【句集を読む】
船出のただ中に
足立枝里『春の雲』の一句
西原天気
夏帽の集まつて来し船出かな 足立枝里
船出の時刻が迫り、乗客が集まってくる。心躍るような時間。
こんな措辞を選ぶ可能性はまずないが、仮に、「集まつてゐる」なら、船から桟橋から距離をとった位置から眺めていることになり、これはこれで一つの叙景だけれど、やはり、ここは、自分(作者)も船出のただ中にいるほうが、気分があがる。
1文字あるいは数文字で景色が変わってくる。あたりまえの話だけれど、そういうあたりまえの配慮や工夫を積み重ねて、俳人は俳句をつくっている。そのことを改めて思いました。
掲句は足立枝里句集『春の雲』(2020年/私家版)より。
0 件のコメント:
コメントを投稿