『俳句研究』2007年7月号
「新鋭俳人競詠」を読む (前編) ……上田信治×さいばら天気
『俳句研究』2007年7月号に、「新鋭俳人競詠」として40人の若い俳人(30代以下)の8句作品が一挙掲載されています。これを読んで上田信治とさいばら天気がしゃべりました。昼ごはんを挟んでの数時間、いい歳こいたオッサンふたりが延々ああだこうだと話ができる。これは「俳句」の楽しさのひとつでしょう。 まずは「俳句」に感謝。競詠に参加された若い俳人さんたちに感謝。そして「お疲れ様でした」。以下はその語らいの抄録です。
天気::全体を読んでの感想あたりからぼちぼちとまいりましょうか。どうでした? 8句ずつの40作品、読破するのは、かなりしんどいかなと思ったのですが、そうでもなかった。
信治::そうでもなかったですね。
天気::話を進めるスタイルとして、1作品8句のなかから1句、お気に入りをいただくということで進めたいと思います。1句もいただけないときは「パス」。例外的に2句以上もアリ。その場合、「かなり気に入った」ということになりますね。
信治::了解です。
天気::それと100字程度の「作句信条」が添えられているんですが、これを書かされるというのは、ツラかったでしょうね。宣誓書みたいな感じ。編集部にはそんな意図はないんでしょうけど。
信治::たしか年齢別特集には、これがくっつくんです。
天気::今回、この部分にツッコミを入れるのは、原則的にナシにしようと思うんです。触れることは多少あっても、このコメント自体を評することはせずにおく。
信治::賛成です。挨拶みたいなものですから、ここに文句をつけるのは、顔写真に文句を付けるようなもので。
天気::それに、ナイーブでまじめな人は、こういった箇所で防御が働かない。正直に書いてしまって、ワリを喰うことにもなります。それでは早速、アタマから行きましょうか。
01 相子智恵・愉快愉快
信治::この方の8句を読んで、ことばの使い方に独自のルールがあるように感じました。たとえば最初の「犬伏せて顎だぶつける薄暑かな」の「顎だぶつける」、「顎のだぶつく」でもいいわけじゃないですか。「だぶつく」という現代語を、あえて古文の形にするだけの、何かの必然性があるんだろうな、と。これは、添削のようなことをしたいわけではまったくなくて、読んでいて、やや窮屈さを感じたということなんですが。
天気::なるほど。で、どの句を?
信治::「白雨や愉快愉快と池鳴らす」。発想、気持ちよし、というところで。40人全体のなかでも、この人は、モチーフがおもしろいと思いました。
天気::この人は、「や」を一物で使う人なんですね。この句の「や」は「の」に換えられる。意味上で切れなくても「や」はOKという許容。「や」の用法は流儀ですから、だからどうというのではないのですが。
信治::他にもいくつかありますね。
天気::私がいただいたのは「姫女苑花弁の密にして貧し」。
信治::ああ、これもいいですね。
天気::「密」から「貧しい」は、展開として「よくある手」といえるかもしれませんが、その前の句「姫女苑ちぎり捨てあり鳩に踏まれ」と並べて置かれているのに興味をひかれました。同じ気分を言うのに、違うアプローチ。8句しかないのに、こんなことをしている、ということで。
信治::意識的なんでしょうね。1句目、2句目と「犬」「犬」。
天気::8句の構成に工夫がある。
02 明隅礼子・鳥の恋
天気::俳人協会の新人賞を獲った人ですね。
信治::「きれい」な句を作る方、という印象でしたが、今回もそれは変わらずです。「隣りあふ家それぞれにちがふ薔薇」をいただきました。他の句は、舌足らず感があるんです。たとえば「鳥の恋そのまま河を渡りゆく」は、鳥の恋をそのままなのか、そのままという渡り方で渡るのか、鳥の恋が渡ってゆくのか。そのへんを厳密にしなければならない、とは全然思わないんですが、この句の場合は、把握が弱いと感じてしまいました。
天気::私は「熱の子の手に風船の糸長し」。8句のなかで、根拠のようなものがいちばん見えない、ということでいただきました。「長い? なんで?」という問いに、きっと答えがない。他の句は、根拠や仕掛けがちょっと見えすぎる感じがしたので。
信治::その句、熱の子が寝てるのか起きてるのか、気になってしまったんですが……。根拠が見えないと言われると、なるほどです。そういう意味で、凄みが出てくるとすれば「鳥の恋そのまま河を渡りゆく」の路線という気もします。あと、さきほどの相子さんとは対照的に、モチーフの選び方が、すこし安全圏という気がします。
天気::その「鳥の恋」の句がおもしろいのかもしれませんね。
信治::はい、要注意の句ということで。
03 東文津子・舞ふ
信治::この人は、俳句研究賞を高柳克弘さんが受賞したとき、たしか第3席で、そのときすごくおもしろかったんです。もともと「鷹」にいらした方ですよね。現在は「大冒険」の旅に出られているという感じで…。
天気::むかし句会で何度かご一緒したことがある人です。その頃は学生さんだったのでしょうか、まわりのオトナたちがおもしろがっていたことを憶えています。
信治::さりげない奇想派というのか、日常的なモチーフの中で、アイデアのおもしろさが前面に出ていたという記憶があるのですが、今回は、それがよくわからない。あるいは、わかりすぎておもしろくない。ご自分のおもしろさを、どの辺に探すのか決めかねている感じでしょうか。印象としては「大冒険」の旅の途中だな、と。いただいた句は「浜昼顔は永遠のうはの空」。「永遠」か「うはの空」か、どちらかでいいとは思うんですが、「うはの空」が好きなもので。
天気::そうですね。「永遠」じゃなければいただいていました。私は、「夏蝶のまぶたのなかのめざめかな」を。まるっきり想像の句ですが、まぶたがひらくのではなく、「なかの」という点で、いただきました。「夏蝶のまぶた」という不自然さもおもしろい。
信治::自分の「まぶた」か、という気もしますが。「山百合や壁のむかうは他人の死」はわからない。
天気::そうですか。私にはよくわかる気がするし、このタイプの句はたくさん目にします。「死ぬのは他人ばかりなり」という順当で当たり前の一般論の言い換えプラス季語。
信治::「掘りし穴埋めて帰らむ虹のため」も、おもしろくなりそうな気はしますが、失敗していると思います。そういえば、その俳句研究賞のとき「虹立つと大きな箒持つて出て」という句がありました。全体に、模索中、という匂いがぷんぷんします。
04 伊木勇人・月の引力
信治::パスですね。
天気::私もパスに近い。でも、「しおさいの海岸通り洋書市」というのをいただきました。上中の冗長さは見たとおり、十二音をムダに使いまくっているわけですが(笑、明るい。
信治::むきだしの若さでもなく、韜晦しきれているわけでもない。
天気::韜晦は感じませんでした。季重なり的に、季感が重複する、ぶつかる句が多い。「春空や汗をかくまで墓洗う」の「春空」「汗」「墓あらう」。「夏山は碧しひそかな平泳ぎ」の「夏山」と「平泳ぎ」。「滴りや裸足で渡るれんげ橋」の「滴り」「裸足」「れんげ」。これは確信犯というより、迂闊なのか、親切なのか、あるいはひつこい性格なのか。
05 内田麻衣子・男の子
信治::パスです。
天気::私もパスです。なにかひとことは?
信治::ううん。モチーフも言い方も……。パス、ということで。
06 大高翔・スペイン紀行
信治::これもパスですね。大パス。
天気::私もパス。この方は、若手のなかでは有名な方らしいですね。私は、お名前を見たことがあるという程度で、男性だと思っていたくらいですが、ホームページを拝見すると、マスコミへの露出を含め、積極的に活動されているようです。だから、すこし率直な感想を言ってもいいでしょう。まず韻律として入ってこない。中八がダメとかといった野暮は言いませんが、韻律がない。だから、俳句として読むことができない。「半島の真中へ着陸朝曇」「天窓に似合ふ明易の雨の音」などが端的です。
信治::わざと、とも思えないし。
天気::今回の8句は、韻律だけでなく、どの部分を取り上げてもツラいものがある、と思いました。
07 岡田佳奈 ふわふわした刺
信治::初めて見るお名前だったんですけれども、おもしろかったです。「遠くからつぎつぎと咲き著莪のはな」と「仙人掌にふわふわとする刺ありぬ」をいただきました。
天気::私は、仙人掌の句をいただきました。2句というのは評価が高いということですね?
信治::はい、ハマりました。「遠くからつぎつぎと咲き著莪のはな」は、たぶんデタラメというか幻想だと思うんですが、例えば、手前から奥の塀のほうまで咲いている花が、咲き継いでいるように見えたんでしょうか。
天気::地味な花ですよね。「つぎつぎと」なんて高らかに謳われることはまずない。その意味のおもしろさかもしれませんね。「仙人掌にふわふわとする刺ありぬ」は、軽さがいいですね。「ふわふわとする」という言い方、ちょっとぎこちないところも、なぜかおもしろい。
信治::そうですね。「ふわふわとする」という言い方は危ういですね。ほんとは「ふわふわ」は見た目だけの話で、「する」とは言えない。でもそれを「ふわふわとする」のだ、ということで幻想領域に踏み込んでいる。「著莪のはな」も、静止した景に、時間を幻視しているところが、面白い。
この人の「切れ」の弱い文体は、やっていることと、とても合っていると思いました。
天気::悪く受け取れば、散文的という批評もありそうですが?
信治::ただ、内容が、散文的ではないので。
天気::そうですね。一般に、形の上の散文性にこだわりすぎる傾向があるように思っているんです。発想が散文的なのに、かたちだけ韻文、というケースのほうが問題で。「て」や「ば」も同じようなことが言えます。よく、理がついてダメという見方をされますが、理屈になっていないものを「て」や「ば」でつなぐ確信犯的な処理はある。逆に、かたちのうえでいくら切れていても、理屈、それもごく順当な理屈でしかない場合も多い。
信治::この「ふわふわとした刺」は、すらっと言い切っていながら、内容が複雑骨折していておもしろいですね。
08 越智友亮・ハンモック
信治::「錠剤が口に張りつく鳥の恋」をいただきました。これは「あるある」感+季語ということで、よくある型なんですが、錠剤って、いつも口の天井に張りつくじゃないですか。その口蓋というドームと天空が釣り合っている。空のことを言うのに、錠剤を持ち出したところがおもしろい。
天気::これは巧い季語の斡旋。
信治::万能ですけどね、「鳥の恋」は。
天気::私は「新緑のホースの巻き方に迷う」。
信治::これも、いい「あるある」かな。
天気::気持ちがいい。終わりを読んで、そこまでの時間の気分を伝える、というのは、いいのか悪いのか知りませんが、わりあい好きなんです。「巻く」という終わりを詠みながら、撒かれた水の景や感触も伝わる。
信治::2句目に「囀りやサラダのお代わりは自由」というのがありますね。彼の「アタリ句」に「今日は晴れトマトおいしいとか言つて」という句があって、そういう一瞬のおもしろい言葉、耳に飛びこんできた言葉を拾おう、という意味で、この人の芸風になりつつあるのかも。
天気::その意味ではもっと日記風になっていいと思う。
信治::はい、だから、「海南風星の生まれるにおいかな」なんていうのはおもしろくない。俳句やポエムをやろうとすると大コケするみたいです。
天気::「重力が人にほどよしハンモック」は、俳句をやろうとした大コケですか。
信治::少し一般論になりますが、「あるある」句は、モチーフの段階である程度の評価を得られるし、あってもいいのですが、天井が知れている。「あるある」じゃなくなってくると、もっとおもしろい。
天気::身も蓋もない、日常ともいえないようなことが、日記風に綴られているような句。
信治::思わず聞き返したくなるような、ね。だから、期待は「サラダのお代わりは自由」みたいな句。この句自体は、それほどよくないし「またやってる」という声はあるでしょうが。
09 小野裕三・ぴったり入る
信治::良かったですね。「現代俳句協会若手」風の句は、どちらかというと苦手なんですが、これはたいへん説得力がありました。
天気::ということは、2句以上、ということですね。
信治::「滝の夜少女のような和室かな」「夏空に龍の仕組みのありにけり」「先生の耳の大きな夏座敷」。以上は小さな丸で、「新涼の箱にぴったり入る箱」。
天気::信治さんの4句のうち、「夏空に龍の仕組みのありにけり」にはうなずけない。「龍天にのぼる」という春の季語があるだけに、イメージ的な齟齬を感じる。のぼりおえて夏の空、という季語の遊び方と解するには、ちょっと無理があるように思うんです。「新涼の箱にぴったり入る箱」は、興味深い。というのは、この1句は伝統的な句ですよね?
信治::できちゃったんでしょうね。箱がしゅるっと入って、ひとつ消えてしまったような気持ちよさがあります。「新涼」のつけかたも、伝統的。
天気::私は「先生の耳の大きな夏座敷」をいただきました。
信治::「耳」はずるいですよね。
天気::「先生」もずるい(笑。「夏座敷」もずるい。
信治::そうそう、これね、いいモチーフを3つ集めて、しかも現代俳句として納得できる幻想部分を確保している句ですよ。だから、気持ちがいいんだ。
天気::小野さんは句集も拝読しましたが、句によって、異人(まれびと)なのか、隣の人なのか、わからないところがあって、さきほどの「箱にぴったり入る箱」は、妙に「隣の人」っぽい。どちらかというと、異人として行くとこまで行ってほしいというのが希望ですが、「先生の耳」の句は、異人と隣人、どちらの領域にも足をかけて、堂々と跨いだ感じ。このあたりが小野さんのいちばんの成果、いちばん美味しいところのように思います。
信治::あと「大西日解答用紙のような村」もおもしろいですね。
天気::この「海程」系の「ような」は、曲者でねえ(笑。嫌う人は嫌うでしょうが、こういう乱暴な「ような」もおもしろい。
信治::譬えだよ、とはっきり言ってくれているわけだから、そのように読めばいい。
天気::さきほど、かたちと実質にまつわる一般論ではありませんが、「ような」でつないだものがトンデモなければ、それはそれでおもしろい。半面、かたちのうえでメタファーであっても、擦り切れた常套を持ってこられたらどうしようもない。
10 如月真菜・御伽草子
信治::全体に、韜晦の度が過ぎるのではないか、という気がしました。さきほど言った「あるある」にとどまらない日常を書く方だと思うんですが、この8句に関しては、読む手がかりが「季語の情緒」しかない。いちおう「品書にさよりとあれば頷ける」をいただきました。
天気::私もその句をいただきました。季感を軽く読んだ感じ。この人のこれまでの路線とは違ってきている感じでしょうか。
11 倉持梨恵・本当
信治::パスです。
天気::同じくパス。コメントに「日記のように綴ること」とあるんですが、句はざっくりとした感慨プラス季語。「本当の涙は甘し春の月」「三十代目前といふ花疲れ」など、こんな日記ないだろ、と思ってしまう。コメントにあるとおり日記のようなら、おもしろい句は見つかると思うんですが。
信治::ふつうの人の日記って、こんな感じなんですよ。
天気::えっ? そうなんですか?(笑)
信治::出来事ではなく、思ったことが書いてある。
天気::あ、そうか。
信治::何を食べたとかのほうがよほどおもしろいんですけどね。
天気::そうそう。
12 神野紗希・捨てるとき
信治::「シンク暗し水中花の水捨てるとき」をいただきました。
天気::この「暗し」はどうですか?
信治::これくらい劇的にやってくれていいと思います。「水中花」って、ムード的というか情緒過多の季語じゃないですか。それを使うなら、これくらいでいいのではないかと。こういうやりすぎはアリかな、と。
天気::私がいただいたのは「船上の人と目の合う氷菓かな」。埠頭でしょうか、アイスクリームを舐めながらぶらぶらしていると、目が合った。なにげない句です。「船上の人」というと詩的ですが、遊覧船の客くらいに読みました。
信治::ちょっと気になったのは、例えば「文焼くに煙少なし桐の花」の「文焼くに」。「文を焼く」とすると、終止形にも読まれうるのがイヤだったから「に」でつないだ感じでしょうか。でも、この「に」がすごく邪魔なんですよね、意味が出て。それから「天道虫茎に無数の棘ありて」の「ありて」。わざわざ「ありぬ」じゃなくて「ありて」を選ばれたんでしょうけど、この「て」も、すごく意味が出てしまっていて。なにか、形にこだわりすぎている感じがしてしまう。
13 五島高資・信風
信治::これはねえ、やりすぎですよ、やりすぎ(笑。「麦に降る月の涙や五台山」を、やりすぎ「すぎ」を買って、いただきました。全体に、言葉の重複が多い気がします。1句目の「紫の雲や早蕨萌え立ちぬ」。「紫」が雲にも早蕨にもあって、早蕨は萌え立つに決まってるし。「信風や西日へ舳解き放ちたる」は、「信風」で舟を出して方角を持ってくる。えらくていねいに重ねたものだなあ、と。だた、ていねいにたくさん言葉を重ねて、濃密な世界、というあたりを狙ってるんだろうなと思います。意図はよくわかります。
天気::バロック的過剰へと傾(かぶ)いた感じといえばいいんでしょうか。私は「竹林に光やわらぐ黄砂かな」をいただきまし。これも、典型的な大陸モチーフ・中国モチーフをふたつ重ね合わせています。意図的な重層。ちょっとおもしろい。
信治::はい。厚塗りですね。「帰り来ぬ島は椿の実に満ちて」も好きですよ。演歌みたいですけど。
天気::はい、演歌ですね。さっきの五台山もそうですが、バロック演歌。
信治::無理なく、いろんなことを言っていて、おもしろいと思います。五島高資さんは、「土俗的」と言われたいということでしょう。
天気::狙いがわかるという意味では、ほかの多くの作品とは違いますね。
信治::はい。
14 榊 倫代・夏の窓
信治::「うつくしく蟷螂の吊り上げられる」はおもしろい。それと「産みをへて小さき窓や夏燕」は気持ちがいい。この2句をいただきました。
天気::私は「産みをへて小さき窓や夏燕」のほうをいただきました。窓から燕は、あまりにあまりな展開ですが、「産みをへて」の口調が妙におもしろかった。達成感ともいえない、諦観ともいえない(笑。
信治::おかあさん俳句は、全体にたくさんあったんですが、やはりみんな甘くなってしまっていますよね。そのなかでは、ということで。
天気::はい。私自身、正直をいえば、出産の句も吾子俳句も読みたくはない。でも、それほどイヤじゃなかったですね。
信治::ふつうなのに、ベタベタッとしない。
天気::うん、ベタつきませんね。「産声は噴水割れるあたりより」もそう。
信治::なんとかしようとしていることが「嬰とゐてしづかに息を吐く守宮」の、「守宮」に出ている(笑。
天気::ひとつ余計なことですが、「青トマトぶつけ少年探偵団」、なんでこれが1句目に?という(笑。
信治:: この40人の中には位置付けとして、いろんなカテゴリーの方がいらっしゃるんですが、この方は「結社の若手」というカテゴリー。結社の若手の方というのは「間違った成功体験」を引きずるケースがあって(笑。ひょっとすると、そういうところが出てしまったかと。こういう句が、句会で妙にウケてしまったのかもしれません。
天気::爺さん、婆さんに?
信治::はい。……まったくの邪推ですが。
天気::その邪推、当たっている気がする(笑。
15 佐藤文香・戯作
信治::これはねえ、困ったなあ(笑。
天気::えー!? パス、ですか(笑。
信治::どうしようかなあ。
天気::パスならパスでいいんじゃないですか。ハイクマシーンの活動上、支障をきたさないなら(笑。
私は「明るみを鳥の歩める皐月かな」をいただきました。「夜濯ぎの匂ひの冷えて樹々の夢」と迷いましたが、匂い→冷えるという操作にやりすぎを感じたのと、「樹々の夢」というポエティックな処理が引っかかって、「明るみを」の句の気持ちよさをいただきました。
信治::「明るみを」の句はたしかに韻律がおもしろいですね。全体に、あまり、やってないようなイメージのぶつけ方を、いわゆる俳句的な二物の衝突ではなくて、文体のなかで、にじませながら、イメージが重層するようなところを狙っているんだと思うのですが、まだ成功していないように思いますね。
16 塩見恵介・泉こぼ
信治::この方は、このあいだ東京新聞に、佐藤文香さんと並んで載ったんですが、お二人とも、そのときの句のほうがおもしろかったですね。今回は、ううん、パスですね。
天気::私はいちおう「梅雨晴れの東京タワーにも浮力」を。「梅雨晴れ」はそうとう安易だとは思いますが。
信治::梅雨晴れだから浮力…。
天気::因果めいてくる。ひとつ、ツッコミを入れたい句があります(笑。「珈琲のどれも山の名窓若葉」って、「どれも」じゃないし(笑。キリマンジャロとブルーマウンテンくらい?
信治::あと、えらい気持ちのいい季語ばかり持ってきましたなあ、という感じもあります。はつなつ、新樹光、泉、ヨット、窓若葉、リラ冷え、夏つばめ、梅雨晴れ。わざとでしょうけど。
17 篠崎央子・釣忍
信治::この人、私が言うのもなんですが、お上手というタイプじゃないと思うんですが、おもしろい、と思いました。いただいたのは「ハンカチを出すたび何かこぼれゆく」。このダメさはちょっといいな。
天気::うん、「何か」ねえ。
私は「風鈴や胃に広がりし胃の薬」。中下はどうということのないフレーズですが、風鈴との取り合わせがいいです。
信治::おなかが痛い感じがよく出てます。
天気::早く治ってほしんだろうなあ、と(笑。
さきほどおっしゃった「上手じゃない」というのは?
信治::「胃に広がりし」という言い方の無防備さ、それから「ふやけたるままの石鹸守宮鳴く」の「ふやけたるままの」という言い方は、そうとうまどろっこしい。
天気::なるほど。この人は季語の使い方がおもしろいですね。石鹸から「守宮鳴く」とか。
信治::そうですね。「甘海老を舌で潰しぬ川床涼み」は、甘海老を舌で潰すという気持ちの悪い描写に、「川床涼み」を持ってきた。身も蓋もないものと、風鈴とか川床涼みとか釣忍といった確固たる風流をぶつけてみる、という。それにしても、この甘海老は気持ちが悪いですね(笑。
天気::あまり、いい店じゃないですね、この川床は(笑。
信治::うん、この人は好きでした。おもしろい。あ、コメントに「風流人とは」とか書いてありますね。わざとだ、わざとだ(笑。いや、ちがうかな、天然の方なのかな。
18 庄田宏文・シャム国
信治::これはよくわからなかったなあ。
天気::海外詠ですね。私はぎりぎり「シャム国の一部となりて大昼寝」。気持ちのいい昼寝だったんだろうな、と。
信治::たしかにタイで昼寝は気持ちよさそうです。
天気::凡庸な把握が目立ちますね。「夕立や一掃さるる街の音」とか。
信治::「夏草やあまねく錆びし象の檻」の「夏草」と「錆」とか、ね。
天気::凡庸なら、すべてダメかというと、そんなことはなくて、凡庸さから気持ちよさが生まれるケースもないことはない。でも、それはなかなか難しい大逆転です。
19 杉浦圭祐 五月
信治::全体に素敵すぎ、ですね、モチーフが。
天気::なるほど。
信治::「駅を出て木が立つていて夏の風」は、「駅を出て木が立つていて」まで身も蓋もなくていいのに。
天気::あはは。「夏の風」はないですよねえ。
信治::ないですねえ(笑。「夏の風」は惜しいなあ。
天気::私は「舌の根の筋肉太し鯉幟」をいただきました。ヘンなところに目をつけたな、と。どうでもいいところの発見。
信治::鯉幟を眺めながら、口が開いていたみたいでおもしろいですね。凄くつまらない句も多い。どちらが本当なのか、わからないので、推移を見守りたい。名前は覚えました。
20 砂原サロ・らんらんと
信治::パスです。
天気::同じくパス。
信治::吾子俳句ですね。おかあさん俳句は、こうなっちゃうんだよなあ、という感じです。
(次号につづく)
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2007-06-24
「新鋭俳人競詠」を読む(前編)
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