エイミー(楢)、自選を語る
楢
2010秋*林檎酒ふふみて耳がよく通る
お酒に酔うと、普段がまんしている事を遠慮なく行動に移してしまうものらしい。私は饒舌になる。ふらついているのを隠してテーブルの灰皿なんか睨み、相手の声にきちんと耳を傾けているつもりだ。
しらふの時、私は耳が悪い。でも聞き返せず、あいまいに相槌を打って済ませている。なぜか酔っている時には会話がよく聞こえる。どんなに楽しい夜も、後で思い返すといつも酔いすぎているのですが。シードルの泡と薄いワイングラスに幸あれ。
2010冬*いつまでも昨日でよいと足焙る
今までいちばん長く住んだ家は首都高の脇にあった。濃い紫の、分厚い斜光カーテンの下、窓はいつも結露していた。狭い部屋に似合わないごてごてしたテーブルは父母が若かりし頃(そしてセンスが磨かれていなかった頃!)購入したものであろう。
ビルの一室だから洗濯物を干す場所などなく、冬場なら電気ストーブの前に下着が散乱していた。小学校が嫌いだった私は、寒い朝、登校までの時間を少しでも延ばそうと、布にまみれて寝そべっていた。焙られて乾燥する足先をよく知っている。
2010冬*水鳥のくちばし折ったお菓子です
『銀河鉄道の夜』で、鳥採りが収穫する鷺や雁の甘そうなことといったらない(作中で収穫という言葉は使われていないが、降り立つ鳥の脚をおさえて袋に入れ、その袋がほたるのように青くぺかぺか光っている様子なのは狩猟、という感覚ではない)。
私としては砂糖菓子を希望する。
2011春*花の雨小さきものは丸く寝る
――みんな小さい生き物は、しっぽに弓をもっている……。ムーミンシリーズにて、スナフキンがうきうきした気持ちのとき謡う歌だ。力んでピンとさせないと、しっぽが地面に擦れて始末に終えないのだろう。そのピンとした様子が弓に似ている、という。
小さい生き物(砂ねずみ、しまりすなどだろうか)は草や木の実を食し、大きい生き物に捕食される側。そんなかそけきものも弓を持つ。生きている、と胸に誇るのだろう。小さいからこそ持てるすてきな弓だ。彼らだけの視点、身のふるまいが立ち上がってくる。
私も背が低くて、給食をいつも残して叱られていたから、小さいものに味方したい。私が幼いころ身近にいた猫、しまりす。驚くほど丸くなって眠った彼らのあたたかさを思い出しながら。
2011夏*夕凪はおふろにはいったところです
この世にケータイが無かったころ、友だちに電話をかけるには、まずクラスの住所録を開く必要があった。緊張しながら発信音を聞く。大人が出たなら「ヤブンオソクシツレイイタシマス、○×ノナラヤマトモウシマス、▼▼サンイラッシャイマスカ」と呪文を唱えねばならない。「▼▼はお風呂に入ったところなのよ、後でかけ直させますね」と言われたときの拍子抜けしたきもち。
夕凪は、風の無いしずかな海を、冷たいおふろにして入る。凪の境界がどこかは判らない。海にまぎれてひっそりとしている。
2011秋*檸檬切り打ち明け話の代わりとす
残念ながら珈琲を飲めない。それだけで、ひとつの世界が鎖されている感じがする。仕方が無いので喫茶店では紅茶を頼む。ふだん日本茶を飲み慣れているせいか、お茶というものに砂糖や牛乳が混じるのも苦手だ。だから檸檬ティーにしてもらう。ティーカップに輪切りの檸檬を匙で沈めると、すぐさま浮かび上がる。遊びすぎると紅茶が苦くなる。
苦い紅茶をすすりながら、あなたになんて話してあげない(聞いて欲しいんだけど言い出せないだけ)。
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2012-04-22
エイミー(楢)、自選を語る
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