2014-06-01

平成百人一句  選・宗田安正 テキスト

平成百人一句  選・宗田安正

『アナホリッシュ國文學』第5号冬・平成25年12月20日発行より転載


白梅や天没地没虚空没  永田耕衣  明33・2・21生

銀河系のとある酒場のヒヤシンス  橋 閒石  明36・3・2生

まさかと思ふ老人の泳ぎ出す  能村登四郎  明44・1・5生

他界にて裾ををろせば籾ひとつ  中村苑子  大2・3・25生

艦といふ大きな棺(ひつぎ)沖縄忌  文挟夫佐恵  大3・1・23生

草の根の蛇の眠りにとどきけり  桂 信子  大3・11・1生

われもまたむかしもののふ西行忌  森 澄雄  大8・2・28生

帰りなん春曙の胎内へ   佐藤鬼房  大8・3・20生

おおかみに蛍がひとつ付いていた   金子兜太  大8・9・23生

短夜を書きつづけ今どこにいる   鈴木六林男  大8・9・28生

死者あまた卯波より現れ上陸す   眞鍋呉夫  大9・1・25生

無方無時無距離砂漠の夜が明けて   津田清子  大9・6・25生

百千鳥雄蕊雌蕊を囃すなり   飯田龍太  大9・7・10生

山に金太郎野に金次郎予は昼寝   三橋敏雄  大9・11・8生

葛の花来るなと言つたではないか   飯島晴子  大10・1・9生

海鼠切りもとの形に寄せてある   小原啄葉  大10・5・21生

薄氷の吹かれて端の重なれる   深見けん二  大11・3・5生

チューリップ花びら外れかけてをり   波多野爽波  大12・1・21生

全身を液体として泳ぐなり   和田悟朗  大12・6・18生

在りて遙かな〈古代緑地〉白鳥は發つ   坂戸淳夫  大13・3・4生

黒揚羽ゆき過ぎしかば鏡騒   八田木枯  大14・1・1生

死ぬ朝は野にあかがねの鐘鳴らむ   藤田湘子  大15・1・11生

紅梅や謠の中の死者のこゑ   宇佐美魚目  大15・9・14生

米袋ひらいて吹雪見せてあげる   澁谷 道  大15・11・1生

霜柱人柱幾百万柱   川崎展宏  昭2・1・16生

永遠のいまどのあたり蝉時雨   津沢マサ子  昭2・3・5生

子探しに似て黄落の木より木へ   岡本 眸  昭3・1・6生

いたりやのふいれんつえ遠しとんぼつり   阿部完市  昭3・1・25生

こつあげやほとにほねなきすずしさよ   柿本多映  昭3・2・10生

日輪の燃ゆる音ある蕨かな   大峯あきら  昭4・7・1生

ひざにゐて猫涅槃図に間に合はず   有馬朗人  昭5・9・13生

初凪や轟沈といふ昔あり   鷹羽狩行  昭5・10・5生

風立ちぬ//骸骨として/蹶(た)つべきや   岩片仁次  昭6・9・24生

生まざりし身を砂に刺し蜃気楼   鍵和田秞子  昭7・2・21生

虹顕つや海汲みつくさむと幼な   柚木紀子  昭8・12・2生

雲触れて膜が溶けあふペンテコステ   小島俊明   昭9・4・27生 注 ペンテコステ=聖霊降誕祭

閃光を見たる閃尖塔蝉時雨   大林信爾  昭9・5・7生

夕刊のあとにゆふぐれ立葵   友岡子郷  昭9・9・1生

船のやうに年逝く人をこぼしつつ   矢島渚男  昭10・1・24生

天皇の白髪にこそ夏の月   宇多喜代子  昭10・10・15生

万物は去りゆけどまた青物屋   安井浩司  昭11・2・29生

人類の旬の土偶のおっぱいよ   池田澄子  昭11・3・25生

はらわたの熱きを恃(たの)み鳥渡る   宮坂静生  昭12・11・4生

やすらへ花・海嘯(つなみ)・兇火(まがつひ)・諸靈(もろみたま)   高橋睦郎  昭12・12・5生

父の帯どろりと黒し雁のころ   大石悦子  昭13・4・3生

花の闇お四國の闇我の闇   黒田杏子  昭13・8・10生

鳥辺野や七竅(しちけう)を穿(うが)たれ混沌は   齋藤愼爾  昭14・8・25生

後の世に逢はば二本の氷柱かな   大木あまり  昭16・6・1生

桃の花死んでいることもう忘れ   鳴戸奈菜  昭18・4・18生

歳旦の松にきかねばならぬこと   辻 桃子  昭18・11・8生

人寰や虹架かる音響きいる   寺井谷子  昭19・1・2生

たんぽぽのぽぽのあたりが火事ですよ   坪内稔典  昭19・4・22生

明日は野に遊ぶ母から鼠落つ   志賀 康  昭19・11・11生

肉屋に肉入れるところや夏の月   谷口愼也  昭21・5・17生

前衛に甘草の目のひとならび   攝津幸彦  昭22・1・28生

車にも仰臥という死春の月   高野ムツオ  昭22・7・14生

たくさんの舌が馬食う村祭   西川徹郎  昭22・9・29生

陽炎や母といふ字に水平線   鳥居真理子  昭23・12・13生

頭には男根生やし秋の暮   久保純夫  昭24・12・14生

もりソバのおつゆが足りぬ高濱家   筑紫磐井  昭25・1・14生

男を死を迎ふる仰臥青葉冷   山下知津子  昭25・3・15生

ずずずずと鯨の浮力で目がさめる   江里昭彦  昭25・7・12生

万有引力あり馬鈴薯にくぼみあり   奥坂まや  昭25・7・16生

香水の体を脱いで夜のジムへ   今井 聖  昭25・10・12生

瀧壺に瀧活けてある眺めかな   中原道夫  昭26・4・28生

地下鉄にかすかな峠ありて夏至   正木ゆう子  昭27・6・22生

命あるものは沈みて冬の水   片山由美子  昭27・7・17生

網戸より雨の森とは遠くあり   星野高士  昭27・8・17生

この母の骨色の乳ほとばしれ   鎌倉佐弓  昭28・1・24生

初雪は生まれなかった子のにおい   対馬康子  昭28・10・22生

はんこ屋という秋風に近きもの   永末恵子  昭29・2・15生

初山河一句を以て打ち開く   長谷川櫂  昭29・2・20生

たかんなにはらわた詰まりゐはせぬか   角谷昌子  昭29・2・23生

愚かさや海岸の怪獣へ津波   夏石番矢  昭30・2・23生

尾の見えてすめらみことの更衣   高橋修宏  昭30・12・27生

神護景雲元年写経生昼寝   小澤 實  昭31・8・29生

男来て出口を訊けり大枯野   恩田侑布子  昭31・9・17生

八月の橋を描く子に水渡す   水野真由美  昭32・3・23生

春の山たたいてここに坐れよと   石田郷子  昭33・5・2生

万両は幻影に色つけた実か   四ッ谷龍  昭33・6・13生

空剔(えぐ)る巨大放送局真冬   浦川聡子  昭33・12・12生

空へゆく階段のなし稲の花   田中裕明  昭34・10・11生

春は曙そろそろ帰つてくれないか   櫂未知子  昭35・9・3生

日沈む方へ歩きて日短   岸本尚毅  昭36・2・7生

死ぬときは箸置くやうに草の花   小川軽舟  昭36・2・7生

稲子みる稲子に貌の似てくるまで   岩田由美  昭36・10・11生

断崖に開けつぱなしの冷蔵庫   皆吉 司  昭37・5・13生

夏潮のちからもらひて生まれ来よ   千田洋子  昭37・8・3生

双子なら同じ死顔桃の花   照井 翠  昭37・9・7生

とととととととととと脈アマリリス   中岡毅雄  昭38・1・10生

顔洗う手に目玉あり原爆忌   五島高資  昭43・5・23生

秋簾撥(かか)げ見るべし降るアメリカ   高山れおな  昭43・7・7生

逃げ水を小さな人がとほりけり   鴇田智哉  昭44・5・21生

人類に空爆のある雑煮かな   関 悦史  昭44・9・21生

一滴の我一瀑を落ちにけり   相子智恵  昭51・2・25生

気絶して千年氷る鯨かな   冨田拓也  昭54・4・26生

つまみたる夏蝶トランプの厚さ   高柳克弘  昭55・7・1生

寂しいと言い私を蔦にせよ   神野紗希  昭58・6・3生

海開その海にゐる人々よ   佐藤文香  昭60・6・3生

あぢさゐはすべて残像ではないか   山口優夢  昭60・12・28生

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