2014-09-14

2014年上半期 五〇歳以下の俳人二二〇人 上田信治

二〇一四年上半期
五〇歳以下の俳人二二〇人 

上田信治 編

「澤」2014年7月号より転載

作品は、近詠(原則として2013年11月から2014年4月の半年間の発表句から抽出)。旧作は句末に(*)を付す。


◆昭和39年生まれ

依光陽子 「クンツァイト」「屋根」「ku+」
  初蝶のやう髪切つて髭剃つて  「俳句α」
  僧ひとり寺を離るる春の霜   「俳句α」
  酉年に生まれて枯れていつか鳥 「ku+」

伝統的句材と安定した文体で、存在論的テーマを展開。第44回角川俳句賞(平成10年)。アンソロジー『俳コレ』。

近 恵 「炎環」「豆の木」
  生きていることの無実よ牛蒡引く「炎環」
  秋日燦ひとにまみれて人でいる 「炎環」
  とつくりセーター白き成人映画かな *『きざし』

生を謳つて、俗へ傾くことをおそれない「人間探求」派。現代俳句協会新人賞(平成25年)。

甲斐由紀子 「祥」「天為」
  みな濡れて月待つ蟹となりにけり「天為」
  雪ひとひら白鳥の頸蒼むころ  「天為」

第36回俳人協会新人賞(平成24年)。句集二冊。

川里 隆 「未来図」
  荒星へ羽ばたくごとく汽車の揺れ「未来図」
  花束の冷たさを抱き夜のバス *『薔薇の首』

男性の屈託した生活感情とロマンティシズム。

遠藤千鶴羽 「大」「なんぢや」
  魚は氷に上りて君とゐる不思議  *『暁』
池田ブランコ 「百鳥」
  おとなしき小猿を肩に温め酒  「百鳥」
栗山 心 「都市」
  組織図の頁またがり暮の秋  「都市」


◆昭和40年生まれ

望月 周 「百鳥」
  しんかんと鍵穴小さし鷲の檻 「百鳥」
  火の奥が見えしは一度冬の暮 「百鳥」
  テーブルの下より返事夏休み 「百鳥」

ときに幻想に傾く濃密なドラマ性と、抒情。第56回角川俳句賞(平成22年)。アンソロジー『俳コレ』。

高室有子 「郭公」
  空缶の水をこぼして秋の虹  「郭公」
  初冬の石工まどろむラヂオかな「郭公」
  春の瀧目を閉ぢて巌濡れてをり *「白露」

「雲母」「白露」に所属。抑制の効いた文体の内につねに力強いものがある。

斎藤朝比古 「炎環」「豆の木」副代表。
  公園は坐るところよ昼の虫  「炎環」
  曳猿の飛んで東京タワーかな 「炎環」

俳句の国に暮らす人と評される飄々とした句風。第21回俳句研究賞(平成18年)。句集『累日』。

辻美奈子 「沖」 
  思春期やちよと来て花火二三本 「沖」
  ゆつくりと縄締まりゆく花の雨 *『真咲』

ユーモアを基調とした日常詠に特徴。第28回俳人協会新人賞(平成16年)。句集二冊。

彌榮浩樹 「銀化」
  落葉や鳩はういらう色に鳴き 「銀化」
  全員が剣道部員かきつばた  「銀化」

意表を突く着目と、飛躍。群像新人賞評論部門(平成23年)受賞の理論家。句集『鶏』。

馬場公江 「狩」
  いつせいに蝶の噴き出す垣根かな ※1
  十月や見上げて駅の時刻表  「狩」

第2回星野立子賞新人賞(平成26年)。

月野ぽぽな 「海程」「豆の木」「里」
   北風の鞄を肩にひとつ足す 「里」
北沢雅子 「岳」
  日盛や砂均しゆく孔雀の尾 「俳壇」
内村恭子 「天為」
  落ち葉掃く小さな神の転げ出て「俳壇」
山田佳乃 「円虹」主宰
  水の神より御下がりの柿ふたつ「円虹」
平成22年より「円虹」を継承主宰。句集『春の虹』
今瀨一博 「沖」「対岸」
  アメリカはフォスターの国花菜風「俳句」
第37回俳人協会新人賞(平成25年)。
小倉喜郎 「船団」
  空梅雨や向き合っているパイプ椅子 *『急がねば』
句集『急がねば』は、物同士の無言劇の世界。
佐藤成之 「小熊座」
  こんにゃくの歯ごたえ十二月八日「小熊座」

◆昭和41年生まれ

杉山久子 「藍生」「いつき組」「ku+」
  すててこに透く脚透けてをるよ父 「藍生」
  屋台組む少女金髪南風吹く    「藍生」
  傘の柄のつめたしと世にゐつづける *『鳥と歩く』

幅広い作風を持つが、近年はより軽妙かつ自在に。句集三冊。第2回芝不器男俳句新人賞(平成18年)。

椎野順子 「澤」
  自転車で追ひ抜く暑いねと言つて 「澤」
  食券のマジック書きや草の花   「澤」
  熊の胆を干すやひとつづつ縛り  「澤」

「等身大」に描かれる世界への愛着と、かすかな違和。

男波弘志 「里」
  丘の家音なき火事を見て昼餉   「里」
  自画像の前に立つ画家昼の火事 「里」
  やがて空も波打ち際になつてしまふ *『瀉瓶』

永田耕衣、岡井省二に師事。句集二冊

青山茂根 「銀化」「豈」
  ものを食ふ遠まなざしに秋の園 「銀化」
  ががんぼに嘆きの壁を与へけり *『BABYLON』

いわゆる「俳句的情緒」に拠らない詩性に特徴。

岡田由季 「炎環」「豆の木」
  鵯鳴くやもうすぐ絵本ばらばらに「俳句」
飯田冬眞 「未来図」「豈」
  狐火やくるぶし濡るるまで歩く「未来図」
篠塚雅世 「未来図」
  割りて煮る魚の頭や春浅し  「未来図」
半田真理 「藍生」
  峰雲や我の代はりに赤子泣く 「藍生」

◆昭和42年生まれ

山田耕司 「円錐」「ku+」
  ひとさまに剃らるる顔や雲の峰 「ku+」
  陽炎うて男の臍を見せあうて  「ku+」
  淡雪のただそれとなくすべて山 「円錐」
  木と生まれ俎板となる地獄かな *『大風呂敷』

「前衛」かつ「俳諧」を成立させる古典的な風姿の良さ。十代の新人として登場ののち、休筆を経て復帰。

金子光利 「梟」
  うろうろと羽黒蜻蛉や急ぐ吾に  「梟」
  野分後の田に見つけたる眼鏡かな 「梟」
  結氷に湖の桟橋捩れたり     「梟」

「人が生きる現実」の普遍的な手応えがあって、農事俳句、風土俳句の枠にとどまらない。

押野 裕 「澤」
  新蕎麦の大盛とんと置かれけり  「澤」
  丹沢の朝日ももいろ寒波来る   「澤」
  岡持にはこぶ餃子や冬木立    「澤」

正気の人。端正さに時折加わる艶に期待。第35回俳人協会新人賞(平成23年)。句集『雲の座』。

山田露結 「銀化」
  矢印を曲がると滝の凍ててをり 「里」
  そばうどん天ぷら春の雪各種 「銀化」

ネット等で多彩な活動。句集『ホーム・スウィート・ホーム』

山根真矢 「鶴」 
  冬晴のいづこより欠け始むるか 「鶴」
  年の空夢の中なる夕かな  「鶴」 

今年、第一句集『折紙』を上梓。

橋本 直 「鬼」「豈」
  長椅子の両端ハロウィンの子供 「鬼」
現代俳句協会青年部部長。近代俳句史の研究者でもある。
滝川直広 「藍生」
  投票所胡瓜の花が窓おほふ 「藍生」
神山朝衣 「クンツァイト」 
  冬ぬくし泡に微かな泡の音「週刊俳句」
櫻井茂之 「夏潮」
  あぢさゐや薄曇りして影のなく「夏潮」
今泉康弘 「円錐」
  溺れても溺れても水見えざりき「円錐」
櫛部天思 「櫟」
  焼柱ゑのころ草に積み上ぐる 「櫟」
白井健介 「門」
  蛍光管むき出しの棄てある余寒「豆の木」

◆昭和43年生まれ

津川絵理子 「南風」副代表
  鶲来る木漏れ日粗き松林   「南風」
  冬の梨するすると刃の入りにけり「南風」
  猪鍋や電球ふつと明るくなり 「南風」
  つばくらや小さき髷の力士たち *『はじまりの樹』

感覚の実質をはずさない手堅さ。すでに中堅の域を超え俳句の現在を代表する。受賞多数。句集二冊。

高山れおな 「豈」「ku+」 
  陽物【ファロス】出て悲の海照らす朝飯まへ 「ku+」
  澄みては消ゆ水のわ印わを連ね       「ku+」
  灯火親し艶本【ゑほん】の馬鹿のつまびらか 「ku+」

古典の教養と、前書、本歌取り等に代表される方法意識。最も辛辣で犀利な批評家でもある。今年、発行人として「ku+」を創刊。句集三冊。

五島高資 「俳句スクエア」「海程」「豈」
  指の輪を重ねて秋の入り日かな 「週刊俳句」
  シリウスや人を吸い込む東口  「週刊俳句」
  放たれて矢の彼方なる桜かな   Facebook ※2

雄渾なロマンティシズム。若くして注目され、長い活動歴を持つ。「俳句スクエア」代表。句集三冊。

榮 猿丸 「澤」
  レジの女の腕の産毛や秋灯 「澤」
  ダウンジャケット継目に羽毛吹かれをり *『点滅』
  髪洗ふシャワーカーテン隔て尿る  *『点滅』

消費社会の日常と恋愛。作者はそのドラマの主人公であることを楽しんでいる。第5回田中裕明賞(平成26年)。

本多 燐 「都市」「硫」
  温室にヘリコプターの影ふるへ 「都市」
  水鳥の水割る胸の耀けり    「都市」
  三月菜犇きあひてひらひらす  「都市」

この作家について多くを知らないが、今回、目にした作品は非常に充実していた。

佐藤郁良 「銀化」「群青」
  鯛焼といふ詫び状に似たるもの 「銀化」
  秋雨やしづかに動く転轍機   「銀化」
  石垣に珊瑚の名残風の秋    「群青」

開成高校俳句部を指導。第31回俳人協会新人賞(平成19年)。昨秋、同人誌「群青」を創刊。句集二冊。

高橋 進 「煌星」
  焼牡蠣の細き殻口刃を入るる「煌星」
  雪吊の縄より松が食み出せり「煌星」

歳時記的なトピックを、現場的、即物的に描写する。

杉浦圭祐 「草樹」
  冬晴の手になじむ石持ち帰る「草樹」
  街灯の暗さにありて秋の川 「草樹」

感覚的な把握による、透明感のある景。

野崎海芋 「澤」
  文化祭果つむすめらの雄叫びに 「澤」
  卓あかるしよ牡蠣フライ積まれたる「澤」

倒置を多用した口調が、明るく弾む。

佐藤清美 「鬣」
  松島や秋光を呑む湾であり  「鬣」
  もみぢして池の下にもある都 「鬣」

糸屋和恵 「藍生」
  かるた飛ぶ畳にうすき音立てて「俳句」
第1回星野立子新人賞(平成25年)。
寺澤佐和子 「未来図」 
  細雪もろともに吸ふ湖の風 「未来図」
岸田祐子 「ホトトギス」
  雪卸梯子を抑へつつ会話「ホトトギス」
小野裕三 「海程」「豆の木」 
  昇ったことのない階段乾いたヒトデ「海程」
遠藤由美 「花鳥」
  参道をリヤカー引きつ落葉掻 「花鳥」
津田このみ  「船団」「里」
  せんせいの外套そっと横抱きに 「里」

◆昭和44年生まれ

鴇田智哉
  ひあたりの枯れて車をあやつる手 「俳句」
  壁紙のまはりで風邪のこゑがする 「俳句」
  口ぬるくして短日の塔をのぼる  「俳句」
  白息のほかにかすれてゐる木々も *『こゑふたつ』

比類のない文体。その「似ていなさ」「新しさ」は、平成俳句においてぬきんでている。昨年、結社を辞し無所属に。第29回俳人協会新人賞(平成17年)。

関 悦史 「豈」「ku+」
  セクシーに投票箱は冷えてゐる 「ku+」
  石積めば世界ありけり鰯雲   「ku+」
  取り出さるる燃料棒へ賀状書く 「俳句」
  牛久のスーパーCGほどの美少女歩み来しかも白服  ※3

外部の現実の果敢な取込みにより俳句を同時代表現に。諸ジャンルに通暁した批評家としても無二の存在。第一回芝不器男俳句新人賞奨励賞(平成14年)で登場。

後閑達雄 「椋」
  年用意まづは実家に帰ること 「椋」
  虫売りの立てば大きな男かな 「椋」
  新築の庭に小さき桜かな 「アステリズム」

日常のスケッチに、したたるような哀歓がある。

市川未翔 「玉藻」
  虹かかるスワンボートのうしろむき *「俳句」
関根かな 「小熊座」 「豈」
  空のまた上の空より秋の声 「小熊座」
牛田修嗣 「狩」
  六が出ていきなりパリへ絵双六 「狩」
宇井十間 「豈」
  在【あ】るための時間しずかに爆心地
岩田暁子 「笹」
  シャンデリア白く濁りて緋絨緞 「笹」
小早川忠義 「童子」「アステリズム」
  コスモスや裏手に男子更衣室 「アステリズム」

◆昭和45年生まれ

岩上明美 「藍生」
  秋の野の濃き影薄き影を踏み 「藍生」
  流さるるやうに玉虫発ちにけり 「藍生」
  着ぶくれて富士近き日と思ひけり 「藍生」

自然に近く暮らすことを、静かに謳い情感がある。

益永涼子 「藍生」
  優曇華や真ん中にある喉仏 「藍生」
  夏負けの城主の心天気雨 「藍生」
  福島の白桃腐りかけの空 「藍生」

手堅い書きぶりと、心情のぶ厚さ。句集二冊。

塩見明子 「田」  
  夕凪や緩くゆはえて蝶結び 「田」
  川越えて話題の変はる秋の昼 「田」
  蓋物の運ばれてくる菊日和 「田」

ささやかな美と、それにふさわしい穏やかな文体。

九堂夜想 「LOTUS」「海程」
  麦秋の縄目かすかに日の乙女 「LOTUS」
  野巫なんで美食の鳥を眸【まみ】の上 「LOTUS」
  天外やなべて阿呆の螺旋立ち 「LOTUS」

難解をもって鳴る硬質な詩性。第2回芝不器男俳句新人賞奨励賞(平成18年)。『新撰21』。

花尻万博 
  鯨の眼零れる小さき光を連れ 「豈」
  置き水の山に澄みたる囮かな 「俳壇」

南紀在住。第2回摂津幸彦記念賞(平成25年)をきっかけに、発表が増えることを期待。

田中亜美 「海程」
  秋の薔薇くづるるごとく稿重ね 「海程」
  卯の花腐しぬるき火傷のやうな唇 *『新撰21』

目配りのきいた時評の書き手としても重要。

半田羽吟 「澤」
  浮世絵の雪深々と和紙の色 「澤」
  包帯巻かれウチハサボテンひとの丈「澤」

美と哄笑に回路を開く感覚に注目。

関根千方 「古志」
  太陽と月と引き合ふ西瓜かな 「古志」
仲田陽子
  朽野や鯨の骨が組みあがり「儒艮」
高井楚良 「秋草」
  声あげて飛び立つ鳥や冬近し 「秋草」
吉田昼顔 「蛮」
  つらら折る空のかけらを浴びながら 「蛮」
谷口鳥子 「街」
  君が飼ふ猿になりきる秋の夜 「街」

◆昭和46年生まれ

立村霜衣 「河内野」副主宰。「ホトトギス」  
  溶く箸の手応への寒卵なる 「河内野」
  ばらばらに咲きそれなりに胡麻の花「河内野」
  海紅豆とは突然に視野に入る 「河内野」

了解性、共感性に重きを置く、現在の「ホトトギス」を代表する。

塩見恵介 「船団」
  二つ貼るもし蒲公英が切手なら 「俳句」
  星飼いの星連れ歩く野分後 「船団」

早くから活躍。グループに共通するポップではしゃいだ文体が落ち着くと、抒情性が前面に。句集二冊。

川越歌澄 「人」
  そこいらの猫と歩いて年の暮 「人」
  熱燗や机の端を掴む癖 「人」

第1回北斗賞(平成22年)。句集『雲の峰』。

日隈恵里 「南風」 
  鉄柵を光抜けゆく金木犀 「南風」
  新生姜葉の青々と買はれゆく 「俳壇」

加茂 樹 「鷹」
  襟巻や鳩それぞれに無表情 「鷹」
  春浅しアイロンの湯気にほひけり 「鷹」

中村安伸 「豈」   
  総崩れの寺引いてゆく花野かな *『新撰21』

◆昭和47年生まれ

明隅礼子 「天為」 
  木琴の鳴る家にゐて夜長かな 「天為」
  立冬の朝すれちがふ馬の顔 「天為」
  三歳はみな羊なり聖夜劇 「天為」

家族と身辺に向けられるおだやかな視線。句集『星槎』により第30回俳人協会新人賞(平成18年)。

大西 朋 「鷹」 
  曼珠沙華汗ばみて腋つめたかり 「鷹」
本間瓦子 「槐」「円虹」
  六月を腹巻きせよと言はれたり 「槐」
柏柳明子 「炎環」「豆の木」
  約束のあをく書かれし九月かな 「炎環」
巫 依子 「知音」 
  冬の日のあたる方へと車椅子 「知音」
三ツ矢浩之 「航標」
  春の虹見つけ交差点に戻る 「航標」

◆昭和48年生まれ

小関菜都子 「椋」  
  まじまじと見て秋の蚊を叩きけり 「椋」
  すれ違ふとき静かなるボートかな 「椋」
  卒業の子のまつすぐに帰り来し 「椋」

単純化から生まれる、詩情とユーモア。

田島健一 「炎環」  
  琴の堅さ鶴のはかなさ顔のちから「炎環」
  鏡から犬をかたちの二月かな 「炎環」
  晴れやみごとな狐にふれてきし祝日 *『超新撰21』

独自の文体と俳句性を探求。成功作にはこの人ならではの美しさがある。

原 知子 「六曜」
  打楽器の明るさで盛る夏料理 「六曜」
  姉さんは鮮やか躑躅吸うときも「儒艮」
  菱餅の無限につづく色かたち 「儒艮」

堀木基之 「百鳥」
  券売機雑木紅葉の活けてあり 「百鳥」
  堀割の草の真つ赤に枯れてをり「百鳥」

謳いあげない口調で提示される日常の美。

甲斐のぞみ 「百鳥」
  操舵室よりクーラーのもれ来たり「百鳥」
  天高し灯台の白塗り替へて 「百鳥」

青池 亘 「百鳥」
  夕立に子どものときのやうに濡れ「俳句」
岡村知昭 「狼」「豈」
  あわゆきと鼻血のひさしぶりである ※5
関根切子 「伊吹嶺」
  秋麗や重油タンクに鷗の絵 「伊吹嶺」
栗山麻衣 「銀化」「群青」
  リップクリームひねれば冬のせり上がる「銀化」
田口茉於 「若竹」
  紅葉散る泉をひとつ隠すまで 「若竹」
近藤 愛 「藍生」
  夏の朝もたれたくなる木のありぬ「藍生」

◆昭和49年生まれ

堀本裕樹 「梓」
  双眸にきらめく飢ゑや冬鷗 「俳句」
  霜の花倒木すこしづつ沈む 「梓」
  蝶の夕かの世にも塔あらむかな 「梓」

句集『熊野曼荼羅』で第36回俳人協会新人賞(平成24年)。メディアへの露出も多い。『河』元編集長。

相沢文子 「ホトトギス」
  帰りには頬の渇いてゐる遅日 「ホトトギス」
  沈丁の香り明りをひとつ消す 「ホトトギス」
  林檎剝くときは優しい顔をする「俳壇」

「ホトトギス」の次代を担うと衆目の一致。

宮本佳世乃 「炎環」「豆の木」
  うらうらと重なり轍わたしたち 「炎環」
  山茶花のひらききつたる中を犬 「炎環」
  夕焼を壊さぬやうに脱ぎにけり *『鳥飛ぶ仕組み』

言葉の引き算からなる抽象的な詩情。軽さ、幼さ、そして現実への愛着。

三木基史 「樫」 
  双六の途中でピザの届きたり「樫」
  トラックが運ぶ破魔矢の売れ残り「樫」

第26回現代俳句新人賞(平成20年)。青春性に加え、脱力感あふれるユーモアも。

橋本小たか 「円座」
  逢ふはずの一本道や冬の夜 「円座」
  白桃に刃を入れ種にゆきあたる「円座」

中内亮玄 「狼」「海程」 
  雪にまみれ正直者から死ねたらいい「俳句」
  熱のこもる足音の群れ蟹かもしれぬ*「俳句」

竹下米花 「古志」
  様式の美と効率と扇風機 「古志」
  珈琲の膨れていよよ九月来る 「古志」

鶴岡加苗 「狩」「夕凪」
  すれ違ふ人の軽装敗戦日 「狩」
  欠席の子のため木の実もう一つ 「狩」

丹野麻衣子 「古志」  
  里芋は葉をばさばさと太るらん 「古志」
  舞ひ了へて猿曳は猿ふところに 「古志」

曾根 毅 「LOTUS」
  薄明とセシウムを負い露草よ ※4
第4回芝不器男俳句新人賞(平成26年)。
小林奈穂 「沖」
  祭来る商店街の喫茶店 「俳句」
永田泰三 「夏潮」
   おでん屋の客の見てゐるテレビかな「夏潮」
上山根まどか 「炎環」
   花柊雨の字のあるマンホール 「炎環」

◆昭和50年生まれ

五十嵐義知 「天為」 
  道といふ道に風あり台風来 「天為」
  山の端の光の帯や酉の市*『七十二候』
派手さはないが、篤実。

紺野ゆきえ 「童子」 
  待宵やスーツに運動靴でくる「童子」
  名月や解体工事ほぼ終はり「童子」

何を詠んでも「現場」感がある人。

堀田季何 「澤」
  霧の奥より声そして声の主   「澤」
  あんた一体何なんですか雪投げる「澤」

思弁性、衒学に加え、とぼけ味も。第3回芝不器男俳句新人賞奨励賞(平成22年)

服部さやか 「ににん」
  夕立風藁を抱へる村の子ら「ににん」
  団栗の落ちて人つ子ひとりなし「ににん」

如月真菜 「童子」  
  書初めのもちのもの字のながながと 「童子」
  橋の下に冬日を映し満ち潮来 「童子」

篠崎央子 「未来図」  
  世を忍ぶ鼬の影の急ぎをり 「未来図」
  秋風の扉を探る象の鼻 「未来図」

矢野玲奈 「玉藻」「天為」  
  眠りへの仕上げの乳や冬に入る 「天為」
藤永貴之 「夏潮」  
  紅梅や日差せば急にあたゝかく 「夏潮」
草子 洗 「田」
  いつまでも歌へる人よ南風 「俳句α」
若杉朋哉
  煤煙のゆく冬の日の肌ざわり ※1

◆昭和51年生まれ

相子智恵 「澤」
  颱風来焼かれて魚の目の真白「澤」
  秋刀魚買ふビニル袋に弓形に「澤」
  片手明るし手袋をまた失くし「澤」
  犬小屋の小さき氷柱や落としやる「澤」

厚塗りの現実描写。主題が「私」に傾くとき、色濃い孤独感が表れる。第55回角川俳句賞(平成21年)。アンソロジー『新撰21』。

髙勢祥子 「鬼」「街」   
  卵黄のつつと動きぬ夏初め 「週刊俳句」
  木の葉散る袖のボタンの逃げ回る 「俳句界」
  ねと言つてやはらかなこと雲に鳥 *『昨日触れたる』

作品として個性【キャラクター】化された「女性」性。第3回北斗賞(平成24年)。

森下秋露 「澤」
  足踏みポンプにビニールプール立ち上がる 「澤」     
  夜店解体八枚のベニヤ板 「澤」
  吸はるれば伸ぶる乳首や冷房裡 「俳句」

必ずしも日常に親和しない日常詠。

池田瑠那 「澤」
  良夜なり額よりあをき角生ふる 「澤」
  原初生命体に分裂の快や春 「俳句」
  宇宙船冷ゆライカ犬乗せしまま *「澤」

浪漫主義的な物語俳句に、際立つ個性。

小川春休 「童子」「澤」
  飛ばさるる蟷螂長き身をよぢり 「童子」
  着ぶくれて手のひらに銭並べをり 「澤」

二誌に共通の、悠々とした詠みぶり。句集『銀の泡』。

庄田宏文 「天為」
  色鳥の高さへ抱けと指す子かな ※4
菊池麻美 「鬼」  
  柚子風呂の柚子もて耳を温める 「鬼」
直井華子 「寒雷」
  日脚伸ぶ珈琲淹れてひとりかな 「寒雷」
渡辺竜樹 「古志」 
  金魚田に金魚のみゆる今朝の秋「古志」
田中櫻子 「藍生」
  冬紅葉なにを探しにきたのだらう「藍生」
前之園 望 「轍」
  いれたてのココアに浮かぶ雪の夢 「轍」
岡田 眠 「いつき組」 
  火事さなか火に解かれたる展翅の蝶 「100年俳句計画」

◆昭和52年生まれ

阪西敦子 「円虹」「ホトトギス」「ku+」
  雨すこし重たくなつて烏瓜 「ku+」
  竹馬の徒の夕日へ出たりけり 「ku+」
  鹿の眼のみな開かれて秋を待つ「ホトトギス」
  外套の掛かりて椅子の引かれあり「ホトトギス」

季題中心、言葉に無理をかけない、しかし幻想味に通じる詩情がある。「ホトトギス」若手中随一の作家性の強さ。アンソロジー『俳コレ』。

西山ゆりこ 「駒草」  
  落葉掻き背骨の熱くなつて来し 「俳句」
  柿食ぶる頬のごつごつ出つ張りぬ「俳句界」

健康さと向日性が、明確な個性となっている。

藤井南帆 「未来図」 
  折詰の隅に小ぶりの桜餅「俳句」
  養蜂の夢持つ人よ風光る「未来図」

紀本直美 「船団」
  はなのよいふたごもどきがふたりのり「船団」
  あちこちをつつくきつつきすっとする「船団」

日下野由季 「海」
  秋澄むや古城へ渡る石の橋 「海」
山下つばさ 「街」「海程」
  アパートは西日を受けて最強に 「街」
辻 奈央子 「古志」
  いつかうに酔ひの回らぬ時雨かな「古志」
大高 翔 「藍花」
  風ひとつ手放し萩の枯れてゆく 「藍花」
宿谷晃弘 「狩」
  秋雨の糸引く窓に触れてみぬ 「狩」

◆昭和53年生まれ  

北大路翼 「街」
  花びらの薄きを踏めば透き通る Twitter ※6
  春の雲は全部餃子だ焼いてくれ  Twitter ※6

独自グループ「屍派」を率いて活動。『新撰21』。

津久井健之 「貂」
  沢庵を齧り心の晴れてゆく 「貂」
  独楽の芯獣のごとき熱放ち 「俳句」

この人にも個性化されたユーモアがある。

清水右子 「鷹」
  流星や私の家の小さき鍵 「鷹」
  手鏡に収まる顔や夜の秋 「鷹」

藤田翔青 「藍生」 
  雑草の漲れば月涼しかり 「藍生」
  鶏頭の向かうにレタス積まれゆく「藍生」

藤 幹子 「炎環」
  観自在菩薩腹満つ秋の馬 「炎環」
杉原絵里 「春月」
  井戸水にトマトの回るバケツかな「春月」
手銭 誠 「天為」
  店の奥に次の店あり銀木犀 「天為」
髙坂明良 
  ふるさとみな水葬にして浮いて来い※4

◆昭和54年生まれ

村上鞆彦 「南風」副代表 
  日向水蝶の大きな影よぎる 「南風」
  お澄ましに手毬麩ひとつ沈む秋「南風」
  一の酉靄あたたかく更けにけり「南風」
  手の冷えて色なき海を見てゐたり「南風」

近代俳句の正統にありつつ、現実感の希薄さと抽象的抒情という、多くの若手に共通の現代性を持つ。『新撰21』。

藤本夕衣 「泉」「晨」   
  黄落やまんなかにある本の部屋「泉」
  白萩や椅子の脚からのびる影 「泉」
  折紙の船をのせたる薄氷 「泉」

田中裕明に師事。日記性やただごと性のない、昇華された身辺詠に特徴。

御中虫 
  やよ花よ匿つて呉れ胞衣【えな】お呉れ「つばさ」
  観音よゥ手らァ斬りなョ飛べねェゾ「つばさ」
  やままめとささやきながら桜散る 「豈」

発表は少ないが毎回文体の実験がある。華麗な文学的才質。第三回芝不器男俳句新人賞(平成十二年)。句集二冊。

鎌田 俊 「河」副主宰
  ゆずの香や蕎麦屋にならぶ楯トロフィー「河」
  蓑虫と大悲の空を頒かちけり 「河」
  ばらの雨白い鯨が来るだらう 「河」

切字を多用、大見得を切るような詠みぶりで、俳諧性を狙った句も多い。唐突にあらわれる抒情性も。

冨田拓也
  斑猫やあらゆる言葉辞書のなかに 「豈」
  はるかより近づく蹠蝶の昼 *『新撰21』

第一回芝不器男俳句新人賞(平成14年)を受賞し、この世代の新人の先頭を切つて登場。定期的な発表を望む。

前北かおる 「夏潮」
  自転車を起こし寒鮒釣帰る 「夏潮」
  道標の矢が三方へ夏の山 「ガニメデ」

日々の楽しみを訥々と。

十亀わら 「いつき組」 
  ミキサーの刃に春昼の荒れにけり「100年俳句計画」
  春愁や畳む手順はそれぞれに 「100年俳句計画」

佐々木貴子 「陸」
  すすきはら星ふわふわと陽に孵る「陸」
  夜をはるか隆起している柿の実よ「陸」

表健太郎 「LOTUS」 
  悲しめばみな紺色やひめりんご「LOTUS」

◆昭和55年生まれ

髙柳克弘 「鷹」
  鷗の目寒し蒼海知り尽くし 「鷹」
  雪投げの母子に我は誰でもなし「俳句界」
  火事跡やザムザの如き虫這へる「ガニメデ」
  愚かなるテレビの光梅雨の家 「週刊俳句」

人気と実力を併せ持ち、岸本尚毅に「波郷や湘子のプロ根性を受け継ぐ」と評された。時には、共感を峻拒するような句も見たい。句集『未踏』。

南十二国 「鷹」  
  雲あまた立たしめて山滴れり「鷹」
  皆眠りわれもねむりぬ曼珠沙華「鷹」
  うまおひや白きひかりの眼鏡店「鷹」

本来の持ち味である肯定性は維持しつつ、若干の陰翳が加わった印象。アンソロジー『俳コレ』。

藤井あかり 「椋」
  烏瓜コップに咲かすはかなごと「椋」
  灯して部屋やはらげる葡萄かな「椋」
  我がものになるまで見つめ藪柑子「椋」

繊細で感覚的な句に並び、はっとする激しさも。

矢口 晃 「銀化」
  プールより上がる失格者のやうに 「ガニメデ」
  雷雲よなまあたたかき吊革よ 「俳句」
  ワーキングプアコスモスは花を挙げ *『俳コレ』

境涯詠に徹する。私小説的な自己の客観視と劇化が生む、巧まざるユーモア。

大谷弘至 「古志」主宰
  ひとつぶの露の硯をこさへたる 「古志」
  島国のここもまた島相撲とる 「古志」
  波寄せて詩歌の国や大旦 *『大旦』

近代俳句のリアリズムと切断された伝統派として、独自の道を進む。頌歌【ほめうた】としての俳句は、古代歌謡への先祖返りを志向か。

杉田菜穂 「運河」
  冷房の音とタイピングの音と「ガニメデ」
  食卓のきみと話してゐる炬燵 「運河」

澤田和弥 「天為」 
  秋湿少年は巨軀折り曲げて 「天為」
鈴木淑子 「知音」
  目を逸らすことなく鹿のキュンと鳴く「知音」
杉原祐之 「夏潮」「山茶花」
  秋の浜仮設トイレの建ちしまま 「夏潮」
藤田 俊 「船団」
  枇杷落ちて枇杷の木という近所あり「船団」

◆昭和56年生まれ

松本てふこ 「童子」
  山に来て金木犀の香りとは「童子」
  底冷や麻婆豆腐に肉の味「童子」

軽い文体と淡々としたおかしみは、結社の風でもあり、本人の素質でもある。アンソロジー『俳コレ』。

涼野海音 「火星」「晨」
  猫の足すこし汚れて涼しかり「晨」
  黄落やサンドイッチに小さき旗「晨」

第4回北斗賞(平成25年)。

中本真人 「山茶花」
  信号の点かぬが並び秋出水「山茶花」
  ぼろ市の雑踏に犬抱き通し「山茶花」


蓜島啓介 「鷹」
  歩道橋のぼり冬青空にほふ「鷹」
西澤日出樹 「岳」
  春の海鼠や追憶に身を委ね「俳句界」

◆昭和57年生まれ

音羽紅子 「童子」「ゆきしづく」
  四方の春鳩サブレーの缶ぱかと「童子」
  甘かりし仕事始めのカレーかな「童子」

トオイダイスケ 「澤」
  搗く音もだんだん餅になつてゆく「澤」
  水槽の泡とらふぐを押し戻す「澤」

ものの存在や関係性から生まれるユーモア。

抜井諒一 「群青」
  べつたりと月の光や柿若葉 「群青」

◆昭和58年生まれ

神野紗希 「スピカ」
  天国に図書館あるか青葉騒 「つばさ」
  冬休かもめを抱けば鈴が降る「スピカ」  
  すずしろや富士山はまだ若き山「俳句」
  牡蠣グラタンほぼマカロニや三十歳「俳句」

「俳句甲子園」第一世代。個性【キャラクター】としての少女性をどう方向転換するか(しないか)。句集『光まみれの蜂』。

西村麒麟 「古志」
  どの部屋に行つても暇や夏休み「古志」
  いきいきと秋の燕や伊勢うどん「古志」
  獅子舞が縦に暴れてゐるところ「古志」

俳句を愛する作家自身を作中世界の主人公【キャラクター】とする。今年、芝不器男俳句新人賞奨励賞と田中裕明賞をダブル受賞。

小川楓子 「海程」「舞」   
  円柱に人魚の影やさみだるる「海程」
  冬の水日記つけないわたしたち「舞」
  山があり山影のあり いちまい「つばさ」

その言語操作はよりなめらかに、イメージは世界との親和を高めている。『超新撰21』公募枠。

外山一機 「鬣」
  牡蠣剝くや笑ひ屋笑ひつゞきをり「鬣」
  引鶴!ねえアフリカが全部欲しいの*『御遊戯』

俳句自体に対する、違和と執着を隠さない。『新撰21』

◆昭和59年生まれ

菊地悠太 「河」
  エルヴィス忌今日もあなたの空であり*「河」
江渡華子 「スピカ」「鷹」
  富士に雪臍を内側より蹴られ 「スピカ」
渡邊一二三 「車の会」
  善哉のぼとぼと垂るる椀の上

◆昭和60年生まれ

佐藤文香 「里」「鏡」「ku+」 
  雪を来て踊る子どもはおほきな子「週刊俳句」
  冬雲やひらめきあつてよい景色 「週刊俳句」
  みづにひざひたして白鳥に乗るわ「週刊俳句」
  ほほゑんでゐると千鳥は行つてしまふ *「鏡」

口語を非日常語=詩語化する文体の探求。日常風景と恋愛をめぐる極私的モチーフ。今年、第二句集刊行予定。

山口優夢 「銀化」  
  ほのほより淡く富士あり芒原 「銀化」
  菊人形菊身ごもりて匂ふなり 「銀化」
  原子炉に雪降る胎児目をひらく「銀化」

多忙の日々と推測されるが、粘り強く作句。第56回角川俳句賞(平成22年)。句集『残像』。

谷 雄介 「群青」「ku+」
  超巨大伊勢海老栃木滅びけり 「俳句」
  よみがへる父と歴代の飼ひ犬と「ku+」

奇想の人。ひさびさに発表が増え、存在感を更新した。

久留島元 「船団」
  天の川すべて狸が化けたもの 「船団」
熊田拓郎 「栴檀」
  くるくると木屑流るる春の川 ※8

◆昭和61年生まれ

野口る理 「スピカ」
  避寒せよバスを使はず夢を見ず 「スピカ」
  雪しづか紅茶は淹れてもらふもの 「スピカ」
  チャーリー・ブラウンの巻き毛に幸せな雪*『しやりり』

自分本位に発する「ガーリー」な世界が、すでに評価を得ている。昨年、句集を上梓。

兼城 雄 「鷹」
  五噸車過ぎ石の匂ひや秋暑し 「鷹」
  獣らはみひらきて死ぬ冬の空 「ガニメデ」

中山奈々 「百鳥」「里」
  求人の挿絵にしやもじ風光る 「里」
小林鮎美 「群青」
  見返り美人のポーズで止まる扇風機「群青」
酒井俊祐 「群青」
  とんかつを切れば真つ白虫の声 「群青」

◆昭和62年生まれ

生駒大祐 「天為」「ku+」 
  しろがねの月を残して夜の果てぬ 「天為」
  雲流れあじさゐ寺にうばぐるま「ガニメデ」
  水中に轍ありけりいなびかり 「ガニメデ」

伝統俳句の規矩を守りつつ、微差からの更新を企図する。

市川きつね 「古志」
  一人呼べば五六人来て冷奴 「古志」
原田浩佑 「円錐」
  靴篦は秋の高さにかけてある ※4
西丘伊吹 「hi→」
  カーテンのひだに闇あり秋桜 「hi→」

◆昭和63年生まれ

稲垣秀俊 「夏潮」
  送火を守るでもなく消ゆるまで「夏潮」
  丘一つ刈られ鉄塔秋の雲 「夏潮」

羽田大佑「百鳥」
  造船は町ぐるみなり霜柱 「百鳥」
山本たくや 「船団」
  短夜やチャイナタウンでむせび泣け「船団」
進藤剛至 「ホトトギス」
  大綿の憩ふカーネルサンダース ※8

◆平成元年生まれ

平井岳人 「銀化」「群青」  
  枝豆の金の産毛のみな尖る 「群青」
  風鈴や世にも静かな鉄工所 「群青」
  ゆく年やサウナのテレビ突如消ゆ「俳句」

手堅い現実描写に特徴。なまの心情があふれる近作もあり、今後、作品の幅が広がるかもしれない。

◆平成2年生まれ

村越 敦 「澤」
  鳴きごゑは知らねど鯨たぶんゐる「澤」
  植木鉢雪の中なり枝突き出す 「澤」
  中華屋に鏡ありけり十二月 「澤」

見えないものを見ようとする発想に非凡さがある。

越智友亮
  月がきれい人それぞれに詩があって※4
黒岩徳将 「いつき組」
  招き猫左右揃つてゐる旱 「100年俳句計画」

◆平成3年生まれ

福田若之 「群青」「ku+」  
  隣人を愛せよ私有せよダリア 「群青」
  いい笑顔して水仙を踏めば鳴る 「群青」
  産業革命以来の冬の青空だ 「ku+」
  やっていることは昨日と同じだが汗が凍りはじめた「ku+」

若い作者が、失われたものとして近過去の「青春」を描くことの、切実さと批評性。言葉の運動神経に卓越したものがある。アンソロジー『俳コレ』。

千倉由穂 「小熊座」
  深秋のどこかに七福神の笑み 「小熊座」
今井 心 「ふらここ」
  春光や眼鏡をはずす時わらう ※7

◆平成4年生まれ

三村凌霄 「銀化」「群青」
  橋の下から手花火の煙と声「群青」
  秋果盛る作り物なる枝そへて「群青」
  水の秋砥石の端の欠けにけり「群青」

精神的には擬古典を志向するが、筆致やイメージは硬質で、そこが魅力にもなっている。

◆平成5年生まれ

小野あらた 「銀化」「玉藻」「群青」 
  触れ合はぬ距離に糸瓜の垂れてをり 「群青」
  ストローを離れて丸き石鹸玉 「ガニメデ」
  涸川の合流をする形かな 「週刊俳句」

写生の徒。「もの」の気持ちを描くようなユーモアに新味。発表句数は多いが充実。アンソロジー『俳コレ』。

◆平成6年生まれ

安里琉太 「銀化」「群青」
  眩暈とはビニール袋詰めの蝶 「俳壇」
今泉礼奈 「本郷句会」
  遠足の手をつぎつぎと離しけり 
平井 湊 「群青」
  金木犀母の職場の前通る 「群青」

◆平成7年生まれ

堀下 翔 「里」「群青」 
  小鳥来る写真屋に行かうと思ふ 「里」
  ごつごつと卵を洗ふ寒さかな ※9

大塚 凱 
  音粗き迷子放送かき氷 ※7

◆平成8年生まれ

網倉朔太郎
  てのひらの赤の淡さよ寒卵 ※7
青本柚紀
  夕焼や千年後には鳥の国 ※10
青本瑞季
  あをあをと松葉に消ゆる時雨かな 「里」


初出補
※1「第二回星野立子新人賞」
※2 https://www.facebook.com/takatoshi.goto.39
※3句集『六十億本の回転する曲がつた棒』
※4「第四回芝不器男俳句新人賞」
※5ネットプリント「ぺんぎんぱんつの紙」
※6 https://twitter.com/tenshinoyodare
※7「石田波郷新人賞」
※8「第二十五回日本伝統俳句協会新人賞」
※9「第十回鬼貫青春俳句大賞」
※10「第十六回俳句甲子園」

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