2007-04-29

成分表 1 模型 上田信治

成分表 1 模型   上田信治
                        
初出:『里』2006年5月号


漫画の仕事で、フィギュアとよばれる小さな立体の製作に、関わったことがある。携帯のストラップに付けるような、漫画のキャラクターの小さな人形である。

立体は樹脂を型抜きして作るのだが、型の原型をつくる職人が、その世界の花形で、古風にも「原型師」と呼ばれている。専用の固い粘土を使って、二次元の漫画を三次元に起こした人形の原型を作る。ああいうものは、仕上りの倍くらいの大きさで作るような気がしていたが、実は、原型はすべて仕上りのサイズで作るのだった。たとえば、女子高生のキャラクターが全力疾走している姿を、高さ2.5cmほどの大きさに、粘土で、人の手で作る。

  揚羽より速し吉野の女学生    藤田湘子

俳句には、どこかフィギュアとか根付を連想させるところがある。芸術の起源は模倣なり、とする古典的な詩学には、よく知らないので深入りしないが、わずか十七音のうちに、万象のあれこれを現前させる技の楽しみが、俳句の見せ所の一つには違いない。

  ならべられつつ口動く鮎を買ふ  阿波野青畝 

フィギュアの話の続きだが、同じ漫画を元にした、おままごとセットも作った。「リカちゃんハウス」の庶民の暮し版のような玩具で、その台所の小道具の中に、マヨネーズがあった。その大きさ、およそ1.5cm。全体がクリーム色で、蓋がちょこんと赤いというだけで、チューブ入りマヨネーズ以外の、何物にも見えない。

模型をつくるということは、認識の鋳型を取り出すことだ。原寸大なら、実物から型を起こせばいい。原寸と異なる縮尺で模型を作るためには、その物がその物「らしく見える」仕組みに、忠実である必要がある。原寸と著しく異なる縮尺で作ることは、マヨネーズのマヨネーズたる最小単位を取り出すことなのだろう。 

といえば、高野素十が得意としたようなトリビアルな写生句が、まず連想されるが、それに限ったことではない。大景を書くことは、大景の最小単位を取り出すことであり、非造形的に書くことは、しばしば精神の最小単位を取り出すことである。あらかじめの対象を持たずに、言葉自体の運動によって書かれたと思しき句、それがかえって「どこにもない何か」の、模型になっていたりする面白さ。

  鳥の隊花とか木とか敵とかいう  阿部完市




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