんと手元に揃えなければ何もはじまらない、ということに尽きる。歴史を変えるんじゃないかと感じたあの本が出奔したとか、今年いちばんと確信するあの作品の掲載誌が逐電したとか、書斎は小ぶりでも迷宮の奥は深く、ミラクルな発見劇があって、ようやくスタートラインに立つことになるからだ。アーカイブの整った「週刊俳句」の目次を眺めながら、この点でまず、神だな、と思う十二月である。



おすすめ記事を絞りこむため、二〇一五年三月発行の「週刊俳句」を読んでいて、このメディアには、他誌からの転載記事(改稿を含む)が多いとあらためて感じた。三月分を辿っただけでも、橋本直「子規への遡行」、中嶋憲武「ハイクふぃくしょん」、関悦史「BLな俳句」、今井聖「名句に学び無し、なんだこりゃこそ学びの宝庫」、上田信治「成分表」等がある。このあたり、オリジナル重視の、商業誌との差異がはっきり見える。ネットならではのアーカイブ力を発揮する「週刊俳句」の特長であろう。いくつかは初出誌で読んでいるのだけど、ラベルを追ってまとめ読みができるのもうれしい。



話がやや逸れている。「週刊俳句」三月のおすすめ記事、である。前述の転載記事については、むろん上位のおすすめのつもりもあって列挙したので、それらはここでの対象から外れてもらうとして、第一に推しておきたいのは、今井聖「情緒安定派の鬼っ子・岡本眸」(第410号2015年3月1日)である。シナリオ執筆という自身のフィールドにあらわれた岡本眸の姿を追うところから話ははじまるものの、俳人論のセオリーみたいなところを避けて、メリーゴーランド方式に岡本の世界を探索した楽しい文章になっている。ネットにはなじまないかもと思うほどの長文ながら、退屈せずにずんずんと読み進められる。末尾の「岡本眸三十句」は、写実とはまた違う意味での、三次元感の強い作品が多くて興味深い。私には、岡本は、かなり抽象感のある文体の人、という先入観があったので、新鮮だった。



短い記事では、西村麒麟「八田木枯の一句」(第414号2015年3月29日)がおすすめである。「引鶴のばさつく音の夜陰かな」の一句鑑賞、と言うか、八田木枯の句における「鶴」をめぐってのエッセイと言うべきか。短いながらも示唆に富んだ文章で、全句集に見られる「鶴」が、人物、と言うか、キャラクターの再登場法的に読める、という指摘もおもしろい。引用句を読むと、たしかに、鶴一般ではなく、この鶴あの鶴感がよく出ていて、これはもう、季題と言うよりも、八田木枯の描くキャラのひとつのように感じられた。



それから、番外的ながら、柳本々々「【川柳訳】Stand by Me - B. E. King」(第410号2015年3月1日)をおすすめしておきたい。一年前の、中山奈々の同趣向をなぞったものだけど、川柳だけでよくまとまっているし、翻訳=選句のクオリティも高い。現代の川柳の小アンソロジーにもなっている。どこか偏愛的ながらも、はっきりとした川柳観につらぬかれているようで快かった。短歌訳もできないかな。やってみようかな。



あと、三月に掲載された三篇の十句作品。これを散文の記事と同列において考えるのは、何かが違う気がするので、最後に、それぞれの十句から、私の好みの作品を各一句引用して終りにする。

 影の木に人間吊るす冬木立/安西篤

 あざらしの水くぐる間の花の昼/渡辺誠一郎

 母にその兄より手紙蕗の花/山西雅子

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