2011-09-11

週刊俳句・10句競作(第2回) 応募34作品 作者とプロフィール

週刊俳句・10句競作(第2回) 
応募34作品 作者とプロフィール


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【01 新・露出狂】

水泳帽を小田原に忘れけり
友人の紹介といふバナナなり
先生の桃色乳首草相撲
海月赤し深層心理なる夢精
緑蔭はどこへ水道管を罅
性的興奮中のはんざきなり
冷房に老いて激しき勃起なり
びちよびちよをぐちよぐちよにして桃食ひぬ
しやぶれしやぶりつけ西瓜しやぶりつくせ
戦後とはまさしく女陰大西日

■澤田和弥 さわだ・かずや
昭和55年、生。「天為」同人。「或る男・序詞」にて「天為」20周年記念作品コンクール随想の部第一席。
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【02 株主総会】

想定問答繰返し明易し
株主の蟻の如くに来りけり
アイスティー飲み株主の語らへる
株主の席に置かるる団扇かな
会場のマイク係の玉の汗
異議なしに異議ありと云ふ白扇子
壇上の麦茶の滴だらけなる
円団扇決議に賛意示すかな
株主の後姿の夏帽子
総会の果て冷房の音大き 

■杉原祐之 すぎはら・ゆうし
「山茶花」同人、「夏潮」運営委員、「慶大俳句」出身。平成22年4月第一句集『先つぽへ』出版。好きな四文字熟語は「花鳥諷詠」サラリーマンしながら子守しながら俳句を詠む日々です。
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【03 夏の傷痕】

炎昼のレバー貪るはとこかな
白南風の吾子の歯めきめき伸びにけり
服乱れしをんなゆるりと西瓜にのまれ
月光の乳房嬲る青鉛筆
二歳児に小児性愛を説く秋桜よ
台風や真つ赤になつてつきまとふ
なめくぢの残滓を跨ぐ団地妻
月光の石榴残してソープ嬢変死
夏の傷痕季節過ぎてもまだ癒えぬ
氷河期の気分味はふ雀かな

■冬野 凪 ふゆの・なぎ
1976年大阪府生まれ。現在埼玉県在住。無所属。
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【04 炎昼裡】

一行詩青い岬の尖端に
朝市の水が飛びつく跣かな
炎天や道は火が這ふ導火線
街中の印刷がずれ炎昼裡
炎帝に一縷の黒も許されず
大鳥居より片蔭を授かりぬ 
風鈴のごと炎天に城うかぶ
蝉しぐれ寺院寺院に耳吊るし
はつきりもくつきりもゐる樹陰かな
ヨット入港夕焼けの幕が下り

■鈴木茂雄 すずき・しげお
大阪生まれ。インターネット俳句結社「きっこのハイヒール」/吟行俳句の会「Kotekote-句-Love」所属。『ハイク・カプセル』http://twilog.org/haiku_capsule

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【05 座禅】

達磨さま蚊音にくしゃみ心太
仏法僧ストリートダンス木漏れ月
ヘッドフォンロックにしみる蝉の声
朝コーヒお釣りの手触れ梅雨晴間
目薬でまつげ流され戻り梅雨
炎暑かなお化け屋敷が停電し
日射病白犬家族ソフト舐め
イヤホンにうなじ取られて朝顔は
ボストンはクラムチャウダーしじみしる
日の本の達磨は起きる忍草

■天海青龍 あまみ・しょうりゅう
1947年生。同人無し。
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【06 片膝】

上手より名優出でし夏芝居
新幹線改札口の花氷
地図にある川の蛇行や秋暑し 
雑草を分けて水引草長し
八月大名港の見える座敷かな 
片膝の膝にのりくる茄子の馬
皆人の整列したる流燈会
大広間静まり返る盆の月
銀漢の先端天主堂につき 
流星の海へ海へと落ちゆけり

■五十嵐義知 いがらし・よしとも
一九七五年秋田県生まれ。平成十三年、天為入会。平成二十一年、天為同人。平成二十二年、天為新人賞。俳人協会会員。共著に『新撰21』(邑書林、平成二十一年十二月)。
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【07 無限接点】

マンボウのまばたき車輪の発明
対話篇からはみ出す赤いストロー
泣きながら遠くへ投げる聴診器 
長袖のシャツでくるんだ父の首
始まりを思い出すまで手をゆすぐ 
消火用ホースに腋をくすぐられ
樹液すずやか責任感のある眼球
へその緒を液晶画面にくぐらせる
疼痛がノートに置いた玩具にも 
日本語を嗅がすと汗をかく表土

■湊 圭史  みなと・けいじ
1973年大阪生まれ。京都市在住。川柳誌『バックストローク』『ふらすこて
ん』、詩誌『Lyric Jungle』同人。
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【08 夏休み】

甘味屋の夏暖簾より呼ばれけり 
そこここに着信音や街薄暑
江ノ電の窓をはみ出す雲の峰
手作りの風鈴並ぶ無人駅
テーブルに猫の跳び乗る海の家
欄干に凭れてバナナ剥いてをり
玩具箱より溢れたる夏休み
宿題のノートに西日届きけり
ミルキーのとろんと甘く合歓の花
まだ潮の匂ひ残れる夏帽子

■金子 敦 かねこ・あつし
1959年神奈川県生まれ。1985年作句開始。「門」「新樹」を経て、現在は「出航」に所属。1996年第一句集『猫』上梓。1997年俳壇賞受賞。2004年第二句集『砂糖壺』上梓。2008年第三句集『冬夕焼』上梓。俳人協会会員。
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【09 Summer In The City】

高速道の大き片蔭町つらぬく
美少女が団扇を配る繁華街
コンビニの埋蔵アイス探査せる
太陽と笑ひの飛沫区民プール
名画よく冷え冷房の美術館
駅徒歩5分マンション全戸西日のドア
夕焼の残照に浮く高層ビル
パチンコにつぎ込み夏の星降らす
駅のホーム混み合へれども夜涼かな
列車の灯銀の鎖や夏の果

■中塚健太 なかつか・けんた
1962年兵庫県生まれ。東京都在住。2010年「銀化」新人賞、同人。
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【10 夜 叉】

葛あらし絡繰木偶が夜叉となる 
なまなまと海鳥の鳴く展墓かな 
潮嗄れて天牛鳴くよ箱の中 
人形を焼く栴檀の実の下に 
穂孕みの風に柩を運び出す 
早稲の匂ふや骨壷に骨満ちて
月代の裏戸より舟出しにけり
月待つや肉桂の枝噛みながら
蛇穴に入る時きつと宙を見る
曼珠沙華眼の筋肉の衰へて

■中村 遥 なかむら・はるか
1954年兵庫県生まれ、神戸市在住。2000年「斧」入会、斧同人、斧新人賞、斧結社賞受賞。第8回朝日俳句新人賞準賞受賞。
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【11 蝉鳴くや】

山門に気勢をあぐる蝉嵐
向日葵の千の眼の見し殺人者
被災地の牛舎に残る扇風機 
虹の橋登りはじめる兎と亀
驟雨きて街に火薬の臭ひ満つ
遠雷と原発事故の光化学
金蝿よ俺の額は生きてゐる
蝉鳴くや六日九日十五日
炎天に孤独死のゼロの広報車
ブナ林にゲンパツと鳴く秋の蝉

■高橋透水 たかはし・とうすい
1947年3月新潟生まれ。東京都在住。還暦後に俳句を始める。超結社の句会『湯島句会』に所属。他に俳誌やインターネット句会に投句している。
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【12 情熱諸島】

不意打ちは女人高野の自販機か
にせもののタンバリン買うかの裸族
情熱でやつめうなぎにふたをする
怪獣のかさぶたじょうの和平かな
鶏頭とするだるまさんがころんだ
仏壇を投げればぜんぶコヨーテだ
肺も骨も脳をおいぬき秋の朝
ながれぼし一円玉は浮きすぎる
横綱は枯葉をつけて現れる
青葱のしろいところは父の番

■十月知人 とつき・ともひと
2010年よりネット上で俳句を発表。中国地方に在住。
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【13 地球空洞説】

行き止まりばかりではない半ズボン
萬歳に圍まれてゐる暑さかな  
アルピノがアルピノを喰ふ夏館
夏草の誰かが掘つた落とし穴
生き埋めになることもある流れ星
地下道の階段濡らすラムネかな
ダダ漏れの個人情報蟻地獄
夏蝶や地球の裏側へと放つ
ラッカーとポーとウェルズと夏料理
これからは嘘だけついて端居して

■廣島屋 ひろしまや
1965年山口県生まれ。結社「都市」、「ににん」所属。そのほか、ネット句会をうろうろ。
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【14 だれにともなく】

なにがなし桑の実食うて国想ふ
水馬たゆまずやまずおなじ位置
幼ゆび指せばへんぽん蛇の衣
遠花火音待つこころ沸と湧く
燕の巣そこに迂曲の風とほる 
蝙蝠のばらばら騒ぎくる逢瀬
うつしよの蛇身曝して川渡り
採血の針刺し直すアマリリス
またひとつ夕日が沈む原爆忌
蝉時雨だれにともなく黙祷し

■中村國司 なかむら・くにじ
昭和二十四年栃木県生れ。栃木県在住。「白魚火」所属。
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【15 夏の果】

本堂の無道の墨書涼しかり   
イエスタデーBGМに魂迎
黒文字の水羊羹をなだれゆく 
空蝉となり静脈をさらしをり 
みんみんのみんともいはず夏の果
高殿を深くとよもす法師蝉
夕暮れて蝉時雨より虫時雨
田の神のビルの間や秋暑し
折鶴の白ばかりつり稲つるび
遠くより煙の匂ひつづれさせ

■石田遊起 いしだ・ゆき
1948年東京生まれ。「大」会員、ブログ「俳句と書」http://white.ap.teacup.com/yumeyume1205/
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【16 ヴァカンス】

豊の秋たましひつぶしたまふ日の 
発語して光をにごす須臾となる
天と地を構造できず百舌しづか
われもかうゐるやうでゐてゐないやう
イッヒ・ロマン棄てにけり小鳥くるたびに
空棚に在るいつまでも鳥影が
白桃の手よまれびとを抱かずとも  
宵闇や白い果肉に食われゆく
あてのない手紙のやうに折れ曲がる
ヴァカンスやすべからく季節崩ゆるべし

■小津夜景 おづ・やけい 
1973生。無所属。
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【17 雨】

バナナ腐る雨は降らないだろう傘折る
ハリボテのソフトクリーム雨に溶ける
よほほと嗤ふあんなに快晴だつたのによほほ
嗚呼予想を裏切つてカアテンの裾が濡れた
雨降る否降りやがるのだキスしたら駄目かよ
喧嘩した雨音のかゞやきが邪魔で邪魔で
手をつないでやらんでもない水たまり
びちゃびちゃのブランコ漕いで乾くまで逃げんな 
いろんなものが滴るなかに手もあった 
この雨を無理やりまとめる虹を作らう

■御中虫 おなか・むし
1979年8月13日生。所属結社なし。
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【18 夏桃さん】

冷蔵庫の中から取り出す夏休み 
黄桃をもてはやしてる吉祥寺
どぶ川に流れるきみの桃本や
夏の日にコンドームと桃拾う友
あと少しあいつの桃の季も終はる
白桃の如きあなたの膝枕
ストッキング皮を脱がせて食べやうか
半分にけつを割つたら美味な汁
願わくは桃の忌になれ くそやろう 
白桃はシンデレラなので帰ります

■ショージサキ しょーじ・さき
1992年生、新潟県在住。無所属。ジョージではなくショージです。女子。
Twitter account:@fabfourcomicall
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【19 離味句素】

吾一人置いて立ち去る鰻かな 
いかづちにまかせて泣けよオットピン-S
酸漿剥いて歯科を明るくしてあげた 
天の川わたる南京豆離脱
幻影は二十世紀を齧る姉か
エレジーのたとへば秋の小樽運河 
排卵がなくて滑子のしらべかな
鹿威し貫く業の如きもの
渋柿や痴狂ひにして人の美味
人間を並べておけば交(さか)るなり

■山田露結 やまだ・ろけつ
1967年生まれ、愛知県在住、銀化同人。ブログ「Rocket Garden ~露結の庭~」http://yamadarockets.blog81.fc2.com/
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【20 晩夏】

吹き抜けのヨガスタジオや仏桑花 
バナナ食ぶ朝一番のヨガクラス
ピアソラに酔ふごと昼の冷酒かな
夏深し崩して食ぶるタコライス
晩夏へとロングボードの漕ぎ出しぬ
モニターに映る花道秋立てり
秋蟬や公園に向く楽屋口
小劇場のチラシ分厚き世阿弥の忌
虫の音や補修されたる歌詞カード
輸入盤開けると匂ふ夜長かな

■栗山 心 くりやま・こころ
1964年東京生まれ。「都市」所属。ブログ「心の俳句雑貨店」http://kokoro-haiku.cocolog-nifty.com/blog/
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【21 行つたきり】

うきくさの高きところに星盛る 
箱庭を真白き舟のもり上がる
あたらしき蜘蛛の囲に水つもりけり
洗つても洗つても砂大西日
蓮の葉と空の埋もれて午後来たる 
階段の蟬の骸が濡れてゐる 
鳥飛ぶ仕組み水引草の上向きに 
初秋やゆふかぜ朱鷺に長くふき 
月の出を待つ間に森の闌けにけり 
おとうとの七夕笹の行つたきり 

■宮本佳世乃 みやもと・かよの
1974年生まれ。「炎環」「豆の木」に所属。2010年、合同句集「きざし」。
田島健一とともに「きれいな短冊」を展開中。http://tanzakuya.blog.fc2.com/
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【22 あちら・こちら】

草刈の野にひしめくや小説家
蜘蛛の囲や少女のふるふ大鋏
ゆらゆらと子ら運ばれてゆく緑
輪郭の確かなわたし髪洗ふ
夏月に眠りの糸が垂れてをり
花あやめここは子供の来ない家
箱庭に人差し指を棲ませけり
ちちははの緩慢な水あそびかな
蛇苺そこから先が死者の国
たましひのかたちの小石夏ともし

■加藤水名 かとう・みずな
静岡県生。2011年句作開始。
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【23 生簀】

花過ぎてプロレスの来る広場かな
噴水に鳥の名あまた知る人と
プールより見ゆる生簀のレストラン
一雨きて蛍日和と言ひにけり
とりあへず丼に受く兜虫
盆僧のまへにビー玉転がり来
アッパッパつかめば婆が抜け落ちる
草笛吹くデモ行進に連なりて
恐竜の尻尾重たし夏の果
三叉路の左右とも霧うしろも霧

■今村 豊 いまむら・ゆたか
2005年頃より句作開始。2007年「澤」入会。
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【24 果実】

ハート型蜜内蔵のリンゴ一顆
花のごと皮をひろげてミカン食ぶ
黒ブドウ一粒ごとの一輝点
イチヂクや平然とつく嘘に嘘
ザクロ裂くまず付け爪を外しては
前世はバナナと信じつつ食す
握りたる手よりトマトの溢れ出す
石版の堅さ冷たさみたいなナシ
眼窩にはイチゴををさめ少女たち
書信代はりに送る富有柿ふたつ

■すずきみのる すずき・みのる
1955年生まれ。京都市在住。俳人協会会員。「参」「鼎座」所属。句集『遊歩』。
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【25 暮れる】

蛇口より懐かしきものかよひくる
渦巻の途中の二重丸は良し
花びらの目ならば目びらとも言ひぬ
似顔絵とならずに顔の絵が暮れる
引つかけるため頂点が三日月で
蔓巻きぬ楽器となれば良かりける
海賊は水を含んで重かりき
されば鮫を次男とすれば分かるなり
魂と裸連結して褌
冬空に干せば消しゴムらしくなる

■吉野わとすん よしの・わとすん
1973年秋田県生まれ。「鬣」同人。
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【26 全力】

マスクして菜虫を殺す霧をゆく
ががんぼの窓を叩いてゐる全力
羽蟻に羽ありて暮らしは変はりなし
灯を消して火蛾百匹とゐるぬめり
蜘蛛潰す音つぎの日もそこにある
黒蟻の何も担がぬ白き昼
糸蜻蛉墓石は聖書開くかたち
蝉落ちてお悔やみ欄に乗せてやる
放埒の貌を叩いて黄金虫
十匹に一匹足りぬ晩夏かな

■鈴木牛後 すずき・ぎゅうご
1961年生まれ。「いつき組」組員。「迅雷句会」メンバー。
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【27 三分の一】

初夢に母と話せば覚めにけり
子の肩に触れてはじけししやぼん玉
春愁ピアノの埃つよく拭く
振り返りやがてまつすぐ入学子
ふらここを少し揺らして降りにけり
後ろ手に子は手紙持ち母の日よ
初任給手渡してゐる帰省かな
打解けしいとこ同士や踊の輪
全集の前の持ち主夜の秋
抽出しに方位磁石や夏の果

■浜尾 きら はまお・きら
1973年生まれ。97年「ジャスミン俳句会」に参加。俳句を始める。
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【28 夏の谺】

夏館ソプラノ纏ふ天使像
一眼のあり向日葵も原子炉も
夏深し闇に伸びゆく倉梯子
いま吾子にはじめの記憶草清水
冷酒一盞雲滑らせて空は坂
泣き終へて松山鮨のどこ崩そ
木曜のくちづけ涼し切子玉
ラマダンの大皿に盛るダリヤかな
花火の夜人を待たせて遠目なり
二万年のちにも仔ども猫じやらし

■西田克憲 にしだ・かつのり
1961年生まれ。2008年作句開始。
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【29 尾行】

テロリストの墓飾るための菊ことごとく
黒猫に尾行されてた月角曲がる
髪洗ふ巫女百人の紅き爪
チェシャ猫一番涼しい場所に浮いている
君の体届けに君の棺追ふ月夜
猫のゾンビ鼠のゾンビと虹ばかり
青い月。暗闇にリムられてゐる
最初の猫がまだ遊んでる宵闇
十年分の抗鬱剤ぶちまける秋の海
夜開く猫の保健室の風鈴

■小野予安 おの・よあん
東京都杉並区在住。所属結社なし。俳句初心者。
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【30 夜の果ての旅】

忘却の革命の血のさくらんぼ
シエスタの人買ひ薄目あけて眠る
殺むれば音の気になる冷蔵庫
疲鵜にだいぢやうぶだいぢやうぶと云はれけり
八月の甘納豆を深読みす
へうたんにハイとこたへて魂(たま)抜かれ
ジョーホーホシジョーホーホシと秋の蝉
水澄むや一つ根に離れ浮く平和利用と核武装
心中の片割れとして盆をどり
「夜の果ての旅」に誘ひぬ夜学子は

■渕上信子  ふちがみ・のぶこ
1940年満州大連市生まれ。超結社「鬼」会員。
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【31 春雷】

風雪に曲がりし木々も芽吹きたる
或る日胸に春雷が落ち今がある
玫瑰や雨に消されし波の音
病葉の重なりゆける水の底
ひねくれし胡瓜どれもが無農薬
ふたりとは一人と独り夜の秋
砕け散る硝子色なき風となる
倒れてもおのれを曲げず曼珠沙華
音もなく翅を使ひし冬の蠅
星冴えて太古の空を取りもどす

■笹下蟷螂子
1968年生。所属結社「若葉」「天為」「狩」。
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【32 十点鐘】

  一月三十一日 ジャイアント馬場
王道忌静かなる光源月明かり
  四月二十八日 ルー・テーズ
鉄人忌しなやかな筋肉(にく)の美しき
  五月十三日 ジャンボ鶴田
怪物忌書き掛け論文めくる風
  六月十三日 三沢光晴
喉鳴らし猫の背伸びや翠玉忌
  七月十一日 橋本慎也
豪雨去り天跨ぐ虹爆勝忌
  七月十七日 ブルーザー・ブロディ
超獣忌雄叫びこだまし空を舞う
  七月二十八日 カール・ゴッチ
偉大なる力の哲学ゴッチの忌
  八月二十八日 山本小鉄
道場に古びた竹刀や軍曹忌
  十一月二十五日 星野勘太郎
喧嘩屋の拳の早し突貫忌
  十二月十五日 力道山
人を超え神となる意志力道山光浩の忌

■矢野風狂子 やの・ふうきょうし
1975年福岡県生まれ。福岡県在住。自由律俳句(随句)誌『草原』同人。
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【33 卯の花にほふ】

郭公や次男に妻のやうな嫁
青かへで小股の切れたをなご抱く
入道雲抱へきれないまま絶句
卯の花にほふ「かあさん」と言ふ口癖
残暑かな「雨ニモマケズ」を諳んじる
線香のけむり真っ直ぐ遠花火
時計草虫の音止むと泣く子かな
締め切り迫る鈴虫に部屋明け渡す
悪字を打つパソコン画面水中り
クマゼミ鳴くマイクを持った好好爺

■伊丹余一 いたみ・よいち
2010年まで、俳句冊子『卵の会』の編集。「海程」同人。(休稿中)
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【34 御来迎】

山彦に応へて手振る雲の峰
空眩し雲海の上に出でたれば
赤岩の頭と称へ雲海に
御来迎斜め後ろに立ちてゐし
御来迎虹に呑まれて消えにけり
駒草に近づけてゐる目鼻かな
駒草やカイゼル髭を撥ね上げて
駒草や八ヶ岳(ヤツ)の外れの天狗岳
マジックの校名かすれ大テント
天幕村に酒飲みに来し小屋泊まり

■前北かおる まえきた・かおる
1978年島根県生まれ。慶大俳句、「惜春」を経て、「夏潮」創刊に参加する。第1回黒潮賞受賞。2011年第一句集『ラフマニノフ』上梓。ブログ http://maekitakaoru.blog100.fc2.com/
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以上 34作品

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