
林田紀音夫全句集拾読 294
野口 裕
春の田にたたずめば濃く昼の月
平成五年、未発表句。「いちめんのなのはな」の繰り返しで有名な山村暮鳥の詩「風景 純銀もざいく」に、「やめるはひるのつき」の一行がある。当然それを意識しての句。じっくりと春の到来を味わっている。
●
通りより見え仏壇のある暮らし
平成五年、未発表句。仏教習俗に由来した句は少ないと書いたところで、またその関連の句で恐縮だが、ちょっと変わった句なので取り上げた。往来から何の気なしに仏壇を覗いた人でもいたのだろう。ああ、うちには仏壇があるのだと改めて気づいたところ。
●
家鴨行く水族館の色を帯び
平成五年、未発表句。水族館の色といわれると、フェンスの鉄錆で染められたようなペンギンの腹を思い浮かべるが、そうしたニュアンスはないのだろう。家鴨と水族館からは、鬱屈した心情は出てきそうにないからだ。水族館を訪れたときに生じる子どもっぽい好奇心の蘇りを家鴨の行進に見て取った、とした方がよさそうだ。のどかな風景ではある。
●
0 件のコメント:
コメントを投稿