作品20句
遭ふ
佐藤文香
遭ふ 佐藤文香
犬やはり息に寄り来る霜の晴
地に方位描かれてゐる林檎園
鳥やすむ近くの霧のうはずみの
つまさきかかと霧の尾を踏み尽くす
広島や呼気をしたがへ凩は
上着借りてまばらに白く夜の雲
夜警我ら音を南へ運ぶなり
すこし降る雨がダリアの枯れに遭ふ
荒星の赤きをこゑは伝へけり
舌下より涎の生まる冬銀河
夜の奥へ星の乱れてはりつきぬ
呼び声の枝にかかるも冬の湖
目のなかに念のかがやく雪野原
目が赤くなるこの冬を蝶がゆく
風花は空を剝がれてきて見える
ここであける手紙に雪がふれにくる
切株のまはりの木々や息白し
落葉踏む踏むそのなかの根の隆起
枯草の隙間を細く氷りけり
指させば彼方の見えて浦千鳥
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