2017-06-11

〔今週号の表紙〕第529号 京屋商店 近恵

〔今週号の表紙〕
第529号 京屋商店

近 恵



西伊豆の土肥には樹齢千年と伝わる楠が二本ある。一本は安楽寺というお寺に、もう一本は土肥神社の境内に。先日社員旅行で土肥温泉へ行った際にその大楠を見にひとり土肥の町をぶらぶらした。

土肥温泉は金山採掘中の坑道から湧いたのがその始まりで、安楽寺の境内にある坑道には今は入浴できないがその温泉が残っている。もう一本の大楠のある肥神社は、北条氏が西伊豆あたりも治めていた勢いのある頃に、土肥城主の富永氏が鎌倉の鶴岡八幡宮の分霊を勧進したものと伝わっている。

どちらの大楠も樹齢千年と伝わっているので、それが正確であれば鎌倉時代より前からそこにあって時代の流れの中ひとの営みを静かに見守ってきた大楠だということだ。

楠に語る言葉があったら聞いてみたいと思いながら、しばし静かな時間の中に身を置いて葉擦れの音を聞いていた。

土肥神社には白い大きな鳥居があり、鳥居の前には京屋商店という酒屋さんがあった。今はもうそこでは営業していないようで、酒屋の看板も出ていないが、「TABACCO」の看板と「塩小売店」という小さな看板が残っている。周辺には車が擦れ違えないないような細い道があり、道沿いには小さな温泉宿が何軒もある。京屋商店の建物は結構大きく、昔は何人も奉公人がいたりしたんだろうなと想像したりした。建物は今は地域の集会所として使われているようだった。



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