2011-07-03

週刊俳句・10句競作(第1回) 応募38作品 作者とプロフィール

週刊俳句・10句競作(第1回) 
応募38作品 作者とプロフィール


【01 垂乳根】 山田露結

飲み干して思ふことなし夏の水
肉は肉骨は骨なる更衣
あるときは妻の昼寝を見てゐたる
どこからかピアノどこからか夏蝶
風鈴や人はかの世にあこがれて
蝉時雨浴びる言葉を浴びるごと
動きやすき人の林や夏の雨
拭ふものなき唇に西日さす
たらちねの母のよろめく冷酒かな
噴水が人の代はりに立つてゐる


■山田露結 やまだ・ろけつ
1967年生まれ、「銀化」同人。ブログ「Rocket Garden ~露結の庭~

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【02 おかあさん】 澤田和弥

青梅青梅青梅青梅だ
海亀の跡なんめりと砂平ら
年々に褌の減る海開き
我が影を袈裟懸けにして蟻赤し
あら嫌なおかみさんだね梅雨入だね
少しばかり押されてくぐる茅の輪かな
ナイターや遂に代打のあの男
さてこれは毛虫入れろといふことか
黒く黒く海はありけり修司の忌
明易きかなにつぽんのおかあさん


■澤田和弥 さわだ・かずや
1980年生。高校時代より寺山修司に私淑。早稲田大学俳句研究会出身。「天為」同人。「天為」200号記念作品コンクール随想の部第1席。先日、初の同伴出勤を経験。未婚。独身。

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【03 てろりる】 佐藤日田路

缶コーラプシュり鳩尾解放す
白無垢の棺有桝女郎蜘蛛
金輪際練乳苺唯物観
夏蝶に狙われている狙撃兵
金魚玉かつて火の玉たりしこと
鎌首を擡ぐ少年蛇使い
心臓のザフザフと噛む夏あざみ
夏痩身桃色豚形貯金箱
脳幹注入トニックシャンプー髪洗ふ
海胆の棘てろりる物体Xる


■佐藤日田路 さとう・ひたみち
兵庫県姫路市在住。俳誌「ロマネコンテ」同人・現代俳句協会会員・「海程」会友。

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【04 ラプソディ】 甲斐一敏

フクシマやアウフヘーベンと泣くアトム
吉良常も飛車角も非在鳥帰る
松島や草間彌生の鯨跳梁
山羊汁に古酒(クース)ほらほらほらイサク
マティニー二杯奥さん鯨は帰ります
来い来いメッキーメッサ向日葵くわえ
海の青空の青飛魚韜晦す
飯蛸の飯食めば緑なす鐘の音
山羊祀る夕陽はよう鎮まりなされ
ミモザ咲きましたかと耳なし芳一


■甲斐一敏 かい・かずとし
1941年生。「船団」会員。大阪在住。

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【05 おのまとぺ】 御中 虫

≫縦組:神野紗希のオススメ

ツイッツイッチィー。夜明けの唄は。ツイッツイッチィー。
とこぱったむ。とこぱったむ。とことつん雨。
天突く突く天突く突く天天突く傘傘傘
いやあんやんまあええやん猫発情す
うっゲホゲホくっゴホゴホ仮病ですゴフッ
るららるらてぃららてぃらてぃら新品のすかあと
たんまりとすたすたすったかすりりんご
ちちちちちちちちちちちちちちち膣
郵便受けがすたんきゅうぶりっくと軋んだ
玉砂利砂砂利玉砂利砂砂利。煙管ココン。


■御中虫 おなか・むし
1979年大阪生。2010年第三回芝不器男俳句新人賞受賞、他。所属結社なし。

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【06 百八】 小早川忠義

≫縦組:西原天気のオススメ


パソコンのうちにかたへに扇風機
五月雨や鍾馗の髭も枝毛にて
家路なり多分梅酒の待つてゐる
満遍無く莢焦がされぬ蚕豆
新じやがの皮貼り付くや塩の粒
短夜や疲れの色は黄金とな
強力や百八本の缶ジュース
置物の狸空見る薄暑かな
妻も子もゐずや中州へ川遊び
腰骨の日灼け具合を較べをり


■小早川忠義 こばやかわ・ただよし
1969年富山県生まれ東京育ち。2005年より詠句を始める。合同句集に「wakka!」。歌集に『シンデレラボーイなんかじやない』。 2009年「童子」入会。twitter:tadayoshi_k

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【07 青嵐】 鈴木茂雄

おぼろからついに朧がはみ出しぬ
きもちよささうに曲りて春の川
洗濯機回転すれば緑立つ
青田青田に風神も雷神も
新聞紙突如蝿叩きになりぬ
夏すでに錆び街角がひりひりす
影に入りても鉄骨の暑さかな
白日傘バリアのごとくひらきけり
消えさうな片陰ばかりつづきけり
青嵐ここに神社があつたはず


■鈴木茂雄 すずき・しげお
大阪生まれ。インターネット俳句結社「きっこのハイヒール」/吟行俳句の会「Kotekote-句~Love」所属。『ハイク・カプセル

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【08 梅雨の蝶】 石田遊起

天井の龍の墨絵のさみだるる
夏みかん畑仕事はひとやすみ
中空へ蔓はゆらゆら青葡萄
蜘蛛の子のお家はすでに散り散りに
梅雨の蝶まだらにゆるる斑の目
あめんぼの大きく映る池の底
畦道のなかを歩いて蛇苺
ぐつしよりの新聞を剥ぐキャベツかな
夕立の隅にころがる松ぼくり
梅雨の夜のごきぶりの家たててをり


■石田遊起 いしだ・ゆき
1948年東京生まれ。「大」会員、ブログ「俳句と書

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【09 雌でせう】 藤幹子

はんざきの姦といふ字の頭かな
終日若葉終日駐車場係
あぢさゐを雲と同定せし淑女
子午線をはみ出すカギの救急車
梅雨空やクレーン車なら雌でせう
カムチャツカ沖へパピコは行つたのだ
ほんたうの父やソーダ水が下品
チューペットに鋏の味のして帰省
撫子咲くなりすでに裂かれてゐる
れもん汁にてみがかれし赤恵比寿


■藤幹子 ふじ・みきこ
1978生。『炎環』所属。2010年、炎環新人賞受賞・同人。岡山在住。

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【10 この夏】 当銀美奈子

作品に蛍光りて故郷想う
不器用は食わず嫌いか夏魚
君想う節電の夜に蛍飛ぶ
雨雲を琵琶湖で絞り送りたき
夕星(ゆふつつ)願う此岸彼岸の橋渡し
津津に波此岸彼岸を繋ぐ筒(つつ:星)
網の上津筒星(つ、つつ、ツツ)の謎泳ぐ
焼酎の瓶に生けたり水中花
和蘭陀と豪雨を憂う日曜日
ジャポニカの緑のいのち壱萬年


■当銀美奈子 とうぎん・みなこ
大阪生まれ。プラスチック・クラフト作家。モノをみつめ、日本をみつめ、既存の素材的制約の中で造形するプラスチック・クラフトに対するコトバの制約の中での表現に共通性を感じ「俳句」に興味を持ちました。サイト「キッチンアート

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【11 南吹く】 五十嵐義知

つま先に触るる卯の花腐しかな
青柿のふへてゆく夜の月青し
袖口の裏がへりたり洗ひ髪
板敷きの同じところを踏む跣足
青嵐見れば川面を渡りけり
赤鱏の静かに沈む地下通路
花槐気泡含みし窓ガラス
柴垣の反対側の桑いちご
瑠璃色の指先土用蜆かな
半袖のかひな白かり南吹く


■五十嵐義知 いがらし・よしとも
1975年秋田県生まれ。平成13年、天為入会。平成21年、天為同人。平成22年、天為新人賞。共著に『新撰21』(邑書林・平成21年12月)。

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【12 フクシマ】 赤間 学

誰がために原発あるや春の惨
福島はフクシマとなり春の空
阿武隈の山越へきたり蟻の列
避難所を変はり変はりて聖五月
蜃気楼三十キロ先の原子炉
原発の風重たきや夏の昼
炎天や作業員の影被爆せり
夏椿逃げて捨てたる故郷の地
卯月野のふる里に黒牛の群れ
父の手に抱かるる夢や夏の海


■赤間 学
結社「滝」同人。Eメール nbk10022@nifty.com

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【13 微熱】 中村 遥

≫縦組:銀賞

青梅を煮たるその夜の微熱かな
斑猫を見失ふ六道の辻
鶏の木に上りたる薄暑かな
古書市の紙魚多きもの漁りけり
衣更へて薬の花の咲く樹下に
桃色の干菓子を舌に梅雨の底
波音を吸うて仙人掌咲きにけり
草笛を吹くや潮気の濃き風に
海藻の貼り付いてゐる簾かな
夜涼みや消毒したる舟の上に


■中村 遥 なかむら・はるか
1954年兵庫県生まれ、神戸市在住。2000年「斧」入会。斧同人、斧新人賞、斧結社賞受賞。第8回朝日俳句新人賞準賞受賞。

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【14 ゐなくなる】 加藤水名

いっせいに少女隠るる茂みかな
一輪車置く薫風の通り道
新緑のなかにもう揺れない木馬
思ひ出の中ではいつも夏帽子
噴水が卵の中にあったころ
玉葱が空をうづめて聖五月
あめんぼは水が嫌ひで空が好き
蚯蚓さかんに跳びはねてをり怖し
またがってひみつのびはを食べようよ
雨音が巻き取ってゆく昼寝かな


■加藤水名 かとう・みずな
静岡県生。2011年句作開始。

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【15 しるし】 宮本佳世乃

またたけば海になりけり夏の川
音をきく背中に鮎の釣られをり
かはせみの彼方より水近づきぬ
あのへんにひとかたまりにゐる河鹿
滝までの道にしるしのやうなもの
渓谷や空のちひさく過ぎるころ
ひとつ忘れて山滴る森滴る
切り株をむかしの夏の蝶が去る
山あひ見えてかはほりはまだゐない
白よりも白き滝なり軽からず


■宮本佳世乃 みやもと・かよの
1974年生まれ。「炎環」「豆の木」に所属。2010年、合同句集「きざし」。

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【16 虫笑・蝶笑】 高橋透水

尺蠖の空を探って立ちん坊
掃除するだけに生まれた蟻ってわけか
でで虫に人身事故のアナウンス
赤とんぼ赤くなれずに山にいる
十五音譜くらい欲しい蝶だね
蚯蚓だって死ぬときゃ天を仰ぐさ
とんぼうが石に抱きつき齧ってる
息かけて薮蚊を空に返そうか
手の平で重さ失う天道虫
癌に効く話は聞かぬ蚯蚓だな


■高橋透水 たかはし・とうすい
1947年3月新潟生まれ。東京都在住。還暦後に俳句を始める。超結社の句会『湯島句会』に所属。他に俳誌やインターネット句会に投句している。

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【17 竹婦人VS. 】 中塚健太

竹林の賢人娶る竹婦人
綾波レイ発進青葉風過ぎた
一線をどこまでとする竹婦人
六月の宝石箱の目玉親爺
かぐや姫産みしはむかし竹婦人
海霧やゴジラ生まるる放射能
しなやかやないすぼでえや竹婦人
お花畑初潮を知らぬちびまる子
棹竹に思ひを寄せる竹婦人
日射病のだめのだめな恋のごと


■中塚健太 なかつか・けんた
1962年兵庫県生まれ。東京都在住。2010年「銀化」新人賞、同人。

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【18 マーベロン28】 石原ユキオ

死ねばいいのにひとやまの蕗の薹
鳥交るつけまつげ用接着剤
春闌液もれしてる万華鏡
風光る幼い姉の枝毛なども
初夏の四角い匙を舐めさせる
なんておおきな苺を摘む昼の恋
梅雨寒やたんすの上に薬箱
令嬢めく小指に蟻を這わせれば
ふとももの涼しきひとや格闘技
花火だいすきにんしんはのぞまない


■石原ユキオ いしはら・ゆきお
1982年生まれ、岡山市在住。期間限定短詩系女子ユニットguca(http://guca-love.blogspot.com/)所属。

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【19 ひよいとチヂミを】 青島玄武

波音に驚く赤子合歓の花
蟻の列見えぬ軍旗を翻し
模型屋の風鈴に舌なかりけり
予鈴鳴り田植えの上を谺する
黄鶲やひよいとチヂミを裏返し
菖蒲湯の寝返りを打つ菖蒲かな
全身で梅干の緋を味はへり
毛先から砂となりゆく水中り
羽抜鶏ときどき天を突くなり
鮎釣りのまだ暇さうな左の手


■青島玄武(あおしまはるたつ)
1975年熊本県生まれ。熊本県在住。『握手』同人。現代俳句協会会員。九州俳句作家協会会員。『新撰21』に選ばれないほうの新撰21世代。俳句ブログ『風雅な麻薬』 ブログ『カルバートン・スミスの告白

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【20 化石の旅】 きむらけんじ

春行くや巫女は理学部数学科
春の暮見飽きても見るサザエさん
コンテナを五月の空へぶら下げる
新緑や女ばかりの形見分け
六月の母を背負うて二階にあがる
沖縄の空の青さを豚喰い尽くす
水底で木の葉化石の旅につく
冬の夜の絵本で熊が殺される
山眠る河童は公民館の裏
冬銀河階段下の悪だくみ


■きむらけんじ
1948年兵庫県生まれ。「層雲」同人。句集「鍵の穴(2002)」「鳩を蹴る(2005)」「昼寝の猫を足でつつく(2009)」。

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【21 魚眼望遠鏡】 十月知人

キドナップきゅうにはじまるむぎばたけ
あすてかは浮きがいっぱいみなみかぜ
まぶしくてみやこの鮎はのこすもの
あこがれのあねにひるよる四日間
めきしこはしちみまみれの父である
きんぎょばちきんぎょのゆがみひめくりで
まぼろしの鱏のうらがわ頭脳線
しゅもくざめ天才のメスぬすまれる
象たおれ少年少女合唱団
むしたちのせいきあつまる虫星雲


■十月知人 とつき・ともひと
岡山市出身。2000年から作句。

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【22 黄身】 すずきみのる

福わかし湯玉の音はFかG
老犬の漆黒の鼻鳥総松
破魔弓をアクアリウムに立て置きぬ
くされ潮人形浮かべたゆたゆと
初午や疎水に沿ひて稲荷駅
麦笛を憶えてをりぬ両の耳
亡きひとの愛書の上のサングラス
壁と床ひといろの居やそぞろ寒
水槽に動かず万価のずわいがに
寒波来白飯のうへ黄身が顕つ


■すずきみのる
1955年生まれ。京都市在住。俳人協会会員。「参」「鼎座」所属。句集『遊歩』。

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【23 またあした】 千代

日盛りやツルハシ置きて雪隠へ
雨しとど満員の船夏に入る
二階へと木がのびている昼寝かな
少年の足投げださる冷奴
自転車のかごのあやめに誰か来る
上履きの歩道の蟻をもてあます
懐に絶滅のトラ五月闇
君が息止めているうち夏の海
向日葵のくろこげのもとまたあした
緑陰を行くどこまでもどこまでも


■千代 ちよ
1985年大阪府生まれ。「香天」会員。

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【24 メインイベント】 栗山 心

溽暑へと戸を開け放つ格闘場
兵馬俑の兵のごとくに南風受く
訳有りの過去ある如くサングラス
夏の夜へジェット風船飛ばしけり
隙間無くタトウされたる素足かな
麦酒干すメインイベント始まりぬ
立ち技の攻防となり夏の月
寝技また汗に滑るやタイトル戦
試合果つアロハに着替へ格闘家
晩涼や荒野めきたる埋立地


■栗山 心 くりやま・こころ
1964年東京生まれ。「都市」所属。ブログ「心の俳句雑貨店」

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【25 誰のものでもない金色】 青田ペネタ

秋の田の誰のものでもない金色
数寄屋橋アスパラガスとすれ違う
雨蛙アジサイ・テラス#三〇五
熟れた桃わたしの横顔かもしれぬ
グラスホッパー今日の予定に雨宿り
秋霖や革靴履いた大男
秋は影もグレーの長くて滑稽な
ふたりいて別の夜長に埋もれおり
灰色の空も好きだよネコヤナギ
クツクツとカレー煮ている初閻魔


■青田ペネタ あおた・ぺねた
1963年生まれ。神奈川県在住。「みづすまし」「其角座」に参加。

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【26 さなぎ】 俳句飯

KARA踊る児ラッパ水仙板塀に並び
満腔(まんこう)の春泥本籍地の公園
ウロウロしてさなぎのような家(うち)に会える
放置レタス確かに三個雲の気分
眉薄くヤギの愛舎(あいしゃ)に立っている
携帯は沼ワニ母現在育児中
城のごと夕日を重ね裸足の蠅
緋色の土イタチと雨を聴くあいだ
宵ツツジ松にこけ伏す吾が犬は
切り立てんアゲハ蝶らナタデココ持ち


■俳句飯 はいくめし
鳥取県在住。無所属。ネットで「俳句飯」として自作句を掲載中。句歴2年。

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【27 歯が生える】 杉原祐之

乳を呑む夢見てをるや蛙鳴く
立葵バギーの高さより咲きぬ
ナイターの歓声に泣く赤子かな
桃のやうな歯茎に現れる歯の形
嬰児の笑まひ扇を使へとぞ
口開けて扇の風を受くる嬰(やや)
ミルク飲みながらに汗を掻いてをり
うつ伏せの嬰の後頭の玉の汗
二人目を身籠るらしき薔薇香る
八月の六日へ向けて工事中


■杉原祐之 すぎはら・ゆうし
「山茶花」同人、「夏潮」運営委員、「慶大俳句」出身。平成22年4月第一句集『先つぽへ』出版。好きな四文字熟語は「花鳥諷詠」。サラリーマンしながら子守しながら俳句を詠む日々です。

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【28 アトムの胃】 のじま米男

一月やぱつかと開くアトムの胃
鉄人の鼻とんがつてやや寒し
朧夜のじやんけんグリコチョコレート
ベルサイユだけど気分はミヨソティス
桑の実を食うて火の鳥こんな口
麦藁の海賊団だ夏帽子
ドラえもんのポケットに入る西瓜かな
キャンディのそばかす結ぶ星月夜
糸瓜ぶらりぶうらり使徒が来襲す
のらくろの台詞のやうだじふにぐわつ


■のじま米男 のじまこめお
大阪在。季会「こてこてお好み吟行句会」幹事。サイト「(≧∇≦)ノ ハーイジャンキー

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【29 水】 金子 敦

水無月の飛沫模様の色紙かな
燦燦と日の降り注ぐ水中花
若竹や水琴窟の音かすか
万緑のひかり閉ぢこめ水晶体
精密な海賊船や水遊び
水筒の名札ひらがな姫女苑
踏切を越ゆる潮風ソーダ水
あめんぼのまた戻り来る水溜り
水色の紫陽花浮かぶゆふまぐれ
夕闇が原材料の水羊羹


■金子 敦 かねこ・あつし
1959年神奈川県生まれ。1985年作句開始。「門」「新樹」を経て、現在は「出航」に所属。1996年第一句集『猫』上梓。1997年俳壇賞受賞。2004年第二句集『砂糖壺』上梓。2008年第三句集『冬夕焼』上梓。俳人協会会員。

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【30 薔薇色】 鈴木牛後

新緑の裏ぶううんと空調機
夏空を借りて東京モノレール
薔薇色の未来をあをき薔薇に訊く
噴水は枯れ血をもつもの地下に
のきのきとタワー虹へは届かざる
明易の二十八時のヘッドホン
紫陽花へ滑り込みたる逆走車
緩まざる螺子のざわめく梅雨入かな
ででむしの大好きな人大嫌ひ
紙袋がざつと麦の風捨てた


■鈴木牛後 すずき・ぎゅうご
1961年生まれ。「いつき組」組員。「迅雷句会」メンバー。

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【31 ビクターの犬】 内田茂る

マネキンの足組み替へる薄暑かな
枇杷種を吹ひて夕風起こりけり
横丁にビクターの犬ラムネ抜く
少年の声はソプラノ河鹿鳴く
解散は泰山木の花暮れて
山ガール固まってゐる濃紫陽花
五月雨や河童を祀る奥社
ペディキュアにラメ入る夏や鹿の糞
遠き日の脛の白さを蛍の夜
羅や跳ね橋あがる時を待ち


■内田茂る うちだ・しげる
1953年生。青垣会員、NHKふけ教室、船団句会などにも参加。師は、ふけとしこ、大島雄作。

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【32 フド記】 久乃代糸

≫縦組:五十嵐秀彦のオススメ

風呂敷の中の秋風年経たり
水母の頭二つに飢えが来て去りぬ
ことごとく墓の前にて息白し
燐寸費す汝寒椿をへだて
燕子花たましいながらムラサキに
鳩冬に不確かなもの啄むや
まなこみな薄紫の神の旅
善人は遅れて来たり寒卵
季節外れベンチおのずから倒れ
地下鉄を乗り継ぐ日々も枯れゆくに


■久乃代糸 くのよし
1958年生。無所属。投句作品「肌ざわり」「極東」。

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【33 夏至南風】 平井猛博

朧夜のテールスープの白髪ねぎ
軍艦のごと熊蜂の迫り来ぬ
行く春や雨やり過ごす牛丼屋
嶺颪に鳥大ひなる端午の日
水貝や東京は玻璃ちりばむる
梅雨寒の実験動物室匂ふ
鳥啼いて鳥啼き返す夏座敷
三種盛りなれど五種来て夏至南風(かーちばい)
宛がひて包丁と茄子照り合へる
身の内に森あり滝に濡れ尽くし


■平井猛博 ひらい・たけひろ
1989年生まれ。茨城県在住。中学2年時に句作開始。現在大学4年生。

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【34 うみねこ】 近 恵

荷造りの紐の足りない昭和の日
長袖のはみ出す鞄夏隣
余花の地に入るや新幹線静か
張り初めし田水や空をよろこばす
朝凪や砂利青白き線路跡
海恋しからう烏賊釣船解体
浦風を含みし夏シャツの重さ
サルベージ船が薄暑の海つかむ
うみねこの糞たくましく降り来り
夏潮をなだめて夕日落ちにけり


■近恵 こん・けい
1964年生まれ。青森県出身、都内在住。2007年より俳句を始める。「炎環」同人、「豆の木」メンバー。賞罰:2009年炎環新人賞受賞。

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【35 みづ】 生駒大祐

水責の水壺を泳ぐ蟾蜍
時間が壁の高いところにある白夜
ゆふだちを孔雀は「兄(けい)」と告げ渡る
高きより橢円の中に夏尿
羽抜鳥の首に繃帯くれなゐの
河口あれば河尻のある鰻かな
夏雲に端切を當てて粗く縫ふ
つめたさの朝寝の死者の白枕
父の乳首吻ふ母ありき蜜豆来
さいでつか納戸に棲まふ竹婦人


■生駒大祐 いこま・だいすけ
1987年三重県生まれ。「天為」「トーキョーハイクライターズクラブ」所属。「東大俳句会」等で活動。blog:湿度100‰

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【36 枇杷の実】 舟倉雅史

六月や靴の踵で描くベース
口癖は一事が万事茄子の花
枇杷の実に工事の足場触れてをり
サングラスとことん手話で言ひ負かす
人間としては失格さくらんぼ
梅雨の月会議の窓に現はるる
眠る間も血は巡りたるえごの花
夏富士やバケツ鳴らして牛の乳
黒板にヘロンの公式窓に蜂
夏空へ助走短く跳びにけり


■舟倉雅史
1957年東京都生まれ。ブログ「僕が線を引いて読んだ所

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【37 いびつ】 村越 敦

縦組:金賞

ウヰスキー色の仏陀やひこばゆる
造られて公園となるチューリップ
松いびつ桜が咲けば人の出て
手も足もある春の雲あふぎけり
花は葉にものかんがへるときの口
よき午後や薔薇の味するヨーグルト
一匹の蜘蛛を降らせて松の木は
タクシードライバータクシーを背や遠花火
卓上に魚肉ソーセージありけり紫蘇乾く(「魚肉ソーセージ」に「ギョニソ」とルビ)
ひとにうなじあり颱風が来つつあり


■村越敦 むらこし・あつし
1990年東京都国立市生まれ、調布市在住。現在、大学3年生。

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【38 明滅】 田島健一

≫縦組:関悦史のオススメ

かたつむり雨を痛がる地球の子
明滅や夕立を少女は絶対
蟹追う犬空間が混み合っている
紙で創る世界海月の王も紙
鉄塔をひとするすると日雷
飛魚を食い強運をもてあます
実母義母金魚静まりかえる雨後
帆立貝とみじかい手紙敬称略
ひけらかす死のかりそめを明るい雨季
薔薇を見るあなたが薔薇でない幸せ


■田島健一 たじま・けんいち
1973年東京生れ。「炎環」「豆の木」。現代俳句協会青年部委員。共著『無敵の俳句生活』(ナナ・コーポレート・コミュニケーション)、『新撰21』『超新撰21』(邑書林)。ブログ「たじま屋のぶろぐ

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以上 38作品

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