2025-08-10

岸田祐子〔ビール俳句〕 春なのに

〔ビール俳句〕
春なのに
★Cyclic Beer Farm/Ambrée/Saison/アルコール度数6.5%

岸田祐子


川沿いの遊歩道を歩くのが好きだ。運動をするようになってからは、走りにゆくこともある。この川の両岸は緑地帯となっていて、春は花が綺麗。桜だけでなく、辛夷や木蓮、それから椿。人出は多いが、ほとんど近所に住んでいる人らしく、普段着の人ばかりだ。他の季節も、それぞれに良い。夏の緑は眩しいし、秋は落葉の上を歩くのが気持ちよく、冬は川に集まる鳥が可愛い。

春なのにまだ昼なのにビールあけ  須川久

「春なのに」と言っているのは、ビールが夏のものだからだろう。ビールは1年を通して飲まれているけれど、俳句では夏と決められている。だから、俳句のときは「春ですけどね」とちょっぴり付け加えておく。また、「昼なのに」とも言っているから、普段は昼から飲まない人だ。あまりやらない方がよいと言われていることを敢えてするのは楽しい。例えば、鍋から直接ラーメンを食べるとか、行儀が悪いと言われそうなこと。私の場合、一人暮らしなので、やりたい放題にできるのだけど、毎日だとやや気が咎める。この句の人だって、春だろうと昼だろうと飲みたい時に飲めばいいとわかっていても、やっぱり、少しうしろめたい。そういう時は、何か理由があると安心だ。鍋ラーメンなら、洗い物を減らすためとか。この句の場合は、美味しいビールがあるからでよい。

Cyclic Beer Farmは2016年にスペインのバルセロナで設立されたブルワリー。野生酵母と自家培養酵母の混合発酵でセゾンやサワーエールを中心に醸造している。Saisonとはベルギーが発祥のスタイルで、フランス語で季節を意味する「saison」が名前の由来。フランスでは「biere de garde」と呼ばれている。夏の農作業中に喉を潤すために冬から早春にかけて農家ごとに作られていた。Ambréeはフランス北部の農家のビールに発想を得て作られたそう。よく見かけるセゾンに比べると色が濃く、干杏のような甘みでちょっとスパイシー。昼から始めて、夕べまでゆるやかに味わいたい。





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