犬の日 岡野泰輔
永き日の犬と生まれて球を追う
花冷えや脳の写真のはずかしく
野遊びやそろそろ昏い布かけて
世の中に三月十日静かに来る
とりあえず出席に○蝌蚪の国
リラの花旗の多くは三色に
やっかいな人と二人に春の川
クロッカス歴史は朝(あした)まわるもの
野遊びの声止んでもう焦げている
雲雀野の夜も遠くに雲浮かべ
青き踏むどちらからともなく遅れ
先頭が手をさし入れている泉
青水無月真鶴にてと書いてある
噴井までよく腿上げて走るなり
睡蓮のいちにちに飽き便りせず
芍薬を剪って夕方ふらふらす
プールから空似の男すぐ上がる
ピアニスト首深く曲げ静かなふきあげ
炎天にハナヂと書かれると痛い
八月は豊旗雲を沖に曳き
イタリア名つけた金魚のすぐ死んで
盆の僧いきなりスピーカーに触る
牛来ては俤をみな汗にする
夕されば網戸は雨をよく透す
炎天に妻も銅像岐阜羽島
膝ついてひとの名前の薔薇を剪る
バービーの膝はまっすぐ夜の秋
犯人を本に戻して夏果てぬ
おもむろに塔の崩れる秋である
無花果を異国の鳥の絵の皿に
先生の足が踏んでる草の花
カラヴァッジョ観てきてすぐに鹿を喰う
秋の夜の指揮者の頭ずーっと観る
天の川音のするまで右に廻し
木犀や二階の灯り点けておく
秋草のなか牛はみな北を向く
仰向けに流れておれば草の花
かるかやを人さし指がさし示し
かまきりのかわいいことに皃小さし
こうやって暖炉の角に肘をつき
夕暮れに独楽は止まっているところ
円盤の枯野わずかに浮き上がる
蒲団着て今日バカボンのパパですよ
プーさんを乗せた自転車十二月
桃青忌くびれたところには触る
大人しく雪見のなかに亡父おり
完市が字を書いているかいやぐら
壜に口つけて鳴らしぬ万愚節
花びらを南からきて吹きやまず
花びらは夕くれないの庭にくる
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2009-10-25
テキスト版 2009落選展 岡野泰輔 犬の日
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3 comments:
感想や好きな句など。
永き日の犬と生まれて球を追う
花冷えや脳の写真のはずかしく
野遊びやそろそろ昏い布かけて
とりあえず出席に○蝌蚪の国
リラの花旗の多くは三色に
やっかいな人と二人に春の川
先頭が手をさし入れている泉
噴井までよく腿上げて走るなり
芍薬を剪って夕方ふらふらす
ピアニスト首深く曲げ静かなふきあげ
炎天にハナヂと書かれると痛い
盆の僧いきなりスピーカーに触る
炎天に妻も銅像岐阜羽島
犯人を本に戻して夏果てぬ
無花果を異国の鳥の絵の皿に
蒲団着て今日バカボンのパパですよ
桃青忌くびれたところには触る
花びらは夕くれないの庭にくる
「花冷えや」の句を見た瞬間,きっと好きな句を選ぶのに苦労するだろうなと思いました。案の定でした。
50句読んでいると顔筋が動いてしまうのです。つまり面白い。
「永き日の」と冒頭,犬の終わらない無邪気さに和みつつ若干しんみりしたところで,「脳の写真のはずかしく」。究極のヌード写真ですものね,と思いながらも,そこかい!と突っ込みを入れたくなります。
そんな,何で!と突っ込みながら,でも納得する句がそこかしこにあって,読んでいて飽きません(果たしてそういう読み方をして良いものかとは思いますが)。
けれど,「無花果を」のようなすっきりと視覚的な句もものしてらっしゃる。そういう句が合間合間に入ることでできる緩急が心地良いです。
もっともっと読んでみたいと思わせて下さる50句でした。
とりあえず出席に○蝌蚪の国
やっかいな人と二人に春の川
野遊びの声止んでもう焦げている
プールから空似の男すぐ上がる
炎天にハナヂと書かれると痛い
夕されば網戸は雨をよく透す
犯人を本に戻して夏果てぬ
無造作に書くことを心がけているようです。前半が特に面白かった。
藤幹子様 野口裕様
拙句読んでいただきありがとうございました。あらためて俳句は読まれることで初めて完成するのだということを感じております。
いや、いろいろな読みに晒されることで永遠に未完成なのかもしれません。
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