2017-05-28

【週俳4月の俳句を読む】隠し味 小林かんな

【週俳4月の俳句を読む】
隠し味

小林かんな


10句という単位には作者の志向するスタイル、テーマなど、作品全体の方向性、一貫性が伴われることが多い。その一貫性の中に、読み手の私はちょっとした違和を見出そうとする。それが作者の意図だろうと、無意識だろうと、隠し味というのも侮れないものだ。

「おほさじ」は幼子とその家族の日常を描く穏やかな基調を成す。

遊郭より蝶一匹の放たるる  上川拓真

上の句が四句目に置かれたことで、10句全体が少し複雑な色を帯びる。それが疵なのか、個性なのか、浮力なのか、見極めようと、私は立ち止まる。

県庁よりホースの伸ぶる万愚節  瀬名杏香

「県庁」のサイズ感に納得する。「都庁」では大きいし、「町役場」でもない。「万愚節」で念押すあたり、作者の茶目っ気は隠しおおせない。

隠遁の楽師あつまる桑の花  小津夜景

木の板のうすくひびくは鳥雲に  同

龍天にのぼるオルガン組み果てつ  同

「隠遁」は禁じられた楽曲を思わせる。ただの「木の板」も楽器めいてきて、やがてオルガンに組み込まれる。オルガンは龍を送る楽を奏でるようでもあり、龍の臓腑として天にのぼるかのようでもあり、ポリフォニーな働きぶり。この通奏低音は10句の結びまで行き渡り、どことも知れない世界をふんわりと支えている。1句目、2句目、3句目と前句を踏まえて、だんだん加速し、ふくらませる配置、句間距離、句風が巧みだ。

麦茶少し残して席を立ちにけり  野名美咲

「殴れ」「貼りまくれ」「どもれ」と威勢の良い命令形3句で始まり、文語体の俳句らしい俳句に収束する意外な構成か。10句弾け通して、俳句の堅牢な枠を揺さぶってみたら、どうなっていただろう。殴れ殴れ殴れ。


第519号 2017年4月2日
堀下 翔 篁 10句 読む
第520号 2017年4月9日
瀬名杏香 そとうみ 10句 読む
関悦史 台湾 10句 読む
小津夜景 そらなる庭に ピエロ・デラ・フランチェスカによせて 10句 読む
上川拓真 おほさじ 10句 読む
野名美咲 怪獣のバラード 10句 読む

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