神輿500キロ
中嶋憲武
朝からひどい雨でどしゃぶりでした。
こんな天気で、神輿を担ぐのだろうか?と疑念が生じましたが、出かけることにしたのです。
鶯谷ミュージックホールの駅で降りても、雨は一向に止む気配すらありません。とぼとぼと駅から歩いていると、雨はますます激しく降ってきたのです。待ち合わせ場所に近づくと、なんと祭ばやしが聞こえるではありませんか。主催者側は神輿を出す気でいるのです。「まじかよ」と思いました。
町内の江戸の男たちも続々と集まってきました。今日はこども神輿も出るので、渡御を終えた子供たちにチケットと引き換えに、フランクフルトやつくね、ラムネ、焼きそば、ソースせんべいなどを配る役目もあるのです。僕は今日は神輿を担ぐ役ですので、こちらの方はほんの少しお手伝いする程度です。その準備をしているうちに、雨はだんだん上がってきました。
会社で、社長と一緒に祭り装束に着替えました。僕は帯を結べませんので社長が結んでくれようとしましたが、社長は正絹の帯はちょっと結べないと言って、帯なしでも大丈夫だよと言いますので、帯なしで集合場所に集まりました。すると、みんなから「隊長」と呼ばれている上の方の人が、「ナカジマくん、結んであげるよ」と言って結んでくれました。
いよいよ神輿を出す段になりました。みんなで馬から神輿を持ち上げて、担いで、いったん両手をまっすぐ上に伸ばして神輿を高々と差し上げるのですが、この動作を「さす」と言うのです。なんという字を書くのでしょうか。「差す」でしょうか?「指す」?「射す」これはちょっと違うかもしれません。「挿す」?「注す」?「鎖す」うーん、どうでしょう?「刺す」まさか、ですね。
今年は背の高い人が多いせいか、神輿が高く、僕の肩は担ぎ棒に届きません。ちょっと棒を触っているだけです。これはラクです。僕のすぐ前に女性が入ってきました。祭髪から、ぷーんといい香りがして、女性の腰のあたりが、僕の半たこの前部に密着するので、僕の意志とは無関係に男性の部分が変化を兆してきました。腰を引くようにして、担いでいました。すると後ろから、「えいさーっ、えいさーっ」と他の男性の部分が僕のお尻に当たりまくりました。しばらくすると、うしろに女性が入ってきて、胸部が僕の背中に当たりまくりました。僕は背中はそのままにしておきました。
渡御のあいだ、道端に集まっている人々が神輿を撮ろうと、携帯電話の附属写真機を一斉に護符のように、空へ突き出しています。誰かがかざすと、かざしたくなる機械なのでしょう。僕もときどき誰かがかざしていると、かざしてしまったりします。
神社に着いて、休んでいると社長が来て、「神輿にぶら下がってるだけじゃ、だめだよ」と言いますので、「だって、高いんだもの」と言いますと、「つまさき立ちするんだよ」と言いました。僕はそうかと思いました。
隊長と社長が、町内の神輿の装飾品や由来などを話している合間に、「この神輿、どれくらいの重さなんでしょうね」と隊長に聞くと隊長は、「1トンはないか。500キロくらいかな」と答えました。
神社の前で、神官の有り難い祝詞や会長の挨拶が終り、木遣りが始まるころ、青嵐が吹いてました。俳句をやっている人なら、きっとこんなところを詠むのだろうな、と思いました。
帰りは、神酒所の近くの公園までトラックで神輿を運んで、そこから神酒所まで担いで宮入りするのです。
神輿を担いでいると、うしろで担いでいる青年、いや高校生か、いや青年?高校生?まあどちらでもいいのですが、「おいっさーっ、おいっさーっ」とかけ声を上げていましたが、そのうち「おいっさーっ、おっさん、おっさん」とか「おっさん、おっさん、森さん、堀さん」とか言いながら吹き出したりするので、つられて僕も吹き出してしまって、笑いながら担いでいました。その時、なんとなくむかしNHK-FMの坂本龍一のサウンドストリートのデモテープ特集で聴いたゴジラのテーマに乗せて、「ゴジラ、ゴジラ、ゴジラとメカゴジラ」とずっと歌っていて、そのうち「ハイジ、ハイジ、ハイジとメカハイジ、カツオ、カツオ、カツオとメカカツオ ワカメ、ワカメ、ワカメとメカワカメ」と歌い出して吹き出してしまったのを思い出しました。人間って変なときに変なことを思い出すものですね。
午前中に作業していた、事務所の一階の駐車場へ行くと、奥から聞こえてくるトーキョーエフエムの山下達郎の番組をやっておりましたので、14時を過ぎていたのでしょう。神酒所でみんなで飲み食いをしていると、社長が銭湯のフリーチケットをくれました。「ごくろうさま。風呂、入って帰っていいよ」と言われたので、会社の近くの銭湯にゆっくりと浸かって富士の絵を眺めました。
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