2008-04-06

第2回週刊俳句賞 互選 01-07

互選 選と選評 01-07



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01 藤田哲史

まず、いいと思った作品を5つ、6つに絞って、その後残ったものの中から3つを選びました。9番の「ハーモニカ」、16番の「昼の月」、22番の「傘のうら」、にそれぞれ1点づつ。

それぞれにいい句があって、
9番は、

教会の影梅の木にかかりたる
残る鴨ボート置き場のごちやとして
尻のせてふかき座椅子や百千鳥
爛春の物みな顔にみえし日よ

16番は、

海岸に白き車や春浅し


春暁の鏡の裏の温みかな


蠟梅や蛇口に残る一雫


コンタクトレンズにあふれ春の水

22番では、

淡雪や展望室の仄暗し


蒲公英にあるひとすぢの真空よ


傘のうらの色やはらかき春の雨


ごつそりと雄蕊の束や落椿




9番は、まず、季語の使い方がうまい。言葉の雰囲気だけで作らないところがいい。
16番は、水と水に関する言葉で縛りをつけて、統一感を出している。切り取り方が鋭い。
22番は、発想というか、感じ方を大事にしている。言葉に手応えをもたせようともしている。


そのほかにも、いいと思ったのはあって、
17番の「多孔質」、3番の「life」。

17番の、
鯰打ちのめされ雪の積もるまま
が、かなり気になる句。
他の作品でも、季語を存分に飛ばしている。自由な作品。

3番は、行事が重なってドタバタしてますが、
妙なリアルさがある。どことなく翳りのようなものもあって。都会的です。
気を抜いて作ったようなのが無いのもいいですね。


その他にも面白いのはあるんですが。
(10番の「卒業期画家の名前の喫茶店」とか、13番の「略奪愛未遂のままか猫の恋」。)

以上です。

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02 田中志典

自分は、
06「海鳴り」に3点与えたいと思います。
理由は、まずタイトルに惹かれたのが大きいですが、
春ショール本音を描ききる鉛筆
など、カタカナ語の取入れが自然で、句のバランスが綺麗なところ。
そして、選ぶ言葉自体のセンスが良かったということなどです。
冬珊瑚兄が欲しいと海鳴りす
が総ての句のなかで一番惹かれました。

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03 山口優夢

01 屋根1点
09 ハーモニカ1点
16 昼の月1点

心惹かれた句の多さと全体の雰囲気的な統一感で選びました。

01は、
行々子夜の公園は木の密に
夕ぐれの明るさの瓜冷やしけり
団扇つかふ胡座の股に肘つけて
が好きでした。穏やかな言葉遣いの中に発見の楽しさがありました。

09は、
教会の影梅の木にかかりたる
カーテンの波うちぎはへ春の雪
春の灯のともり柱の短さよ
が好きでした。言葉によって発見された詩情が際立っていたかと思います。

16は、
冬凪やうすく華やぐ三角州
海岸に白き車や春浅し
春暁の鏡の裏の温みかな
が好きでした。何も言わずに黙って景色を見つめる作者のぼんやりと口をあけている様子が見えてくる気がしました。


他に好きだった句は、
06 クレームの電話アロエの花盛り
07 屏風もて運ぶ草生す屍かな
17 多孔質の友よしつかり憎め憎め
17 大根の切りくち乾きゆくを見ゆ
18 春の雨ガラスケースに土偶の眼
21 三寒四温喉元の髭残り
22 傘のうらの色やはらかき春の雨
22 ごつそりと雄蕊の束や落椿

です。この作品になら3点あげてもいい!と思えるようなたった一つの作品を見つけられなかったのは残念に思いました(参加者の僕が言うのもなんですが)。

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04 モル

「09 ハーモニカ」 2点

読後とてもほのぼのとした気持ちになり、10句統一してバランスのとれた読んでいて気持ちの良い作品だと思いました。10句全て春の季語で統一され、全体的にやわらかな色彩を感じさせながらも

 教会の影梅の木にかかりたる
 春の灯のともり柱の短さよ

などの句はやわらかな光の中に強い陰影も感じさせ、魅力的だと思いました。

 図書館の窓あをあをと春休み
 カーテンの波うちぎはへ春の雪

が特に好きな句でした。


「22 傘のうら」 1点

無意識のうちに日常の中に潜む裏側を見てしまう、そんな作者の姿勢を感じさせられる作品でした。どの句も丁寧な言葉で穏やかに描かれているのに、作者の冷静な視線を所々で感じハッとさせられることが多く、とても惹かれました。

 残雪の癌のようなる交差点
 蒲公英にあるひとすぢの真空よ
 傘のうらの色やはらかき春の雨

が特に好きな句でした。


他の作品にも魅力的な句がたくさんあり迷いました。好きだと思った句を少しのせます。

 01 カーテン吹かれ虫籠に届かざる
 03 手の中の鍵のつめたき吹雪かな
 10 蝶の眼の中でわたしが裏返る
 11 蛍光灯照るや螺旋の梨の皮
 13 交番のあたり明るし春の雨
 20 赤んぼう警戒しつつ手になずな

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05 羽田大佑

選は
3番「life」
16番「昼の月」
22番「傘のうら」
に1点づつです。

3番は「婚礼の胸を花野と思ひけり」「耳に耳触るる寒椿のやうに」「恥づかしささびしさぬるき懐炉揉む」がいいと思いました。
「婚礼の胸を花野と思ひけり」は発想の新しさと句の雰囲気が素晴らしいと思いました。
「耳に耳触るる寒椿のやうに」は青年期の心情が感じ取れる句だと思いました。

16番は「受刑者の横一列やクリスマス」「結氷をまだ見ぬ水辺にて遊ぶ」「雨傘を乾かしてゐる春の宵」がいいと思いました。

「受刑者の横一列やクリスマス」は今回最も心惹かれた句で、死刑囚たちの句を集めた句集「異空間の俳句たち」の句を思いだした。「雨傘を乾かしてゐる春の宵」は取り合わせが上手いと思いました。

22番は「淡雪や展望台の仄暗し」「傘のうらの色やはらかき春の雨」「踏青や髪上げてより鬼となる」がいいと思いました。
「淡雪や展望台の仄暗し」は正統的な句で、取り合わせが上手いと思います。
「踏青や髪上げてより鬼となる」は三橋鷹女の激情を詠み込んだ俳句を思いだした。

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06 奈月

まず、10「ぽろぽろと」に2点。

これは明らかにレベルがちがいましたね。とてもうまいですし、題の付け方も、他の自分に酔ってる題ではなく、しっかり芯を押さえてますし。また、句のレベルだけでなく、構成も美しい。前後の句がそれぞれもたれ掛からないで、しかも新しい世界を見せてくれる。とてもすばらしいと思いました。

次に03「life」に一点です。題は、英語の必要性を感じなかったのですが、嫌味はありませんでした。これも構成がなかなか上手いと感じましたが、多少緩い句がもたれ掛からないでいれば、上を勝っていたかと。

今回は構成を主として、選ばせていただきました。

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07 タニユウスケ

「03 life」
「11 大 和」
「17 多孔質」


の3作品に1点ずつ振り分けます。
以下、各作品へのコメントです。


03「life」

「婚礼の胸を花野と思ひけり」「耳に耳触るる寒椿のやうに」の2句は、派手で目立ちますが、あまり面白くないと思いました。比喩や言い換えに走らない作品のほうが好ましい気がしました。「かりがねや背中で閉まる自動ドア」の自動ドアの物体感(ちょっと怖い)、「手の中の鍵のつめたき吹雪かな」から確かに伝わってくる鍵の冷たさ(「吹雪」という下五の微かな裏切りもいいですね)、「手袋の指抽斗にはさむなり」で手袋の指を挟んでしまったときのぐにゃりとした気持ちの悪い感触といったところに共感しました。「春宵の花屋に寄らず帰りけり」の心の動きにも惹かれました。


11「大 和」

欠点を挙げようと思えばいくつでも指摘できるんですけど、それ以上に、愛すべき作品がたくさんありました。「新涼や死にゆく祖父と話題がない」の乾いた情感、「蛍光灯照るや螺旋の梨の皮」の思い切った空間構成、「たいていのものは輝く春夕日」「あの変な屋根は教会日足伸ぶ」の脱力した書きぶり。いずれも僕には魅力的に感じられました。さっき「欠点を挙げようと思えば…」なんて偉そうなことをいいましたが、改めて眺めると、先ほど欠点に見えたところも作者の計らいのように思えてきたりして…不思議です。「こんな俳句、誰が作ったっていいんじゃないの」という作品がずらずらと並ぶ中で、ちょっと作者の顔を見てみたいと思わせる作品でした。


17「多孔質」

「胸骨のうらを涼しき牛のちち」という句、「涼し」という季語を心理的な意味合いに転換するという手法はたびたび見られますが、それにしても上品な手口だなと驚きました。「神の名は多すぎないか秋の蝉」という口調は、今回の22作品の中ではとても目立ちましたし、言葉の意味するところにも鋭さを感じました。「いつせいに埴輪の歌いだす良夜」は、ややありきたりなメルヘンだと思いましたが、「ぬぬぬ」という異様な音を立てて伸びる爪や、幽霊の歯(この句、仮名遣いが違いますが)は、ただ受動的に俳句を書いている人からは出てこない素材であり、俳句を書く人間としての作者の意識の高さを感じました。





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