小川春休
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若者らどやどやと湯に稲の花 『一筆』(以下同)
秋の日差しの下、稲の茎の先に白く小さな花が穂のように群がり咲く。この花からイメージされるのは日差しの明るさであり、日中から大挙して入浴している若者らは、朝からの農作業の後か、それとも何かのスポーツの合宿であろうか。活気に満ちた健康的な句だ。
葉鶏頭鶏頭土は固けれど
秋になると、葉鶏頭の直立した茎の頂上部から出た大柄な葉が、鮮やかな紅色に色づく。鶏頭がビロードのような紅の花を咲かせるのもこの頃だ。畑や花壇で育てられているのではなく、乾いた固い野の土に自生しているようだが、その生命力は周囲の草々を圧している。
夜業人帽子きつちり被りたる
秋の夜長に昼間できなかった仕事の続きをすることから「夜なべ」を秋季とするが、会社や工場などでの残業という色合いの濃い「夜業」も併せて秋季としている。きっちり被った帽子は、その職場で定められた制服であろう。整然とした工場の様子まで想像される。
渦潮を夢にまた見むちんちろりん
「鳴門」と前書のある句。春、鳴門海峡の無数の岩礁と潮の流れの速さは、渦潮を生じさせる。しかし今は秋、渦潮も見当たらず、さして波音も高からず、ちんちろりんの聞こえる夜である。中七と下五のリズムが呼応しており、どことなく軽快なイメージの句。
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