2016-04-17

後記+プロフィール 第469号

後記 ● 福田若之

小さい頃、テレビの中が夜ほど明るく見えることがとても不思議だったのです。「テレビの中」だなんて、時代がかった表現ですが、僕にとっては、どれだけ薄くなっても、テレビはいまだに箱なのです。

テレビという装置が、録画された映像を流すことができることを知らなかったわけではありません。僕は、物心ついたときから、家にビデオデッキがありましたし、夜に昼の映像が流れるのが、不思議だったわけではありません。

僕が不思議に思っていたのは、どうして、夜、家に帰ってきて、みんな、そんなに、昼の光ばかりを見たがるのだろうということでした。

そのころの僕は、いまよりも視力がよくて、月を見るのが好きでした。夜、冬にはオリオン座に驚き、夏には七夕の星を探し、春の夜空は星が見えづらくて、でも、いつの季節にも、大きな月を見ることが楽しみで、秋ばかりでなく、月を見ていました。親の自転車の後ろに乗って。

昨日、夕方がまだ明るくて、ああ春だなあと思った、なんてことを俳句の仲間に言ったら、「それ、一般俳人の感慨ですよ」なんて言われたけれど、僕はそういう意味ではたしかに季節の変化についてはありふれた感慨を持ち続けているし、あえてその感慨を捨てたいと思ったこともありません。春の夕暮れのあの藤色の空は、あれは、やっぱりいいものだと思う。あの光は、なんだか、ほっこりしているのです。

そんな光を思うことが、いま、ほっこりすることを必要としている誰かにとって、少しでも、ほっこりするきっかけになれば、と思います。つたないけれど。



それではまた、次の日曜日にお会いしましょう。


no.469/2016-4-17 profile

■工藤玲音 くどう・れいん
1994生まれ。俳句結社「樹氷」同人。東北大学短歌会。

■益永涼子 ますなが・りょうこ
昭和45年福島県郡山市生まれ。『藍生』『狩』『桔槹』所属。福島県文学賞受賞、藍生新人賞受賞。句集に『こぼれ萩』『折れ線グラフ』。

■小津夜景 おづ・やけい
1973年生まれ。無所属。

■小久保佳世子 こくぼ・かよこ
1945年生まれ。「街」同人。句集『アングル』。

■笹木くろえ ささき・くろえ 
1963年東京生まれ。2008年より俳句を始める。「鏡」同人。

■松本てふこ まつもと・てふこ
1981年生まれ。2000年、作句開始。2004年「童子」入会。同年「新童賞」受賞。『新撰21』『超新撰21』(邑書林)に小論で参加。アンソロジー『俳コレ』に入集100句。2012年「童子賞」受賞。「童子」同人。

■笠井亞子 かさい・あこ
東京生まれ。エディトリアル・デザイナー。「麦の会」会員。現代俳句協会会員。「百句会」「月天」「塵風」所属。2010年より「はがきハイク」を始める。

■太田うさぎ おおた・うさぎ
1963年東京生まれ。「豆の木」「雷魚」会員。「なんぢや」同人。現代俳句協会会員。共著に『俳コレ』(2011年、邑書林)。

畠 働猫 はた・どうみょう
1975年生まれ。北海道札幌市在住。自由律俳句集団「鉄塊」を中心とした活動を経て、現在「自由律句のひろば」在籍。

西原天気 さいばら・てんき
1955年生まれ。句集に『人名句集チャーリーさん』(2005年・私家版)、『けむり』(2011年10月・西田書店)。ブログ「俳句的日常」 twitter

福田若之 ふくだ・わかゆき
1991年東京生まれ。「群青」、「ku+」、「オルガン」に参加。共著に『俳コレ』(邑書林、2011年)。

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