2017-06-11

【週俳5月の10句作品を読む】その花らしい世界 大西朋

【週俳5月の10句作品を読む】
その花らしい世界

大西 朋


ばらばらな風景  青本瑞季

朧夜のまばたきをみづ這ひのぼる
紫雲英野から鳥の鳴きごゑつきまとふ
いくつものこゑのまとまる夕桜
青銅匂ふ花屑の色抜く水に
うすびかりして花過の四肢の端
芽吹く夜の鬱のかよへる耳朶の穴
みづかきの昏さにたんぽぽの綿毛
首すぢの熱さへずりに曝しをり
まばゆさを薄めてまはる風車
柳の道まなざしのふとばらばらに

全体の印象としてまず平仮名の使い方を意識して句を作られていることに目がいく作品でした。ただ仮名遣いが成功しているかと言えばやや違和感のある句もあり勿体無い句も見受けられます。一番惜しく感じられるのは一句目の朧夜の句。内容は非常に感覚的で瞬く時に眼の中に水が薄く感じられるような皮膚感覚は朧夜という季語とも相まってはっとさせられます。ただ「みづ」という表記がここでは活きるかどうか。中七を仮名でという試みは分かるのですがやはりどこか引き締めたいところで「みづ」は漢字でも良かったのではないでしょうか。俳句は短さゆえ聴覚視覚を瞬間的に訴える要素が非常に繊細で重要です。

柳の道まなざしのふとばらばらに

これは景も感覚も分かる作品でした。柳の揺れにふと目眩を覚えるような一瞬。柔らかな光と春の少し物憂い感じが出ているのではないでしょうか。


薔薇屋敷 岡田由季

月見草島の時間を速めをり
薔薇屋敷からの脱出新樹光
髭塚へ南天の花傾きぬ
人間と比べられゐる藤の花
茉莉花や短き電話秘書課より
同じこと違ふ言葉でアマリリス
どの道を行つても躑躅先回り
夾竹桃咲いてニュースの声硬し
地下街の浅き深きを百合の花
雨後の薔薇大きく息をしてゐたる

様々な花をモチーフに編まれた10句。どの句もその花らしい世界を持ちつつ、少し意表を突く所もあって共感致しました。

薔薇屋敷からの脱出新樹光

「薔薇屋敷からの脱出」という切り口は新しいのではないでしょうか。薔薇の咲き乱れる家にはどんな人が住んでいるのだろうかなどと想像を膨らませつつ、その華やかさにおののくような気持ちすら抱くことがあります。空気の密度も濃くその上を新樹の光が降り注ぐのは美しくも眩く近づき難い世界。

茉莉花や短き電話秘書課より

これも「秘書課」という言葉に驚かされました。ドラマの中の一場面の様でもありますが実際まだまだ秘書課は存在しています。茉莉花という季語のみで美しくてきぱきと仕事をこなす人達が見えてくるから不思議。

雨後の薔薇大きく息をしてゐたる

「雨後の薔薇」という打ちだしにこちらも引き込まれてすっと無理なく入っていける句。ゆったりとしたリズムも心地よく、雨にひんやりとした薔薇の前にいつまでも佇んでいたい気持ちになります。

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