2024-11-23

【中嶋憲武×西原天気の音楽千夜一夜】小室等「いま生きているということ」

【中嶋憲武×西原天気の音楽千夜一夜】
小室等「いま生きているということ」


憲武●先日、谷川俊太郎が亡くなりました。谷川俊太郎というと僕にとっては「鉄腕アトム」であり、「なんでもおまんこ」ですが、ある人にとっては「二十億光年の孤独」であり、「マザー・グース」であり、校歌であり、童話であり、スヌーピーであり、レオ・レオニであるでしょう。そんな膨大な仕事の中から今回は急遽予定を変更しまして、こちらの曲です。小室等「いま生きているということ」。

 

憲武●この曲は小室等の『いま生きているということ』(1976)というアルバムに収録されてます。このアルバムは全曲谷川俊太郎が詩を書いています。谷川俊太郎の詩に曲をつけて歌ったという方が正しいでしょうか。

天気●長い曲ですね。9分超え。

憲武●長い詩ですからね。このアルバムにはムーンライダースと矢野顕子が全面的に参加してます。

天気●1976年は、ムーンライダースの1枚目『火の玉ボーイ』発売の年ですね。矢野顕子はそれに入っていたし、その流れでのスタジオワークですね。

憲武●この曲を初めて聞いたのは高校の頃、深夜のテレビ番組です。小室等がスタジオで歌っていたのですが、その詩の内容と歌の迫力に圧倒されました。当時、「フォーライフ」という雑誌も時々読んでまして、アルバムの特集もありましたし、ムーンライダースですし、購入してしまいました。

天気●小室等はラジオでよく耳にしていました。六文銭ですね。

憲武●はい。六文銭、そして新六文銭ですね。小室等は日本のフォークソングを真剣に考えていた人、特に詞の問題ですね、で、早い段階から茨木のり子や谷川俊太郎と交流がありました。この「いま生きているということ」は、谷川俊太郎の『うつむく青年』(1971)という詩集のなかの「生きる」という詩が元になっていると思われます。「生きる」という詩には三善晃が作曲して、東京混声合唱団が歌っています。それがこちらです

天気●同じ詩を元にした歌がふたつあるんですね。

憲武●どちらの曲も圧倒されますが、僕は最初に「いま生きているということ」を聴いたので、あとで「生きる」を読んだ時に、その詩がなんかこう物足りない感じがしたんです。つまり子兎も鯨もナイフも出て来ないし、石も彫られないからです。書き足される前の詩の状態だったんですね。

天気●初期ヴァージョン。

憲武●はい。この曲の詩のなかに「いまぶらんこがゆれていること」というフレーズがあって、その後に「ぶらんこは僕が作ったぶらんこ/ぶらんこには娘が乗っている」と続きますが、この二つのフレーズは歌詞のなかにありませんので、小室等がアドリブ的に付け加えたのだと思われます。ジャケットに写っているブランコがそれで、裏ジャケットに小室等が「娘にブランコを作ってやった」と書いているからです。

天気●娘や自分が出てこないほうがいいような気もしますが、そのあたりはパフォーマーの考えを尊重しましょう。

憲武●後半の生ピアノが印象的で、ピアノは岡田徹と矢野顕子の二人で担当してますが、岡田徹はエレピですので、矢野顕子ですね。どうしてこんなフレーズ弾けるんだろうと思いました。

天気●翳りがあって、印象的なピアノ演奏ですね。

憲武●矢野顕子らしいといえば、らしさは出てるのではないかと。

天気●ふむふむ。

憲武●物心ついてからずっと、谷川俊太郎の名前は、あらゆる場所、メディアで目にしてましたし、意識してました。92歳ですね。歳をとられてからだんだん宇宙人のようになってきてまして、実は宇宙人なんではないかと思いもしましたし、102歳は軽く越えるんじゃないかと思いもしました。老衰なんですね。なるほど。ご冥福をお祈りいたします。

(最終回まで、あと635夜)

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