2013-11-24

朝の爽波93 小川春休



小川春休




93



さて、今回も第四句集『一筆』の「昭和六十二年」から。今回鑑賞した句は昭和六十二年の初秋から中秋、八・九月頃かと思われます。鑑賞句数が少なめなのは、単に私の体調不良によるものです。あしからず。

野分して伏見稲荷の駅に居る  『一筆』(以下同)

伏見稲荷駅は、京阪電車における伏見稲荷大社最寄りの駅であり、朱塗りの柱に狐の装飾など、大社を模した独特の駅舎となっている。掲句、決して強風で飛ばされて来た訳ではなく、直接の因果関係はないが、気付くとその駅にいた、という気分が感じられる。

障子貼るお狐さまの風通ひ

来るべき冬に備えて、障子の貼り替えをする。庭先などで水をかけ、ごしごしこすって洗いながら紙を剥がし、新しい紙を貼り直す。お狐さまとは伏見稲荷のことか。御社からの風に冬の訪れの近いことを感じ、実感を持ってその地域の暮らしを思い描くことができる。

この瀧に水戻りたる子規忌かな

降雨の少ない年でもあったのであろうか、水が無くなり、瀧とは言えなくなってしまっていた瀧。それが水勢を取り戻し、再び瀧としての姿を見せている。子規忌を毎年気に掛ける句中の人物の存在が、こうした時間的な奥行きを実感のあるものへと肉付けしている。

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