2010-09-05

商店街放浪記37 京都 宇治篇 〔その3〕

商店街放浪記37
京都 宇治篇 〔その3〕

小池康生


宇治駅を降りて、朝霧通り。
また、うどんを食べるのだ。
前回発見した『しゅばく』にて、「すだちと九条ねぎの生醤油肉うどん」。
すき焼き肉状のものが二枚のっている。いいセンスだし、旨い。
帰り際、奥から店主が現れる。若くて誠実そうな方。
初っ端に旨いものを食べると、機嫌をよく商店街を放浪できる。

宇治橋を渡ると、放射状に商店街が広がり、その内の一本<宇治橋通り商店街
>を攻める。
前々回書いた<平等院表参道>とは色合いのまったく違う通りなのだ。
放射状のあっちとこっちでこんなにも違うのかというくらい雰囲気が異なる。

<平等院表参道>は、観光的な商店街で、舗のお茶屋が恭しく軒を並べる。
一転、こちらは、生活臭が濃厚である。
枯れた感じを漂わせつつ新旧織り交ぜバラエティ豊かな店舗が並ぶ。

パチンコ店、荒物屋、書店、茶舗、創作ダイニング、スーパー、ふな栄(川魚)、パン屋、銭湯、書店、中村藤吉本店、大阪屋マーケット(市場)、書店、京都銀行、お茶のかんばやし、カフェ、上林記念館・・・・。

昔ながらの町屋もあれば、新築のカフェもある。ドレッシングを売る店がサラダと共にドレッシングを無料試食させる新商売もあれば、朽ちかけた建物で質屋とも古美術商ともつかぬ商をしている店もある。
幾つもの時代が、一本の商店街に織りなされている。

印象に残った店を上げると、まず――――、
<大阪屋マーケット>、これは市場である。中は歯抜け状態で、生花店、青果店、鮮魚店、肉店があり、他は空き店舗。営業店舗よりも空間だけのスペースの方が多い。「危険立ち入り禁止」の札がある。確かに崩れそうな壁や細い柱が心配だ。それでも開いている店がある。なんとも頼もしい。

次に―――
川魚の<ふな栄>。ウナギはもちろんのこと、川魚を扱い繁昌している。店頭にあった鯉の洗い、一パック350円を買わなかったことが悔やまれる。

京都銀行の前に、宇治代官所跡がある。
解説文には、宇治の茶師上林家が長らくこの地の代官を務めていたと記されている。

上林記念館に入る。200円。茶づくりの道具と工程の説明などがあるが、200円に見合う展示かというと、ちと疑問。

宇治編の第一回目に書いた茶舗<中村藤吉>の本店が、商店街の中央にある。
満席で席につけなかったが、庭には入れて宇治銘木百選の<舟松(くろまつ)>が見られたし、門をくぐってすぐのところには餅花があり、これが実に本格的。夏のように暑い秋口に、正月の季語をじっくり拝見した。その餅花から真後ろに振り返ると、今度は奥座敷が見えた。五間ほどの襖を開けているので奥まで見通せ、その突き当りには大きな仏壇があった。

商店街をうろうろしながら気づいたことは、JR宇治駅は、この商店街の中央部近くにある。京阪宇治駅とJR宇治駅の二つの玄関口があるのだ。
JRの駅前には、茶壺型の大きな郵便ポストがあり、実にユーモラス。
ここに投函して茶壺の消印でも貰えるなら嬉しのだが、そういうシステムではないよう。

商店街をさらにうろついているうちに、やけに<抹茶>という表記が多いことに気づく。お茶に記されているのではない。総菜屋。パン屋。菓子屋等で<抹茶>の文字を目にするのだ。つまり抹茶を使った商品で溢れているのだ。

抹茶コロッケ。抹茶豆腐。抹茶サブレ―、緑茶あんぱん、茶壺パン、 茶そば、抹茶ゼリー、抹茶くず、抹茶ふりかけ、抹茶チーズケーキ。抹茶生チョコレート・・・。

パン屋で、なかに抹茶餡が入っているという<茶壺パン>を買い、レジの女性に訊く。
「抹茶は、この辺のものを使うんですか?」
「もちろんです。うちは、辻利さんのお茶を使ってます」
第一声の「もちろん」に力が入っている。プライドだ。

惣菜もパンも菓子も抹茶抹茶抹茶・・・。まるで抹茶商店街だ。

もうひとつ、嬉しかったことは、この一本の商店街に三軒もの小規模な書店が存在していること。どこの街も小さな本屋は消えていくのみなのに、ここには三店舗も共存している。これもこの商店街の特徴ではないだろうか。

そう言えば、他の街のどこにでもあるビデオ店や大型古書店やチェーン展開の大衆居酒屋が見当たらなかった。宇治は独自の商店街を守り、かつ新店舗を招いているのだ。

商店街を抜け、宇治橋に向かう。
宇治橋を渡りはじめた時、茶の香りがしてきた。
茶葉の精製過程の香りだ。
川風に乗り、ここちよい。

橋の途中でその香りが遠のき、水の匂いがしてきた。
秋というのに、夏の匂いの水だ。
対して歩いていないのに、やけに疲れる。
暑さ負けだ。
そうだ。宇治金時を薦められていた。
さて、どこで食べようか。

 佇めば身にしむ水のひかりかな  久保田万太郎


                                (以上)

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