商店街放浪記35
京都 平等院表参道商店街 〔前篇〕
小池康生
京都には洛中、洛外という言葉がある。
洛中の雪洛外に払ふかな 岡埼るり子
<市内の雪市外に払ふかな>では、話にならない。
洛中洛外と言う言葉の美しさがあってこその一句。
洛中と洛外の目に見えぬ境界線がポエジ―を感じさせる。
残暑の季節にこういう句を思い出すのは涼しくていい。
宇治には世界遺産の平等院があり、観光客も多いので洛外ということを忘れそうだが、実際足を運ぶと洛中とはぜんぜん違う雰囲気なのだ。
「京都の外れ・・・」という感じがする。
宇治はゆるい。
以前、この連載の二十回目で『京都宇治 黄檗新生市場』を書いた。
廃れてなお味のある黄檗市場と、そこを抜けたところにある禅寺、萬福寺のことを書いた。その黄檗から二つ先の終着駅が宇治なのだ。
萬福寺を訪れた数週間後、平等院を訪れ、
「確か、昔も来ているはず・・・」
と記憶を手繰りつつ、頭の中で答え合せをしながら歩いたのだが、なかなか回路がつながらない。
京都駅からだとJR奈良線で17分ほど。
駅に賑わいはなく、新しい駅舎だが、旅気分をそそられない。
駅舎を出ても特に印象的なものはなく、インパクトがない。
少し歩くと宇治橋。ここでぐっと気分が上がる。
木製の欄干に擬宝珠。中州を挟んで宇治川が流れ、浅瀬で少年たちが釣りをしている。
橋から見下ろす川はとても澄んでいる。
鵜飼船で有名なだけはある。
あとで知ったが、この宇治橋、日本三大名橋であるらしい。
橋を渡り終えると交差点。
交差点を左折れると、すぐさま三方向に道が開ける。
川に沿っている道は、平等院表参道商店街。
真ん中の道には、大鳥居。橋姫神社やあがた神社に続く道。
もうひとつの道は、宇治橋通り商店街。
どの道もそそられる。
まずは、平等院に続く、表参道商店街に入る。
宇治茶扱う店が多い。
それぞれ老舗でございますというオーラをだしている。
スーツを着た男性が、試飲のお茶を慇懃に振舞ったりしている。
「もう少し、気さくでいいんじゃないか」
と思ってしまう。
空腹を満たすため、「中村藤吉平等院店」に入る。
お茶を売る店であるが、カフェもあり、茶そばなどを食べさせる。
庭がきれいのと、川沿いであることに魅かれたのと、この店、今京都の甘味どころとしても人気なので入店したのだ。通りにそんなに人が歩いているわけではないのにここはエライ行列。
何分待っただろう。
席に案内される。悠々たるスペースにゆったりと席がとられている。
ちょっとしたお屋敷である。川の中州まで見える。遠くの山もいい背景だ。
これは、くつろげる。甘味の付いた茶そばセットを注文する。
お茶を混ぜ込んだ抹茶ゼリイが付いてきた。どうやこれが名物らしい。
宇治川を眺め、蕎麦と甘いものを食べ、ゆるーい気分が完成する。洛外である。
帰りには、通りに面した店舗で、ご飯に掛ける<お茶ふりかけ>と、<ほうじ茶>を買う。<お茶ふりかけ>は、<梅こぶ茶>と<ふり掛け状にした緑茶>がセットになったもの。<ほうじ茶>は安いが、ご近所の茶舗よりはいい値段だ。宇治に来て、まずほうじ茶を買うところがひねくれものだ。
商店街をうろうろする。
茶舗が並び、蕎麦屋や古美術商もある。石畳でなんとも雰囲気がある。
商店街の入り口が宇治橋、突き当りが平等院なかなかのストーリー。
この商店街、環境庁の定める<香り風景100選>に入っている。
理由は、<平等院表参道の商店会約160mには多くのお茶屋が軒を連ね、茶を焙じる香ばしい香りが街角に漂っている>から。
この<香り風景100選>はなかなかおもしろく、前々回取り上げた鶴橋も選に入っている。選考理由は<鶴橋駅周辺 焼肉家キムチの食材の香り>となっている。なかなか洒落た選考である。
その香ばしいお茶の香りの中を進み、平等院に辿り着く。
入口では、女性従業員が、大声で案内している。
テキパキと頼もしい仕事ぶりだが、風情がない。
どうも、平等院ミュージアムへ先に行くよう進めているようだ。
鳳凰堂内部の見学は申込制で、人数制限があるようだ。
拝観料600円を払い、中に入る。
時間もあまりない。
内部より、全景だ。鳳凰堂の前に向かう。
10円玉でおなじみのあの鳳凰堂である。
しかし、こうして見るとただならぬ美しさである。
この美しさに騒がしい団内客は邪魔である。
だれがどういう発想でこういうデザインをしたのか。
千年前の設計者の講演を聞きたいほどだ。
鳳凰堂の中に入る時間はないので、ミュージアムに入る
ここで、7枚の葉書が蛇腹に繋がった<雲中供養菩薩像52体>を買ったが、これが実に素晴らしい。現物は、鳳凰堂中堂母屋内側の長押(なげし)上の小壁(こかべ)に懸けならべられているらしい。これを見ると、次は本殿に行かねばと思う。
その後、庭を楽しみ、表に出る。
明るい内に、川や中州を歩いておきたかったのだ。
平等院を出て、宇治川へ向かう。
その時、とんでもないことを知る。
川の堤、平等院の正面、柵はあるが、ここから平等院鳳凰堂が丸見えなのだ。
外観しか見ていないのだから、ここからでもよかったかもしれない。
そんなケチ臭いことを考えながら、宇治川の堤に。
中州は広く、そこに鵜の小屋がある。
小屋と言ってもなかなかの大きさで、水槽もあり鵜飼船で活躍する鵜たちの<家>である。鵜飼は町に一体化しているのだ。
さらに、中州の向こう、宇治川の対岸に上がると、そこにもまた商店街が・・・。
長閑な町に一体どれだけ商店街があるのだ。
線香の灰に線香立てて秋 広瀬直人
2010-08-08
商店街放浪記35 京都 平等院表参道商店街 〔前篇〕 小池康生
(続く)
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