2011-12-04

【北斗賞 落選一五〇句】赤、赤、赤! 御中虫 テキスト

【北斗賞 落選一五〇句】※佳作入選
 赤、赤、赤!  御中虫

なんにも知らずにくたばつてゐる春隣
まさか百まで生きるつもりで去年今年
姿見に我は映らずけふも暮れた
初霜の水槽やがて棺桶に
ガス栓をひとひねりして寒に入る

消失点に千回戻り千の線引く
洗つても落ちない汚れを空に掲げて
生ゴミの片隅にあり桃光る
冬空ニ大キナ錆ビタ鋏ヲ刺ス
春のバケツ冬のバケツと並びけり

ところどころ説明のつかない銀河に住む
死んだ花たくさん飾りませう(笑つて)! 
沈黙の中央にフルーツの盛り合わせを置く
住職が笑って桜咲きにけり
美意識は差別からうまれる日蔭

閉鎖病棟にゐて薔薇のピンク色などを愛しても良い
ああああ心臓ああああ手足ああああ満月
保護室の床広いなあ指で詩を書く
髪。束ねるほど長くない。さびしい。凪。
乱暴な方法も知っていて愛する

実はルピナスあたしねルピナス躁ルピなのナス
ペットボトルカルピスたぴてぷ夏の光
太陽がまつすぐに立つ墓場かな
生理用品汚物とはなにごとか春
春泥をコーヒー牛乳に溶かして

人がみな朱色に見える原爆忌
狂女のやうな女雛も売られ露天市
なにその態度むかつく死ねよ夏旱
配合をまちがえたんだダリヤ爆発
暗がりで暗がつてゐる男かな

耕せばいろいろ死ぬんだけど耕す
いいよね鰻は鰻は事故死しないよね
「とりあえずうちに来い」と言わせる技術
「謝って」「やだよ」「ずるいよ」「サイダー飲む?」
震えてもええんやでと北風が云う

遅れてきてぶっきらぼうに梨を食う
極貧のやうでさうでもなひ立夏
童謡にのって灯油売りのおっさん登場
卵さん割りますよ初春の朝
総合的評価はいらん俺は霧か

父の晩年に包丁投げる
遠慮はゐらなひ小指を立てろよ
毎度おさわがせしますと言って本当にうるさいときた
厭味ひとつも言わない月が厭味だ
初蝶をにぎりつぶして笑む子かな

細胞の死にゆく速度去年今年
寒くないだって私は雌だから
人を刺すゲームをクリアして夜寒
失踪する決心を炬燵が奪ふ
(でたらめに生きやう!)と夏が来るたび

図に乗って梅の下で記念撮影
遅々として進まぬ議論にレモン絞る
立つたまゝ苺を食べる、電車の中で食べる。
服を着て町にとけこむ努力をする
奇跡とか関係無くて虹現る

泣けば抱いてもらへるらしい春浅し
星月夜証明を待つ定理あり
景観を損なう為に私は生まれた
あめんぼの重みで凹む虚空かな
極秘事項なんにもなくて鯉のぼり

滝それは直線の快楽と死だ
墓石を赤く塗りたしけふ炎暑
身の丈に合った暮らしを花火で爆破
原材料不明のおやつ食ひ暑し
コットン25レーヨン75の春雲

自然薯ごつごつ歩いてゐる夕方
ふくらはぎに刃物をあてゝ月を待つ
朱肉つける感触とキスする感触
配偶子おすそ分けしませうか春
フルーツを手づかみで食ふ国になれ

目を閉ぢてメロンを食べる二人かな
迫真の演技で人を愛しけり
たんぽぽみたひに愛されたくてしゃがんでみた
女なら米粒踏んで捻挫せよ
豆腐タテタテヨコヨコに切る小春かな

西瓜の切れ端投げつけてさようなら家族
世界の果てに柚子色のブイ絶対ある
日盛りの洗濯機へ投身自殺
吹田市と枚方市でいちやいちやしてた
掃除機の先っぽだけが夏座敷

李賀読むと竜が来るので梨をやる
天地創造まで遡つて説教された
投票用紙に彼氏の名前を書く日永
梅の花にお経をあげる、お経に梅の花をあげる。
刑法すれすれの服をください

隕石を万引きして秋空に投げ
自転車に茸が生えて棄て難し
スナメリが回って浅い春となる
レースのカーテンぐるぐるねぢつて躁鬱病
舌打ちひとつで雪崩おこせるをんなはいかゞ

シャンプーはゼラニウムのかほり(嘘です)
上にのぼつてゆきながら入つてくる春
昆布のごと悪夢纏ひて冬ぬくし
ハンカチを四五枚干して室内傾ぐ
絶叫する(身体)絶叫する(靴下)絶叫する(マフラー)死ねない

爆撃のなか塗りたくるネイルエナメル(赤、赤、赤!)
失態を演じた場合に限りをんなのふりをしていゝことになつてる
退屈な立体感を持つわたくし
落ちぶれたもんだよ昨日は肩に鳥さえ来たのに
偉そうに言う人のネクタイがださい

そしてキッチンには汚れた食器がしづかに横たわった
あの首欲しいその首欲しい遺跡の仏陀に首は無し
ノクターン途切れて僧侶泣きにけり
卵白うるうるいつまでも忘れない
美人が好きなくせに色むらはあったほうがいいと言う

二項対立否定する人の得意気な顔つき
悪だと言われたら咳込んで薬をさがすさ
しっかりした家庭に育って低俗なドラマ囲んであなた素敵よ
手垢のついた言い回し~ヨーグルトを添えて~
八針縫つて今日も天気だ欠陥品

マンボウを見て少しだけ若返る
傷ついている暇はないんだスカート履く
自転にさからつてでも金儲けがしたい
ひどくカラフルな飲み屋のトイレで若干吐いてくるね
ピンクのバッグに頭つっこんで号泣

暴言を吐ける関係水温む
その善意突っ返します夏浅し
明日の予定を立てたがる男を殴る
小脳と大脳に虹ひとつずつ
抱き合うかたちは刻々変わる2時になつても

いつも詩は悲鳴でしかないこと それだけ
つくられたアウトローを蜂が刺すよ
浪漫を語るおやじ(彼の腹は出てゐる)
巻き毛の女子の背後で老婆が微笑む
空っぽの箱ティッシュ折りたゝみ投函

悪趣味な灰皿を買うために働く
点滅嘘嘘点滅嘘嘘消灯真実
鯉幟虹にからまり窒息す
鉄工場に立てかけてある虹の鋳型
慨嘆して虹をふたつに折りにけり

買い手のつかない虹いつまでも空に残る
虹色のバナナ夜店で叩き売り
女のふともゝのやうな虹だつた
この裸さいごまで未編集でよい
乱痴気の花見の茣蓙の四隅に石

検討を見送るな今やれ西日
結論を先に言え卯の花腐し
あれがわたくしそれもわたくし椿落つ
よそ見すればよそ見しただけの夏芝
軟禁されてもブランコはあった

馬刀逃げるつかみそこねた記憶かな
落葉、落葉、生まれたときから滅びてゐる
春の山ひとさしゆびで押しにけり
凍蝶をティッシュで包みそして置き去る
(それは)春を(何の)うろつく(比喩ですか)

わたしは盛夏とセックスをした。太陽になった。
なぜ断るの、眠たいの?それともあたしが蛙だから?
やみがたい春への嫉妬てのひらにあつめる
私はどこへ向かふかわからない上機嫌な犬
私は絶対に完結しない蟻の行列

9 comments:

匿名 さんのコメント...

見事な一連。でも、今回の選考委員の伝統保守的な顔ぶれを見たら、出すのは時間の無駄では?

Kika さんのコメント...

明らかに縁のなさそうな賞に応募している(回ごとに替わる選考委員によるけど)……しかし、ああ、この作品好きだ。不器男賞の時のより進化、深化している☆

minoru さんのコメント...

言葉の饗宴。稲垣足穂の『一千一秒物語』なども、ふと思い出したりして。言葉の集積力と構築力がすごいな、と思いました。それにしても、『李賀』まで登場するとは。

御中虫 さんのコメント...

【落選展について】

 コメントをありがとうございます。ツイッターにもサイトにもブログにも書き込みがあって嬉しい限りですが、おひとりずつにコメント返ししていると、ややこしくなるのでツイッターと週俳にまとめて同じ内容を書かせてもらいます。

まず、好意的な反応が多かったのは嬉しかった。特に不器男賞の時より進化、深化しているというのは嬉しい評価でした。

ただ、以下のようなコメント(スタンス)に私は疑問を持ちます。
「見事な一連。でも、今回の選考委員の伝統保守的な顔ぶれを見たら、出すのは時間の無駄では?」「明らかに縁のなさそうな賞に応募している(回ごとに替わる選考委員によるけど)……」

「北斗賞」の方はどうだかわかりませんが、「俳壇賞」は匿名さまの言う通り伝統保守的俳句賞だと思います。しかしだからといって避けていて、どうなるものでもないでしょう。賞との相性は確かにあり、私は不器男賞に合いました。しかしそれも喧々諤々の上での受賞でした。つまり、何が言いたいかというと…

いやしくもプロ俳人ならば、あるいは本当に俳句を愛しているのであれば、「なんとか賞受賞」の肩書きの上に胡坐をかいて句作するのではなく、俳壇を見まわした時に「ここちょっとオカシイやん」というところを自分の作品でもって叩く、批判する、それがプロに求められる一面ではないでしょうか、ということが言いたいのです。

 無論これは私の個人的意見であり個人的スタンスですので、そうじゃない俳人が悪いとは思いません。ただ、「俳壇賞は保守的だから現代俳句を応募するのは無駄だ」という考えは私はとらないのです。保守的な審査員に自分の作品を「ほれほれ」と見せびらかしあえて言いますが「啓蒙してあげる」のが私の方法です。

 ただ今回は残念ながら私の力不足で審査員をオトせなかった、ということです。しかし伝統保守的な賞にこそ、現代俳句を応募する意味はあると信じています。それをはなから諦める姿勢には不賛成です。
 
 長くなりましたが今後も私は賞に出しまくり落ちまくるでしょう。そのときはまた落選展、させてください。ありがとうございました。

Kika さんのコメント...

なるほど。虫さんのお考えわかりました。確かに一理あります。

ただ、私(たぶん他の匿名希望の人も)が思ったのは、もし啓蒙活動をするなら、編集部(そもそも賞によっては編集部の予選があり、選考委員の眼に届かない事が多い)や(仮に選考委員の眼に触れたとしても)落選作品の殆ど誌上掲載されない雑誌で選考委員数人を啓蒙する努力をするよりは、手っ取り早く多くの読者に読まれる努力をした方が望ましいのでは、と思っている次第です。

そう言った意味で、虫さんが週刊俳句の落選展に出すのは一つの効果的な方法だと思います。

しかし、そもそも落選しなくても、週刊俳句の編集部なら時折大量掲載して下さる筈ですので、候補作としてどこかの雑誌に一挙掲載にならない限りは落選を狙う意味性を(私は)強くは感じません。

虫さんと私の作風はかなり異なりますが、私自身は虫俳句のファンであり(本当にw)、虫さんの作品が色々な人々に読まれ、俳句自体について考えさせる啓蒙活動につながれば、と願っています。あなたの作品は多く読まれれば読まれるほど意義があります。

寒い季節ですが、是非ともご健詠下さい。

御中虫 さんのコメント...

kikaさま

お返事ありがとうございます。
 
 私も今回初めて【落選展】を週刊俳句という大きなサイトに掲載していただいたことで、「あ、こういうネットサイトにどばっと掲載されるのも自分を売る一つの戦略だな」と思いました。戦略と言うと言葉が悪いかもしれませんが他意はありません。


しかし、やはり私はこういったサイトへ応募する活動意外にも、俳壇賞のような賞へ応募する活動もやめないでしょう。それは、無駄かもしれないけれども「保守的俳句賞に一矢報いたい」という強い思いがあるからです。そして単に週刊俳句にストレートに自分の作品を載せていただくよりも、「御中虫のこの作品は【あの賞】に落選しました」という一回屈折したかたちで発表する方が、わずかでも批判になるだろうと感じています。まあ、ほんとにわずかなんだけど、そこはもう、性分としか言いようがないですねw

私の句を好きだといってくださってほんとうにありがとうございます。
褒めて褒められて、という関係は好きではないけれども、kikaさんとは不器男賞を争った関係ですから意識はしていますよ。
また作品拝読したく思います。

御中虫 さんのコメント...

【訂正です】
「赤、赤、赤!」の作品群のなかに

コットンレーヨンの春雲


というのがありますが、
正しくは、


コットン25レーヨン75の春雲


です。
天気さん(かな)もし訂正できたらしてください。

御中虫 さんのコメント...

【再び訂正】

どうも数字が反映されていないようです。

抱き合うかたちは刻々変わる時になっても

は、正しくは

抱き合うかたちは刻々変わる2時になっても


です。

tenki さんのコメント...

申し訳ありませんでした。
私のミスです。

直しておきました。