2013-11-03

2013落選展テキスト 12生年月日 堀下 翔

12 生年月日 堀下 翔

人日の誤植を見つけたくなりぬ
トニー谷てふ中年の福笑
待つ人のある凍鶴のたたずまひ
負けられぬひとになりけり凝鮒
名鑑に祖父のまします二月尽
きさらぎを過ぎたる亀の重きこと
蟻穴を出て乾きたるところへと
この道のみな芝焼のはうを向く
エイプリルフールの棚に本を足す
君が名に春の字あるを転校子
姉はより長く初虹みてをりぬ
額に絵がちやんとあるゆゑあたたかし
春風や役者ばかりのサイン帳
森繁の随筆を買ふ遅日かな
老優の生年月日ヒヤシンス
蒲公英や昭和五年の京の地図
葉桜や封書に署名忘れたる
飛石がここで終はつた薄暑光
道すがら手紙折り曲げ若楓
振り向けば賀茂の祭となりゐたり
表札の旧字にやがて大蛍
自叙伝に目高のをりしことばかり
夏場所の終はるころ家建つらしい
松山に五月雨のはじまつてゐる
あめんぼの知らない水の浅さかな
夏夕べ風呂で芙美子を考ふる
七月は画家か誰かが来てゐさう
夏の月馬の映画をふたり見し
鼓腹撃壌ふたたびの夏野原
級友よ路地裏に茄子落ちてゐる
音のない泉であつち向いてほい
このなかに絶版多し雲の峰
切株やだんだん夕凪の気分
変更を知らず晩夏の時間割
サと書けばサと音のする今朝の秋
白文のなほしろじろと星祭
富士山を見つつ歯を抜く残暑かな
西葛西駅南口桐一葉
秋雨の天涯万里髪を切る
銀閣で失くしたといふ秋扇
仲秋や塔見つからぬまま帰る
触れば青しポスターの里祭
入籍のあとのメモ書き蚯蚓鳴く
筆に火を点ければ燃ゆる暮の秋
雨がちの十一月のお濠かな
池に来て池のにほひやハチロー忌
来るはずの電話来るなり懐手
玄冬の漢文脈の旅日記
文法書二十六刷雪しまき
オリーブのうへ村雨が雪となる


1 コメント:

上田信治 さんのコメント...

12 生年月日 堀下 翔

年寄のふりをしたりして遊んで、この人にとっては、俳句自体、コスチュームプレイのようなものなのかもしれない。

夏場所の終はるころ家建つらしい
七月は画家か誰かが来てゐさう

冗談のようなことを言ってみたり。

仲秋や塔見つからぬまま帰る

ふと真顔がのぞいたり。