2016-06-26

【句集を読む】おなじものとちがうもの 加田由美句集『桃太郎』の一句 西原天気

【句集を読む】
おなじものとちがうもの
加田由美句集『桃太郎』の一句

西原天気


ルービック・キューブかちりと蟇動く 加田由美

見立ての句。とはいえ、単純な見立てではない。蟇が動く、その一動作は、ルービック・キューブの一面が90度回転する様と、たしかに繋がる。けれども、それは、かたちにも動きにも還元できそうにない。いわば総合的な感得。

一方、見立てという把握を廃して、「かちりと」の後をはっきりと切り、ふたつの事物、ふたつの現象をべつものと捉えてみても、なんとも言えぬたぐいの相同が、読み手に残る。さらには、掌に包む程度に、蟇の大きさが収まり、不思議な感触まで味わう。

(そういえば、塗装のせいだろうか、ちょっとぬめっとした感触だ、ルービック・キューブも)

語と語の単線的な作用だけではなさそうなのだ、この句が読み手に及ぼすものは。

  ルービック・キューブかちりと=蟇動く

  ルービック・キューブかちりと//蟇動く

どちらなのか、私(=読み手)は判然としないまま、気持よく(興味深く)、この一句を味わうことになる

なお、ルービック・キューブと蟇とのはるかな距離感にも思いを寄せていい。このふたつはさまざまな意味で、遠い。生物・非生物等々、現実の距離感から、字の見た目(だらだらと長いカタカナ語と画数の多い漢字一文字)に至るまで。

そうであれば、やはり、「=(イコール)」で読みたい。類縁のない二物を、時空に穴を穿つことで、あるいはエレガントな補助線を引くことで、繋げてしまうのが、俳句の一作用であり、作家の仕事だから。



句集『桃太郎』(2016年4月)から、他に何句か。

曼珠沙華鼻の先まで届く舌 同

見立てに読めて(あの花弁のかたち)、それだけでは終わらない「感触」が残るという意味では、前掲の句と同様。

香水一滴アッラーの名のもとに 同

香水という行為は、きっと儀礼めいたものなのだろうと想像する。一滴となれば、なおのこと。宗教的材料ながら、切実感はなく、突き放した口吻。

サングラス外すや堂々たる醜女  同

ひどい(笑。いや、「堂々たる」だから、賛辞か。いやいや、賛辞にしても、ひどい(笑。こうした句は句集『桃太郎』の本線ではないようだが、酷薄の妙味。

(酷薄な句が好きすぎる自分をちょっと反省)

掌やぺしやんこの蚊の欠くるなく 同

かしっと硬質の描写に見えて、全身どんな微細も欠かさず(あたりまえだだ)、みずから掌に押し潰したわけだから、これもまた酷薄のおもしろさを軽快に纏う。




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