聖母的な女性 ……雪我狂流
西原天気人名句集『チャーリーさん』(2005年)より転載
子供の頃、現実が理解できるようになったと同時に、つまらない現実と違う空想の世界を作っている自分がいました。それらはラジオ、テレビ、映画、雑誌などのマスメディアの情報の処理の一つの方法でしたけど、その空想の世界の自分は田舎の貧乏な家族のひとりでなく、東京の山の手の裕福な家のすてきな家族のひとりでした。
それではその空想の家族を紹介します。姉はラジオ「一丁目一番地」の黒柳徹子。妹は童謡歌手の小鳩くるみ。父はテレビ「ただ今十一人」の山村聡。そして母は木下恵介とか小津の映画の東山千栄子(*)でした。
現実の母よりも、映画「若大将」シリーズの加山雄三のおばさん役の飯田蝶子よりも年上でしたが、あのふくよかな、すべてをゆるしてくれそうな僕の理想の母親像にピッタリでした。
小津の映画の人々は悪人はいなくほとんど善人ばかりです。男性は、ほとんど普通の人々ですが、女性は聖人的な人と俗物的な人に分かれています。俗物的な女性はもちろん杉村春子です。そして聖人的な女性は原節子、そして聖母的な女性は、東山千栄子ではないでしょうか。木下恵介の映画「お嬢さん乾杯」では没落貴族のお嬢さんに原節子、その母親が東山千栄子でありました。聖母・東山千栄子に乾杯!
(*)東山千栄子 ひがしやま・ちえこ 1890-1980 千葉生れ。結婚後、女優を志し、1925年、築地小劇場の研究生となる。27年映画デビュー。小津安二郎「東京物語」等に出演。
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