〔週俳1月の俳句を読む〕
しずく。
しなだしん
立春を過ぎたが、日本列島には大寒波が居座っていて、雪は各地に大きな被害をもたらしている。東京には久しぶりの雨が降ったが、その前はからからの乾燥が続いた。この乾燥対策のため、年明けにはじめて加湿器を購入した。私は扁桃腺持ちで、毎年何度となく扁桃腺からの風邪に悩まされていた。出掛けたついでに買った加湿器だが、これがとてもいい。以前は朝起きると口と喉の乾きがひどかったのだが、この加湿器のお陰で今年は風邪を引いていない。なぜもっと早く買わなかったのかと、過去の自分を叱りたいほどである。
ちなみに購入した加湿器は何でも超音波式だそうで、他にもスチーム式、気化式などの方式があるというのは買い物のときに知った。そんなことで、加湿器の威力に驚いていると、加湿器の句に出会った。
宇宙から来たような加湿器が噴く 福田若之
私が購入した加湿器は「shizuku」という商品で、本当に雫のような形をしている。この句では加湿器を“宇宙からきたよう”と表現している。この表現はそんなにおどろくようなものではないが、今の私には、加湿器にして、ぴったりの比喩の句なのだ。
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人を二度切つたる鎌鼬のにほひ 望月 周
「人を二度切つた」という断定が面白い。二度というのは妖怪である鎌鼬の両腕の刃を連想させる。最終的には「にほひ」という臭覚にずらしているのも技である。
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風花や遊具は海の真向かひに 松本てふこ
「遊具」という固い言葉がここでは活きている。ここに詠われている情景はとても寒々しいものであるはずなのに、ひかりの存在を強く感じるのは「風花」という季語の斡旋であり、「海」を置いた効果であろう。
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すいせんのうしろはとほくなりにけり 野口る理
この句もどこかに海の明るさを感じる。水仙とその後ろ、というそれだけの情報だが、それが逆に水仙の咲いている景を、読者に想像させることに成功している。
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セーターの胸の膨らみ出窓のやう 山下つばさ
なんとも大胆な句である。女性のぴったりしたタートルネックのようなセーターは胸が強調される。出窓のようだという比喩はちょっと馬鹿馬鹿しくて楽しい。
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裕福な犬に吠えられ十二月 雪我狂流
裕福なという皮肉のこもった言葉がおもしろい。この裕福な犬はきっと暖かそうな服を着ていて、着ぶくれた飼い主に連れられているのかもしれない。年末を感じる十二月という季語の効果だろう。
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水鳥なのか流れゆく水なのか 村田 篠
水鳥のいる水辺の翳りを感じる句である。水鳥はあまり流れのないようなところに浮寝しているようなイメージもあるが、流れていないように見えて、流れのない水はないのだろう。冬の日のまばゆさのなかで、見えていた水鳥を一瞬見逃したのかもしれない。句の中では不鮮明な水鳥だが、破調で、疑問形のリフレインの句の成り立ちが読後には水鳥が鮮明に残る。
第245号 2012年1月1日
■生駒大祐 うしなはれ 5句 ≫読む
■村田 篠 水鳥 5句 ≫読む
■上田信治 ご町内 6句 ≫読む
■西原天気 胸ふかく 5句 ≫読む
第246号 2012年1月8日
■特集・新年詠2012 ≫読む ≫読む ≫読む ≫読む ≫読む ≫読む
第247号 2012年1月15日
■谷口智行 初 暦 7句 ≫読む
■小林千史 塔 7句 ≫読む
第248号2012年1月22日
■雪我狂流 日向ぼこ 7句 ≫読む
■依光陽子 涯 hate 7句 ≫読む
■矢口 晃 蝌蚪は雲 7句 ≫読む
■山下つばさ ぱみゆぱみゆ 7句 ≫読む
■福田若之 既製品たちと歌ううた 7句 ≫読む
第249号2012年1月29日
■望月 周 冬ゆやけ 7句 ≫読む
■林 雅樹 紛糾 7句 ≫読む
■松本てふこ 遊具 7句 ≫読む
■野口る理 留守番 7句 ≫読む
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