第515号 検印
西原天気
むかしの本の奥付ページには「検印」といって、著者のハンコがあった。「確かに私の本です」という証明のようなものだろう。印刷部数にしたがって著者が受け取る「印税」という語の「印」はこの検印から来ているらしい。
一部につき一枚の別紙にいちいちハンコを押すのは手間暇がかかる。昭和の中頃から「検印」は廃止に向かい、「著者との協議で検印省略/廃止」といった文言が小さな文字で記されるようになり、やがてそうした断り書きもなくなった。
古い本に残る検印の朱。書籍のなかでここだけは印刷ではない。著者の「手」が働いた部分だ。
もちろん、著者一人で千あるいは万あるいはそれ以上の単位の押印をこなしたとは考えにくい。大量の押印には弟子や家族も手伝っただろう。それでも、ひょっとしたら、自分がいま手にする本に残された朱が、ほかならぬ著者本人の押した朱である可能性はゼロではない。検印の朱を見つめ、想像を膨らませながら、時間を過ごすのも悪くない。
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