2017-04-23

歌仙「水の春」始末記

歌仙「水の春」始末記


捌き:佐山哲郎
連衆:トオイダイスケ宮﨑莉々香堀下翔大塚凱佐藤りえ福田若之生駒大祐西原天気

発句  十代はときめく日々や水の春  ダイスケ
脇    風吹き抜ける岸の藤棚  哲郎
第三  エンジンの音が雲雀を打ちあげて  若之
     ペットボトルをおかねにかへる  莉々香
月   熊笹に出でしなの月結ぶ頃  下翔
     秋意は紐で出来てゐるらし  天気
初折裏 ぎんなんがシュレディンガーの猫である  若之
恋    爪ぴかぴかにされたるをとこ  ダイスケ
恋   髪に触れひかりの匂ひとも思ふ 大祐
     厠の裏ににはとりの棲む  凱
    チャイムはや飛び出してくる児童たち  ダイスケ
     顔面セーフだけど痛いよ  若之
夏の月 涼しくて月から鏡までの距離  凱
     ほたるが散つてわからなくなる  莉々香
    小石川庭園地下の断面図  りえ
     糸井重里たちが見る夢  若之
花   花吹雪からてのひらが子をさらふ  凱
     はつらつと逝く春にてあれな  翔
名残表 それぞれに祈りつづけてゐる薊  莉々香
     思ひ出すべてダムに沈める  大祐
    ともだちと死体ごつこを暮れるまで  凱
     団地の中に公園ふたつ  翔
恋   人妻と菊名でつくる雪だるま  莉々香
恋    プラットフォームの赤いセーター  ダイスケ+天気
    呼ぶ声も呼ばるる声も飴のやう  りえ
     山彦どもが灯す隧道  若之
    ネパールの仏像の鼻欠けてゐて  大祐+天気
     ゑんどう蒔くを民の千年  凱
月   月を見る翁※月を見ぬ媼  ダイスケ ※休符記号
     能舞台とは萩の闌けたる  翔
名残裏 清水に一面の秋惜しみをり  若之
     豆腐小僧とすれ違ふ坂  りえ
    十字路を行く草原を行く如く  大祐
     たてがみ越しに透けるきさらぎ  凱
花   窓に見て橋の向うの花盛り  莉々香
挙句   図鑑に飽きて吹く石鹸玉  大祐

起首:2017年4月16日 13:00
満尾:2017年4月16日 17:00


【解題】
オフ会・昼間興行の連句(お知らせ記事≫こちら)、顔ぶれがわからないまま、は4月16日(日)13:00、蓋を開けてみると、錚々たる若手が集まり、スタート。

捌きは佐山哲郎さん。私・天気は捌きの手伝い(書記etc)と賑やかし(アホなことを言って、連衆の肩をほぐす)。

途中、佐藤りえさんが加わり、佳境へ。

ところで連句の進め方には大きく「膝送り」と「出勝(でがち)」があります。「膝送り」は連衆に順序が決まっている。次の付句は誰々、といういわば指名制。「出勝」はひとつの位置に連衆(全員)が付句を出し、良いものを捌きが選ぶ(詳しくはググってください)。今回は、スピード重視で「出勝」の変則型。数人から数句出て、いいのがあれば付句とする。付句に採用された人は2回休み。

連句は意外に時間がかかります。スピード重視のスタイルを採ったものの、この日、4時間では、「きっと巻き終わらないだろう」と思っていましたが、途中、進捗状況と時計の針を見て、「ひょっとしたら満尾するのでは」と、捌き助手の期待がふくらみました。果たして、終了時刻の17:00まで少し時間を余して、めでたく満尾。

おめでとうございます。ぱちぱちぱちぱち。

捌き・哲郎さんの手腕もさることながら、連衆がナイス。なおかつ、終始和気藹々で、なかなかに良い雰囲気。

個人的見解としては、《ペットボトルをおかねにかへる 莉々香》で勢いがつき、連衆のカラダがほぐれた感。

署名箇所に「+」とあるのは共作。この句に限らず、皆で智恵を出し合った句もあります(連句は、「作者」「個人」といった近代概念以前の遊び)。

最後に、硝子戸越しに見える名園・小石川後楽園の景観も、この日の歌仙で一役買ってくれていたことを書き添えておきます。(西原天気・記)



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