〔週俳12月の俳句を読む〕
読み返すたびにきっと新しい
榎本 享
水替へて金魚にあたらしき寒さ 原 雅子
かねがね<寒し><冷たし>などの季語を使いこなしたいと願っているが、これが至難の業である。水を替えたばかりの冬の金魚を詠んだこの句が成功したのは、「あたらしき寒さ」という言葉を見つけたからだ。ありふれた形容詞を生き生きと使った作品は、読み返す度に新しい感動を与えてくれるに違いない。
鍵盤のぽつぽつ沈む冬の星 高勢祥子
窓の向こうに冬の星空。硝子一枚を隔てた暖かな部屋。ピアノに向かって、流れるような調べを奏でるのではない。一音一音確かめるように、人差し指一本で鍵盤を押さえてゆ
く。指先から生まれ出た音が、寒い心に、余韻を伴って沁み込んでくる。「ぽつぽつ沈む」が上手いなあ。
あざやかな平手打ちなり冬夕焼 渋川京子
すぐに消えてしまいそうな、冬の夕焼を見やりつつ語り合っていたふたり。突然くらった平手打ちに、たった今自分の口から飛び出した言葉の罪を感じる。その場では、その鮮やかさにただただ驚愕しているだけだが、後日思い出した時には、本気で怒ってくれる人がいる幸せを、「パシッ」という鮮やかな音と共に噛みしめることだろう。
年の夜も川を渡つて帰るかな 阪西敦子
毎晩川を渡って帰る。一日として同じ表情の川はなく、どこか何かが違って見える。それでも年の夜は格別だ。見下ろす作者の気持に一区切りがあるのだから。年を越す家々の灯が、いつもよりうんと明るいのだから。去年今年の感覚は、こういう川が教えてくれるのだろうな。
白菜を載せてベニアのべこと鳴る 津久井健之
朝市の用意だろうか。伏せた四つの酒瓶ケースにベニア板を渡す。そして人参や蕪や葱の中からまず白菜を掴み出して、どんと載せる。その時、ベニアが「べこ」と鳴ったのだ。使い古して波打った板の立てる音。その瞬間を聞きとめるのが俳句。はっとして書きとめるのが俳句。
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