【八田木枯の一句】
胸のうち誰にもみせず紅葉山
西村麒麟
第4句集『天袋』(1998年)より。
胸のうち誰にもみせず紅葉山 八田木枯
本音であり、おそらく本当であるから哀しい。
親であろうと、兄弟であろうと、子であろうと、どれほど深く信頼していても、胸のうちは全部は見せない。ほとんどは見せても、全部は見せないものだ。そういう意味では、人はどんな環境だろうと、少しは一人だ。ましてや恋人(妻や夫でも)に対してよく言葉にする、あなただけには隠しごとはしないわ、と言うのはもちろん嘘である。なんでもかでも口に出して、人と人が一緒に居れるものではないだろう。
本当に本当のところ、心の底にある感情は、本人だけのものではないだろうか。1%も秘密が無いのは、赤子でい続けるぐらい困難だ。
もちろんそれは、浮気であるとかヘソクリであるとか、そんなケチな話ではない。胸のうちを隠すのは優しさであり、それだけに哀しい。
秋にしみじみ味わうのに良い、大人の句である。
大紅葉わが胸を搔き挘るらむ(『天袋』)
これなんかは、ちょっと胸のうちを出してみた一句。たまには、ちょろっと出さないと、それはそれで辛いのだ。
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