2020-05-10

【空へゆく階段】№29 解題 対中いずみ

【空へゆく階段№29 解題

対中いずみ


「ゆう」8号には、「飯島晴子さん」という田中裕明の小文が載っている。
六月のはじめ飯島晴子さんが亡くなられた。「青」には府立第一高女で同窓だった方が何人かおられる縁で、飯島さんは爽波先生とも親しかった。吟行会にも何度かゲストとして来られたことがある。
飯島さんの後年の句風に爽波先生が影響を与えたことはたしかで、それまでの言葉から言葉をつむぎだすような作品がしだいに即物的になった。ただ即物的なのではなくて、言葉の海を一度漂流しているから骨太でつよい俳句である。
見るのと言葉とが一緒に出てくる、という爽波の言葉が飯島さんにとっては啓示となった。言葉が生まれる、その無時間性について、飯島さんは、「物の見えたるひかり、いまだ心にきえざる中にいひとむべし」という芭蕉の言葉さえ、ひどく技術的な文脈に読めると書いている。爽波先生はこの同じ芭蕉の言葉を、まだるっこしいと言っていたが。
  白髪の乾く早さよ小鳥來る  晴子

8号の裕明句は以下の通り。太字は句集収録句。

 五月晴

つかはねば亡ぶ日本語曝しけり

無用なるもの印度哲学蠅叩

草刈女雨のはじめての匂ひかな

螢火を末子(ばつし)七つへやりにけり

つるくさのふちどりてあり瀧の空

甲板を走る一水五月晴

さみだれのあつまつてゐる湖心かな

さみだれや母の使はぬ革財布

夏草や母國語に風吹いてゐる

風の木といふ木みなみに晝寝かな


田中裕明 ゆうの言葉

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