【週俳4月の俳句を読む】
隠し味
小林かんな
10句という単位には作者の志向するスタイル、テーマなど、作品全体の方向性、一貫性が伴われることが多い。その一貫性の中に、読み手の私はちょっとした違和を見出そうとする。それが作者の意図だろうと、無意識だろうと、隠し味というのも侮れないものだ。
「おほさじ」は幼子とその家族の日常を描く穏やかな基調を成す。
遊郭より蝶一匹の放たるる 上川拓真
上の句が四句目に置かれたことで、10句全体が少し複雑な色を帯びる。それが疵なのか、個性なのか、浮力なのか、見極めようと、私は立ち止まる。
県庁よりホースの伸ぶる万愚節 瀬名杏香
「県庁」のサイズ感に納得する。「都庁」では大きいし、「町役場」でもない。「万愚節」で念押すあたり、作者の茶目っ気は隠しおおせない。
隠遁の楽師あつまる桑の花 小津夜景
木の板のうすくひびくは鳥雲に 同
龍天にのぼるオルガン組み果てつ 同
「隠遁」は禁じられた楽曲を思わせる。ただの「木の板」も楽器めいてきて、やがてオルガンに組み込まれる。オルガンは龍を送る楽を奏でるようでもあり、龍の臓腑として天にのぼるかのようでもあり、ポリフォニーな働きぶり。この通奏低音は10句の結びまで行き渡り、どことも知れない世界をふんわりと支えている。1句目、2句目、3句目と前句を踏まえて、だんだん加速し、ふくらませる配置、句間距離、句風が巧みだ。
麦茶少し残して席を立ちにけり 野名美咲
「殴れ」「貼りまくれ」「どもれ」と威勢の良い命令形3句で始まり、文語体の俳句らしい俳句に収束する意外な構成か。10句弾け通して、俳句の堅牢な枠を揺さぶってみたら、どうなっていただろう。殴れ殴れ殴れ。
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