2020-03-15

【週俳1月2月の俳句を読む】前田凪子「新都心」を読む 箱森裕美

【週俳1月2月の俳句を読む】
前田凪子「新都心」を読む

箱森裕美



春浅き谷を行き交う新都心  前田凪子(以下同)

駅を降りるたびに「未来都市」という単語がつい浮かんでしまうさいたま新都心。駅、さいたまスーパーアリーナ、合同庁舎やショッピングモールなどさまざまな施設がペデストリアンデッキにより行き来可能になっているこの地形を「谷」としたのが非常に言い得て妙だ。単語そのものの効果で、山に囲まれた自然の谷も自然に浮かび上がる。ふたつの景色がオーバーラップする。

春埃ためてみているビスコ缶

長期保存できるビスコの缶。数年前に購入してからずっと部屋の端に置かれていて、ほかの家具や小物ともはや一体化している。家の者にはもう存在を意識されなくなってしまっているほどに静かだ。

積み重なっているのは何度目の「春の埃」なのだろうか。そしてこのあとも積もり続けるのだろうか。

蟇出でよ閉じては開くブラウザー

開いて、閉じて、開いて、閉じて。繰り返すうちにぼんやりと現れる蟇。魔法陣や杖などを用いて行われていた召喚術は、現代はこんなふうに形を変えているのかもしれない。

雲に入るホワイトボードたち鳥たち

鳥たちに混ざって突如出現するホワイトボードの群にひるんでしまうが、妙に納得感がある。自分たちも鳥の一種だと思っているのだろう。ゆっくりと大きく翼を動かしそうだ。

立春の両手でふれる窓ガラス

窓ガラスはほぼ毎日無意識に目にはするが、触れることはなかなかないように思う。しかも両手で。手で触れることにより感じる、春になりたての冷たさ。自分がいる側とその外側との境界。

クリップひとつかみ放り投げ焼野

たまたまポケットに入っていたひとつ、というならまだしも、ひとつかみ分、もしくはそれ以上のクリップを焼野に持ち込んでいるその状況が面白い。


第665号 2019年1月19日
山本真也
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第669号 2019年2月16日
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