〔俳コレの一句〕岡野泰輔の一句
いたずらを仕掛ける+生計の在り方……西原天気
音楽で食べようなんて思うな蚊 岡野泰輔
16音/1音。この句の趣向は誰の目にも明らかでわかりやすい。
2音で切れる句(この句の/を切れと呼ぶかどうかは置いておいて)は、三鬼《算術の少年しのび泣けり夏》がよく知られ、多くはないが、目にしないこともない。けれども、16音/1音という形は、はじめて目にした。
それだけの話かとおっしゃる方もおられようかと思うが、俳句に(ひいては言葉に)いたずらを仕掛けるようなこの態度こそが貴重だ。
(蚊のところ、蛾でも行けるが、作者は蛾ではなく蚊を選んだ)
(ひょっとすると、「音楽で食べようなんて思うな、血を吸って生活していきなさい」といったメッセージを随伴的に響かせたかったのか? いや、違うか)
(蛾ではなく蚊、という作者の意図、意識の流れは想像できなくとも、「1音。おもしろんじゃね?」という作った瞬間の笑顔は想像できる)
さて、「音楽で食べる」という部分、そのこと自体は歴史的にずいぶんと昔にまで遡ることができるが(西欧なら宮廷音楽家とか)、ふつうに読めば、職業選択の自由が定着して以降、さらに音楽ビジネスが若者の夢の選択肢としてカジュアルに広まって以降、まあ、70年代以降。
とすれば、夏休み、ひさしぶりに帰省した大学生の息子から、「じつは、とうちゃん、オレ、音楽やりたいんだ」と、南瓜の煮つけに箸を突き刺しながら切り出されて、「うむむ」と言葉に詰まってから発した父親のセリフと解することもできる。「ばかもの!」と怒鳴らないだけ、この父親は、ものわかりがいい。
音楽で食べていないたくさんの人が音楽に生かされている。俳句で食べようなんて思わないたくさんの人が、俳句/俳諧に生きている。作者もそのひとり。
邑書林「俳コレ」ウェブサイト ≫俳コレ
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