
林田紀音夫全句集拾読 267
野口 裕
貨客船日ごと夜ごとの凪に泛く
平成二年、未発表句。人も荷物も運ぶ船から、荷物のように戦地に運ばれた記憶を呼び覚ましているところか。しかし、この句だけを取り出してそれ を想像しろというのは無理な相談ではある。「日ごと夜ごとの凪に泛く」が俗謡っぽく響き、心中の嘆きを消し去っている。一方で、「貨客船」、「凪」という ような、紀音夫が普段使わない語彙を投げ入れて句を為そうという意欲は見て取れる。海近くに移り住んでからの発見ではある。
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桜の実遠いところを飛行船
平成二年、未発表句。花は散り、枝枝にあるかなきかのぽちりとした濃紅の実。遠くにあっても飛行船の方が大きく見えているだろう。駘蕩たる風景を紀音夫が描く。
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