2011-07-24

虚子句・大誤読 西原天気

虚子句・大誤読

西原天気


おまわりさんがやって来て、ラムネ瓶を逆さまにする。そんな虚子の句を読んで、この「逆さま」は、ラムネを飲んでいるのだと即断し、その理解に添って解説文を書いた。『虚子に学ぶ俳句365日』(草思社)の話。夏の句。他との調整もあって、八月の初めのほうの日付の箇所にある。

今になれば、瓶を逆さまにする行為を、飲むことに直結させてよかったのか、ちょっとひっかかるところがあるし、読み手によっては「なぜ、それを『飲んだ』と読むの?」と訝るだろう。でも、そんときは、何の疑いもなく、巡査がラムネを飲んだと解したのだった。

ところが……。

ある日、版元の担当編集者から、読者から編集部に宛てたハガキが送られてきた。

読むと、この句の解釈の間違いを指摘してくださっている。誠に、説得力のある指摘だった。読者ハガキは、どんな内容であれ、本を作った者、書いた者にとって、たいへんありがたいものだが、とりわけ今回のおハガキはありがたく、読後、何遍も御礼にアタマを下げたくなった。

ハガキに曰く、昔の巡査は勤務中に飲食をしたりしない

なるほど、いくら暑い日でも、制服で店頭にやって来て、ラムネを飲んだりするのは、ちょっとおかしい。

ハガキに続けて曰く、この「逆さま」は、ラムネが古くないか、濁ってはいないかを調べているのだ、と。当時は食品を専門に検査する人などいない。巡査が、いわば保健所の仕事を兼ねていたのだ、と。

ああ、そういうことか。

「逆さま」ということで、「飲む」と読んでしまった私は、誠に浅はかだった。

刷り増しとなったときには、この部分を改稿しなければいけない。

ハガキの主は、現在90歳近い。虚子のこの句を実景としてご存じの方の、貴重なご指摘・ご教示だったのだ。


週刊俳句編『虚子に学ぶ俳句365日』

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